懲戒処分
まあ、法律的には問題は無いかとは思う。
組織の資金の不正流用などはしていない……していないよな、していない筈だ。
なので公金横領などの問題にならないし、だとしたら、何の問題があるのか?
あれ、軍ならば絶対に降格処分くらいは食らいそうな問題になるよな。
俺の命令による部下の暴走だ。
今回の場合、艦長通達の不備になるだろう。
その不備による部下の暴走。
何だろう。
不要な私物の艦内持ち込み。
うん、まずこれだが、密輸でもないし、そもそも、不要か。
いや、無人の艦載機は俺たちにとってかなり使える武器となるだろうし、不要とばかり言えない。
そうなると、問題は何だ??
そんなこと考えながら殿下にお会いして、事の顛末を報告。
その後進退伺を出して謹慎となるつもりだったが、殿下も先の俺と同様に疑問を持たれた。
「司令。
ことの顛末は良く分かりましたが、何が問題なのですか」
そうだよな。
俺もそれを考えていたんだ。
確かに軍では絶対に問題視される案件だ。
だが、何で問題視されるのかが問題だ。
組織の意に反して武器を開発したことか。
確かにこれは大問題となるが、ふつうこの場合、資金の不正流用と絡んでくるので、法律上でも検挙される。
しかし、俺たちの場合それは無い。
となると、次になんだ。
不正流用が無い案件でも、作戦行動に関して不要な私物を無許可で艦内持ち込みになるか。
先にも言ったが不要かどうかはこの際置いておいても、無許可で艦内持ち込みの案件。
しかも、ことが大事になる場合、艦長の通達により許可されたことになると、まず軍では処分対象になる。
たとえ降格にならなくとも、艦長職は解かれるのが普通だ。
カリン先輩もそのことをしきりに気にしていたようだが、気にするのなら初めからしなければいいのに、あの人の場合、何故か艦載機に関することになるとポンコツになるような気がする。
今度の場合でも、カリン先輩も直接殿下に詫びを入れていたとか。
まあ、あの人は殿下の御友人なのだからそんな芸当ができるのだろうが、先の殿下の質問に俺は答えることができなかった。
すると殿下は笑って俺に言ってきた。
「問題が分からないと、処分のしようがありませんよ。
あ、処分のしようも無いのに進退伺を出した司令には注意とします。
これって、懲戒処分になりますわよね。
これで気が済んだかしら。
もし、それでもまだというのなら、今すぐにとは言いませんが何か考えますね。
今回は、一旦これで終わりです」
「あ、ありがとうございます」
………
しかし、何だ?
理由も無く進退伺を出したことに注意って、まあ、一応懲戒処分を受けたのだし、良しとするか。
その後はトムソン室長を交えて殿下と捜査員たちとの面会が始まった。
面会と云うよりも、殿下主催の会議だな。
捜査員の感想や、問題に感じたことなど色々と話し合う。
一連の話し合いの後に、トムソン室長が先の不審船の扱いについて問題提起してきた。
「この方たちを御乗せした時にはありませんでしたが、別の星系から捜査員をお連れしている時に不審船を見つけ、拿捕しました。
ただ、その時に、法的に我々には臨検の権限がないことが発覚しました。
正式に組織が立ち上がる時には臨検の法的根拠を持つ必要を感じました」
「今回は、法的根拠なく、臨検をなさったのですか」
「いえ、そうではありませんでした」
「正直、それも考えましたが、流石に違法行為ともとられかねませんから、あの時我々にできる範囲では不審船の後を付けて、軍なりに応援を頼むことですかね。
ですが、それですと時間ばかりかかり、お客さんにご迷惑をお掛けすることになりやしないかと」
「では、どうしたのですか。
そういえば、ついこの間ニュースに出ていた件ですか、今話したと言うことは」
「え、ニュースになりましたか」
「ええ、何でも初の快挙かと」
殿下がおっしゃった件は、なんでも初の快挙として話題になったとか。
今まででも地元警察が密輸船を摘発したことはあったが、それはあくまで地元警察の宇宙港での話。
しかも、その場合には必ず、不審船の親玉に当たる貴族と敵対する貴族からの応援があってできたことだとか。
今回は、そのような外部からの茶々も応援も無い状態で、しかも宇宙での現場を押さえたことが初の快挙として王国中に知れ渡ったそうだ。
宇宙空間にいるとそういう話題に疎くなり、正直知らなかったか、どうもかなり大事にまでなっているのだとか。
軍の一部と貴族連中の内、怪しい動きにある貴族たちからは評判が悪いとも教えてもらえた。
「では、どう云う手品をお使いになさったのですか。
私としては、権限が無い状態で無理やりなさらなかったと言うことで正直ほっとしております。
でないと、ここにも貴族連中が押しかけてこないとも限らない」
「何やら私の知らないところでご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません。
今回は、運が良かったとしか言えませんね。
警察の方から職務質問ならできそうだと聞きましたから、地元警察からの要請ということでお手伝いをさせて頂きました」
「職務質問ですか?」
「ええ、いわゆる職質という奴です、殿下」
トムソンさんが俺に代わってその辺りを説明してくれた。
「法律的に、警察官の権限で、怪しい者には任意で職質を掛けることができます。
任意とは言いますが、私たちもプロですから、早々悪人には遅れは取りませんよ。
案の定、直ぐに尻尾を出して御用となったわけです」
「お話を聞いておりますと、少々ご無理をしたようにも聞こえますが、問題なさそうですね。
問題があれば、直ぐにあの方たちから何か文句の一つも出るでしょうが、分かりました。
私の方ではできる限り速やかに法的根拠を頂いてまいりますから、もうしばらくご面倒をお掛けしますね」
その後、問題点などいくつか話し合った。
その席上で、気になることを聞いた。
なんでもシシリーファミリーのテリトリー内の海賊を野良も含めてほぼ駆除できたようだが、それに代わり違法船が増えているのだとか。
ほとんどが御禁制の品を運ぶ密輸船で、首都星域内でも相当数の不審船をコーストガードが検挙しているそうだ。
今まで海賊相手にうまい汁を吸っていた貴族連中の新たな資金源になっていたようで、今回の快挙もその貴族連中にとっては相当面白くないが、いかんせん首都星域内ではコーストガードがきちんと仕事をしているので、なかなか収益が上がらない。
そこでコーストガードのテリトリーの外での商売にシフトを移そうかというさなかに、地元警察に宇宙で検挙されたと聞いては、彼らも相当に困っているのだろう。
しかし、そんな彼らからの圧力がかからないように、あの時にはトムソンさんの部下が付いており、圧力がかかる前に兆候を捕まえた端から潰していったそうだ。
前にシシリーファミリーの拠点潰しの折に人脈のできた王室監査部などのコネを存分に使ったとか、殿下に説明していた。




