王宮での式典
今はいわゆる年度末と言われる時期だ。
来月から新たな会計年度が始まるのに備えるかのように、王国全体が忙しくなってくる。
各政府機関は、今年度の総括を終え、白書の類を作り、関係各所に発表していく。
多くは、国民にもマスコミなどを通して公表されるが、当然秘密扱いで、閲覧制限のある物が多数作られるのもこの時期だ。
そのためこの時期は、王国の各政府機関はどこも死ぬほど忙しい。
そんな時期に、この国の慣習にもなるが、昇格などの人事異動も行われる。
また、総括を受け王宮では叙勲など賞罰の発表も行われる。
あと2週間もすれば新年度という、本当に忙しい時期に、王宮大広間で毎年の恒例となる叙勲式が盛大に執り行われた。
今年は、カリン先輩率いる艦載機チーム全員に対して艦載機での海賊船討伐の成功を受け、勲章として最低格の9等ではあるが、チーム全員が叙勲される運びとなった。
帝都にいる貴族達が見守る中で、陛下の御前にて侍従長より対象者に勲章が手渡される。
今回は俺もマキ姉ちゃんと一緒に最後尾で見守る中カリン先輩が勲章を受け取っている。
カリン先輩の後にも各組織の推薦を受けた人たちが次々と叙勲されるので、叙勲式だけでも午後の予定は全て吹っ飛ぶ。
途中退席など許される筈も無い。
うちの親分でもある殿下も、最後までにこやかに式を見守っているのだ。
当然陛下もそうだが、これは貴族の義務でもあると聞いた。
だから俺のように招待されただけの平民が途中で退席するといった失礼が許される筈も無い。
その俺たちが招待された理由は当然な話で、叙勲者の上司というだけなのだから、招待イコール召集となる。
参加が義務となるために、俺もマキ姉ちゃんも大人しく式の最初から最後まで見守っている。
しかし、これほど時間がかかるものだとは思わなかった。
俺の時には殿下が来て、軽くお言葉を頂いて勲章を渡されただけなので、俺の他小隊員全員の叙勲を待ってもそれこそ1時間もかからなかったのだが、王国全体からそれこそ多数の叙勲者を集めての式なので、各々にはそれこそほとんど時間をかけていないが、全員となるとたまったものでは無い位に時間がかかる。
誰一人として無駄な時間を使っていないにも関わらずだから、この忙しい時期になぜやるのかと毎年のように一部から批判が出るのもうなずける。
ようやく式が終わっても、叙勲された人たちは自身の所属組織に戻り、お祝いされるのが恒例の様で、うちとしても本部にある大会議室に準備させていると先ほどマキ姉ちゃんから聞いた。
当然、カリン先輩の上司である俺も強制参加だ。
この叙勲式が終わると、翌日には国民に対して叙勲者の発表と共に、新年度からの組織の改編などの発表も行われる。
特にうちとしては準備室だったのが、正式に政府機関として大臣格の長を持つ機関として発足されることが発表される。
殿下列席のお祝いパーティーを賑やかに開催した翌日には、また忙しい日常が戻る。
我々広域刑事警察機構も準備室でない機関として組織の改編が行われるのに合わせて職員全員に新たな辞令が交付される。
管理職以上は殿下の部屋に呼ばれて一人一人に辞令が交付される。
既に月初めに全員を集めた会で新組織の内容はマキ姉ちゃんから説明されているが、今回貰う辞令でマキ姉ちゃんは正式に実質的なNo.3になることが内外に公表されるのだ。
国の本庁の部長職でも快挙だと言われているのに、実働部門のトップであり、組織のNo.3になると国民全員に対して発表されるため、国民は驚きとともに、庶民の星とばかりに喜ばれていた。
当然、これに対して面白くない連中も特に貴族に多数いるが、その貴族連中に最大のダメージを与えている組織に成長している我々広域刑事警察機構に、おいそれとは手は出さないだろう。
なにせ、今は王宮監査部と蜜月関係にあることは広く知れ渡っている。
それを分かっていても自爆するような貴族は既に先の取り締まりなどで、大方潰されているから、今のところは直接俺たちに何かあるとは思えない。
だが、油断はできない。
出る釘は打たれるの喩えじゃないが、俺たちに少しでも隙ができれば途端に攻撃されることは誰もが感じている………訂正、ダイヤモンド星にいる財務関係の職員は除く。
彼らは、どちらかと言うと、俺たちに攻撃してくる側になっているからだ。
殿下は当然それを承知しており、彼らに対して警戒を解いていない。
そんな人たちに対しても殿下は辞令を渡していく。
貴族たちからの圧力で嫌々ながら受け入れた財務関係の者なども例外なく内勤者すべての辞令交付が終わると俺たち実働部隊、外回りの職員への辞令交付だ。
何と今回の辞令交付でコーストガードから出向していたメーリカ姉さんたちが正式に移籍となり、一階級の昇進をもって迎えられることになった。
それに合わせて出向組の俺たちも一階級昇進扱いには……なっていない。
だが、俺は宇宙軍中尉から出向者として広域刑事警察機構軍少佐となった。
今その辞令を貰っている。
なんで??
何で少佐なんだ?
一階級の昇進ならば大尉だろうに。
しかも先の説明では出向者には特進は無いと説明されたばかりだ。
俺が疑問を持った。
「何故私が少佐なのですか。
一階級昇進ならば大尉のはずですが」
「あら、まだ連絡が来ていなかったのですね。
貴方と、カリン少尉には軍から昇進の連絡がありましたのよ。
新年度初日から一階級昇進させると」
「え。
また昇進ですか?
それ間違いですよ。
私はまだ軍歴1年未満ですからね。
聞いたことがありません」
「そうでしょうね。
私も軍歴1年未満の学校を卒業したばかりの士官が『英雄に贈るダイヤモンド十字章』を叙勲されることなど聞いたことがありませんでしたのよ。
後で調べても、生者に贈られたのは初めてだそうよ。
貴方の部下の方たちに贈られた『英雄に贈るダイヤモンド章』ですら生者に贈られたのだって僅か数件しかないのだとか。
貴方は初めから異例続きなのですから、何を今更ですか。
と云うことで、あなたに少佐の階級を贈ります。
それと、来月1日をもってあなたの『シュンミン』艦長職を解きます」
「降格ですか。
それとも出向解除とか」
「は?
何を言っておりますの。
私の話をきちんと聞いておりましたか」
「ハイ。
それに前に仕出かしたこともありましたし。
どのような処分も、私は甘んじてお受けいたします」
「絶対に誤解されておりますね」
「誤解ですか?」
「今までのあなたの職責はなんでしたっけ」
「ですから『シュンミン』の艦長です」
「それだけですか。
お忘れの様ですが、戦隊司令の職も兼務していた筈ですよ」
「あ、はい。
そうでしたね。
でも、指揮する戦隊と言っても……」
「ですから、予てから準備しておりました2番艦『バクミン』が組織の発足と同時に就航します。
貴方にはその二隻の戦隊の指揮を執ってもらいます」
「は?」
「ですから、新たに組織の発足と同時に、我らの広域刑事警察機構に軍を作ります。
貴方は、広域刑事警察機構軍の初代戦隊司令として着任を命じます」
「2番艦が就航ですか。
………
殿下、しかしそれでは誰が2番艦の指揮を、いや、『シュンミン』の艦長も誰が……
カリン少尉ですか」
「ハイ、カリン少尉も今回の昇進に合わせて艦長職についてもらうことになりました。
後でもっと詳しくご説明しようとしておりましたが、簡単に説明しておきますね。
2番艦艦長にカリン中尉が着任します。
で、『シュンミン』の艦長職はメーリカ中尉にそのまま昇進してもらいます」
「え?
中尉ですか?」
「ええ、カリン少尉もあなたと一緒に宇宙軍から昇進の知らせを受けております。
ですので、カリンも新年度からは宇宙軍中尉となります。
ですので、こちらでもそのまま中尉ということで」
「私は大尉が少佐になりますが……」
「あなたは特別です」




