新たなメンバーを迎えて
するとそこには『シュンミン』の士官が集まっている。
今回の辞令で、新年度から士官に昇格する下士官も同席していた。
「司令……で良いんですよね、これからは」
「ああ、まだ艦長と兼務だが、もう悪あがきはしないよ。
何かな、艦長」
「私はまだ副長です」
「俺と一緒だ。
悪あがきは止せ。
安心しろ、旗艦は『シュンミン』だ。
今までとそうは変わりないから。
それよりなんだ、聞きたいことがあったのでは」
「ええ、突然呼ばれましたが何かあるのでしょうか」
「俺も知らん。
多分、2番艦就航について、発表があるのでは」
暫くすると会議室の扉が開き、殿下を先頭にマキ姉ちゃん、その後ろに6人ばかり人が付いてきた。
副長が号令をかける。
「傾注!」
流石に訓練された軍人だけあって、こういった号令がかかると一斉にその姿勢を取る。
殿下が中央に着くと、今度は「敬礼!」と号令がかかり、全員が殿下に敬礼する。
「皆さん、楽にしてください。
そうですね、座りましょうか」
殿下のこの言葉を聞いて皆席に着き、何が起こるのかと考えながら殿下の次の言葉を待った。
「前に集まった時にお話ししました2番艦ですが、いよいよ来月から就航させます。
2番艦の艦長に『シュンミン』第三席のカリン中尉が就任します。
それと同時に旗艦『シュンミン』の艦長であったナオ戦隊司令の艦長職の兼務を解き、代わりにメーリカ副長をもって艦長に就任してもらうことになりました」
この時をもって正式に全員に周知させたことになる。
噂でほとんどの者がすでに知っているので、それほどの驚きはない。
「ですが、まだそれ以外については決まってはおりませんし、何より今までの人員ではとてもではありませんが足りないことは私も知っております。
ですが、私たちの組織は今ではこの国に無くてはならない存在にまでなりつつあります。
王宮でもそのことを認識してくれまして各組織から応援を頂けることになりました。
本日全員をお連れするわけには行きませんでしたから、士官の人だけ先に皆様にご紹介させてください。
マキ本部長、続きを」
「ハイ、殿下のお話にありました応援ですが、コーストガードと宇宙軍からそれぞれ3人の出向者をお迎えしました。
コーストガードの少尉の皆さんから自己紹介をお願いします」
そう言って、コーストガードの制服を着た少尉が一人一人自己紹介をしていく。
あいにくだが、誰一人俺は知らない。
まあ、俺にとってコーストガードとの付き合いのあるのは第三巡回戦隊くらいで、それ以外はほとんど知らない。
いや、第三巡回戦隊でも在籍期間がとても短いこともあって、乗艦であった『アッケシ』の乗員の一部しか俺は話したことが無いので、今回紹介されている少尉の誰一人知らなかった。
メーリカ姉さんも、それ以外の乗員も俺とそんなに変わらなかったようだ。
彼女たちもメーリカ姉さん以外は士官ですらなかったので、士官との付き合いなど無いのは頷ける話だ。
一通り紹介が終わると、次は宇宙軍から来た3人だ。
この3人は俺がよく知る連中だ。
ある意味俺たち全員の恩人といえるマークを始め、俺と同じ士官学校を卒業した同期だ。
だが、彼らもメーリカ姉さんたちにとっては先のコーストガードからの士官と何ら変わりがない。
面識が無いのは一緒だ。
そのマークから自己紹介が始まる。
今回、紹介をコーストガードから始めたのには理由がある。
出向者にとっては一階級格下に見られがちなコーストガードではあるが、公的には階級が物を言う。
同じ少尉ならば先任順でより敬意を払われるので、先任順でコーストガードから紹介されたわけだが、これが宇宙軍から来たのがマーク達でなければちょっとややこしいことになったかもしれない。
まあ、そういう時にはコーストガードや宇宙軍と分けずに先任順に紹介するだけなのだが、それになにより、まだ少尉にすらなっていないマーク達だからこうなっただけの話だ。
で、最後にマキ姉ちゃんが俺に話を振ってきた。
「我々広域刑事警察機構は来月1日をもって新組織として立ち上がると同時に我々にも軍が作られます。
旗艦『シュンミン』と2番艦『バクミン』の2隻をもって広域刑事警察機構軍となり、その初代戦隊司令に、今まで戦隊司令職を担っていたナオ・ブルース戦隊司令がそのまま就任します。
戦隊司令殿、お言葉を」
「な、な、何を急に」
「そうですね、ナオ司令、皆さんにお言葉をお願いできませんか」
「殿下まで……分かりました」
そこまで言われれば俺は前に出ない訳にはいかず、マキ姉ちゃんに居た場所を代わってもらい、皆に向かって、適当なことを話し始めた。
「シシリーファミリーの殲滅は終わった。
だが、この国には他にもたくさんの海賊が居る。
海賊だけでなく、不法な者はあまたいるが、今までどの星の警察も立ち入ることのできなかった聖域に私たちは立ち向かっていく。
だが、私は無頼を許すつもりはない。
危険な仕事だとはわかっているが、幸いなことに我々は怪我人こそ出したが殉職者を誰も出さずにここまで来た。
これからも、いや、これからは怪我人すら私は出すつもりがない。
そのことを、部下を預かることになる君たち一人一人がしっかり認識してほしい。
以上だ」
自分で話していてなんだが、ずいぶんと偉そうな云い様だな。
あとで、録画でも見せられたらそれだけで悶絶して死ぬことができるかもしれないレベルだ。
かといって、いつものように話すわけにもいかないし、早くメーリカ姉さんやカリン先輩にこの職を譲りたい。
そんなこんなで、会議も終わった。
連日パーティーともいかないので、下士官や一般それに就学隊員たちを交えて後日歓迎会をすることを伝えて、解散した。
だが、俺には、仕事が残る。
肝心の人事だ。
2隻の軍艦を預かるのは良しとして。
良くはないがそうなった以上はそれに従うが、真剣に考えなければいけないことだ。
俺とメーリカ姉さんにカリン先輩はもちろんの事、殿下とマキ姉ちゃんを加えて、持ち込まれた人事資料を前に検討を始める。
「まずは士官からかな」
「艦内配備は、それぞれの艦長に一任するが、それ以前に、旗艦や二番艦に誰を回すかだ。
当事者である2人には希望や意見はありますか」
「艦長、失礼しました、司令。
希望と言われれば私はできる限り現状はいじりたくはありませんが、そうもいかないでしょうね」
流石に毛の生えた心臓を持つ……「司令、何か失礼なこと考えていませんか」……失礼しました。
メーリカ姉さんは物おじせずに希望を言ってきた。
正直、ありがたい。
何も言わずに後で文句を言われるよりはこちらの方がなんぼもましだ。
「人事資料を見る限り、コーストガードから来た人たちの経験は十分ですね。
何より初めてのことばかりですから、誰が来たって私の方は変わりませんから、副長……失礼しました。
まだなかなか慣れませんね。
メーリカ旗艦艦長の希望にできる限り沿っても良いかと。
ただ、その代わりに、経験のあるコーストガードからの士官三人はこちらで頂きたいかなと」
「この際どうでしょうか。
2番艦ですが、とにかく新コンセプト満載の艦ですし、カリン艦長のやりやすいように新たに加わった方を中心に下士官や一般の兵士で調整しては」
そう言うのは全体をまとめる責任のあるマキ姉ちゃんだ。
「そうですね。
人事資料を見る限りは、どなたも優れた方の様ですし、カリン艦長に問題がなければ今回応援に来た方を中心に組んでみてはいかがでしょうか」
殿下はそう言うと俺の方を見る。
艦隊の最終人事権は俺にあると言わんばかりだ。
「2人に問題がなければ、私としても異存はありません。
士官については、そのように決めましょう」
そう言って、士官の配属先が決まった。
その後は下士官について決めて行く。
こちらは機械的にはいかないので、人事資料を見ながら調整していく。
特に機関関係の部署で、下士官や慣れている兵士を多く二番艦に回して調整する方向で配属をきめた。
なにせ、うちの艦の機関は軍では使わないものだ。
どちらかと言うと民間から人を連れて来た方が慣れているんじゃないかともいえる。
まあ、『シュンミン』としてはマリアが居れば最終的にはどうにかなるし、あいつのことだ直ぐに部下も育つだろう。
マリアは、性格はともかくとして、優秀なのは衆目が一致するところだ。
最悪、あいつ一人でもあれならどうにかなるし、何よりあの性格だ。
誰もが生き残るために必死で勉強するので、部下の育ちが早い。
そんなこんなで割と揉めずに配属が決まっていった。
手探りで始めていくことだし、問題があればすぐにでも修正ができるのがこじんまりした組織の良い所だ。
あとは、新年度の組織の発足を待つばかりになった。
これで、この章は終わります。
前章では終わってから気が付くと2か月も経っていたので、次はそうならないように気を付けますが、次章はしばらくお時間をください。
あと、恒例になっておりますおまけをすぐに載せますので、その後は少しお休み。
今年もこの時期になりました。
また、作者の悪い病気が発病して、新たな物語を始めました。
ジャンルがSFでなくハイファンタジー作品となっております。
よりしかったら、そちらもお楽しみいただけたら幸いです。
作品名
異世界でハーレム造って奴隷解放
~ヘタレな屑が織りなす異世界紀行~
八月上旬までは毎日UPします。




