知らないところでの応援者
「君たちはまだ宇宙軍の軍人でもあることを忘れないでくれ。
以上だ」
「ありがとうございます」
そう言って俺とカリン先輩は貰ったばかりの辞令を脇に抱えて敬礼した。
「辞令交付は終わったから、これからはプライベートだ。
ちょっと付き合え」
そう言えばこの人って偉い人なのにかなり砕けた人だったな。
「しかし、つくづくお前って面白いな。
流石に今度はお前の最短出向記録は塗り替えることができなかったが、記録上5か月だからお前のレコードよりも一月多いがそれでもダントツだ。
それも運だけじゃないから凄いよ。
つくづくお前のような奴を軍で生かしきれなかったことが悔やまれる。
今日も、部下に発破をかけたんだが、出自や成績だけで判断せずにもっと公平な目をもって人を見ろって言ったんだが、どこまで分かってくれたか。
まあお前らも、これからが正念場だ。
これまで以上に、あの王女殿下には敵も増える。
貴様にも直接当たって来る敵も出てこようが、これまで以上に王女を守ってほしい。
貴様自身も十分に気を付けろ。
カリンの嬢ちゃんも同じだ」
あ、この人はやはり殿下の味方だったんだ。
「提督、私は殿下に忠誠を誓うものです。
未熟ながらも最大限力の及ぶ限り殿下をお守りします」
「おじ様。
大丈夫ですよ。
今では殿下も司令のような力強い味方が増えておりますし、最近始めたことで、王国中の警察も味方になってくれるでしょうから、そうそうあいつらには負けません。
私たちを、いつも通り見守っていただけるだけで十分です」
あ、やっぱりカリン先輩も知り合いだったようだ。
でなければ、俺だけでなくカリン先輩の昇進だって、軍の慣例を完全に無視する行為になるからどこかで邪魔するはずだし、今日の辞令交付でも皮肉の一つも出てきても不思議はない。
それが全く感じられないなんて……あ、そうか。
入り口での栄誉礼もそのためなのか。
ここ宇宙軍本部には提督のような人は圧倒的少数で、大多数は俺たちを快く思っていないだろうから、いらない邪魔を防ぐための措置でもあったのか。
まあ、俺の見たところあの提督は、そこを指摘してお礼を言ってもとぼけるだけだろうから何も言わずに深々と頭を下げて応接室を出た。
この後色々と手続きがあるのだが、そこは秘書官であるイレーヌさんがしてくれると言うので、俺たちは応接室に近い控室で待つことにした。
やる事も無いので、控室に置いてあった軍報を手に取り何気にぱらぱらと見て行く。
「艦長、何かありますか」
「ああ、俺たちが載っているぞ。
この軍報昨日付けの最新版だな」
「流石に本部ですね。
これが宇宙に出ていると平気で一月かかる場合もあるんですよ」
そう言うとカリン先輩も軍報を手に取り中を見て行く。
この時期の軍報は当然人事情報に大部分紙面を割かれており、かなりの人の昇進を載せている。
「同期はどうなったかな」
カリン先輩はそう言いながら軍報の最後のページを探していく。
士官学校を出て3年目を迎えようとするカリン先輩の同期は、慣例ではほとんどが今年少尉に昇進していく。
一年で准尉から少尉に昇進できるのなんて恩賜組くらいだと聞いているから、ほとんどの人は今年の昇進だ。
となると、俺の同期も恩賜組なら昇進もあるのかな。
そう思い、俺もカリン先輩のように同期を探した。
軍隊はとにかく縦社会だ。
2人以上の人が居れば必ず順位づけられる。
階級での順位付けは当然で、同じ階級でも先任順で順位づけられ、先任順でも順番が付けられないと卒業した士官学校や、卒業時の成績で順位づけられるから、俺の同期などは後ろから探した方が早い。
准尉から少尉になるのに普通の士官学校出なら3年、早い方で5年くらいかかっての昇進もあり得るのだ。
そういう人が先任順では上になるから、俺の同期は先任順で一番後ろになる。
だからすぐに見つかったのだが、驚くことに今年は3人しか名前が挙がっていない。
しかも、その3人が俺の良く知る連中で、しかも恩賜組ではない。
恩賜組が1人も名前が無いのに驚くとともに、何故?という疑問で一杯だ。
なにせその3人というのが俺の数少ない友人のマークと、それにマークと一緒にシシリーファミリーのスペースコロニー制圧に参加したソフィアとエマだ。
これって、あの時の功績が軍に認められたというか、恩賜組のほとんどが第二艦隊に回されてからのあの事件だ。
完全に俺によって割を食った格好だろうな。
ひょっとして俺って恨まれる。
いや、俺だけでなくマーク達も下手すると同期全員、いや、全員ではないだろう。
割を食った格好なのは恩賜組だけだろうからな。
でも恩賜組だけでも10人は居るから作らなくてもいい敵を新たに10人作った格好だな。
まあ、今回はマーク達も一緒だろうから4人で割れば1人につき2人強って感じか。
何か違うような気もするが、今度会ったら仲良くしておこう。
同じ脛に傷を持つ身だからということで。
そうこうしているうちにイレーヌさんが軍服を持った職員を連れて戻ってきた。
普通は尉官から佐官にでも変わらない限り新たな軍服など要らないはずだが、いや、礼装以外は階級章だけの変化だから、それでも異常だ。
ましてや俺たちのように尉官内での昇進ではありえないことなのだが、新しい軍服を2人分持ってきた。
「戦隊司令殿。
こちらに登録されておりますサイズにお変わりはありませんでしょうか」
「いや、変わらないとは思うが。
と云うよりも今は出向中の身だから使うこと無いのだけど」
「上からの指示が出ております。
こちらをお持ちください。
登録されているサイズで作ってあります」
軍服など数段階のサイズしかないからありあわせの物だろうが、それでも新品の大尉の階級章の付いた軍服を貰った。
「あ、ありがとう」
カリン先輩も同様に中尉の軍服を貰った。
宇宙軍では俺たちにかなり気を使っているようだ。
まあ第二艦隊があれだけ大事なことをしでかせば、それに軍全体と云うよりも第一艦隊だけのようだが、かなり貸しを作ったこともあるし、そう言うのもあるのだろう。
なんか複雑な気持ちになりながらも玄関口まで案内してくれる士官が来たので、その人について車まで向かった。
今日は俺って本当に偉い人のようだと思いながら広域刑事警察機構の本部が入るあの雑居ビルに向かった。
本部の入り口で、会議室に行けという伝言を受け取ったので、俺たちはそのまま会議室に直行した。




