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要らない子は捨てられる

 「なにをしている」

 アッシュ提督から叱責の声が掛かる。


 「は、直ちに全艦船を持って突入します」


 「馬鹿野郎。

 我らだけでは勝ち目はない。

 カーポネと分かった以上、増援を要請する。

 直ちに無線だ。

 本部に全艦隊出動の要請を掛けろ。

 それと艦載機にも通信将校を特使として乗せて向かわせろ。

 無線が届かない場合もある。

 すぐにだ。

 急げ」


 「「ハ!」」


 「何をしてる。

 艦長、我らはすぐに転進して増援を待つ。

 すぐに転進させろ。」


 「ハ、しかし、それでは後ろを取られませんか」


 「う~~む、そうだ。

 第三巡回戦隊に命令。

 増援を待つ間、カーポネの状況を監視しろ。

 状況の許す限り牽制攻撃もかけろと。」


 「殿をさせるのですね。

 分かりました。

 無線将校、今の話を聞いていたな」


 「は、直ちに打電します」


 「短距離光通信でも送ります」

 短距離光通信とは、無線の類が使えないこの宙域に特化した通信手段で、レーザー光に信号を乗せ目的の船に連絡する手段だ。

 レーザー兵器は威力がものすごい勢いで減衰するために使えないが、それを考慮して、僚艦との距離を計算して出力を決めたレーザー光を出す。

 当然レーザー光を向けられた船しか使えない通信手段だが、無いよりましと言う訳で、それがあるおかげで、こんな無線の使えない宙域でも艦隊行動がとれているのだ。


 今第三機動艦隊の旗艦『ヌビア』から第三巡回戦隊の旗艦『マシュウ』に向かって通信がなされた。


 アッシュ提督からの命令を受けた第三巡回戦隊のポットー司令はパニックになる。

 先の作戦会議では、第三巡回戦隊の仕事は警戒だけのほとんど出番なしと聞かされていたが、いきなり最前線でほぼ死んで来いとの命令を受けたのと同じだ。

 もともと有能ではない軍からの出向組のポットーには気概も勇気もない。


 しかし、現場からのたたき上げで出世してきた第三巡回戦隊の旗艦『マシュウ』の艦長は落ち着いていた。


 「司令、ご命令を」

 「艦長、命令と言ったってアッシュ提督は我らに死んで来いと言っているのだぞ」

 「いいえ、司令。

 アッシュ提督は増援が来るまでカーポネの監視を命じられました。

 必要なら牽制のための攻撃も許されただけです」

 ポットーは艦長とのこのやり取りで落ち着けたので、自身が生き残るすべを考え始めた。

 そうだ、牽制をすれば抗命にはならない。

 どうせこんなエリアだ。

 海賊連中を見失っても経歴こそ傷がつくが、処罰の対象にはならない。

 そうだよ、うちには要らない連中がいるんだし、あいつらを使おう。


 「艦長、僚艦の『アッケシ』に命令」


 「何を命じますか」


 「すぐに海賊船団に近づき牽制せよと伝えよ」


 「直ぐに伝えます。

 我らは、アッケシの後詰めに入ります」


 「いや、我らは状況をアッシュ提督に伝えねばならない使命を受けている。

 アッケシが確認できる最大限の距離を取って状況の確認を急げ」


 「それではアッケシを見殺しに」


 「アッシュ提督の命令はそれも含んでいると判断される。

 我らはこの後に続く増援に対して情報を持ち帰らねばならない。

 私の命令に従えないかね、艦長。」


 「いえ、しかし……」

 艦長は最後まで苦しそうだ。


 「艦長、これ以上は抗命になるぞ」


 「は、通信兵。

 今の話を聞いたな。

 すぐに光通信で伝えよ。

 旗艦マシュウは直ぐに、反転して0.15AUの距離まで全速で後退。」


 「ハ、反転全速」

 艦橋にいる航海長が艦長の言葉を復命してマシュウはこの場を離れた。

 ちなみにアッシュ提督以下他の艦船は既にこの場からは見えない。

 さっさと逃げ出していた。


 いよいよとんでもない命令を受けた航宙フリゲート艦『アッケシ』艦長のダスティー少佐は、ポットー司令の命令を今通信兵から受け取った。


 こいつら何を言っているんだ。

 これでは俺たちに死んで来いと言っているのと同じだぞ。

 くそ~、ポットーの奴め、まだ俺のことを恨んでいるらしい。

 でも俺はそう簡単に死にはしないぞ。

 しかし、どうするか。

 この絶望的な場面で部下を守るために直ぐにでもこの場から逃げ出すのも選択肢には入るが、それだと明らかに命令違反だ。


 この時ポットー司令よりもダスティー艦長の方が冷静だった。

 しかし、もともとの軍人としての資質の問題もあり、まっとうな思考はできない。

 自分がいかに被害無くこの場から逃げ出すかという方向に思考が及ぶ。

 先に部下を守るといったが、当然彼にはそんな殊勝な気持は無い。

 部下がいなければ船も動かせず、自分を守る連中もいなくなるのは困るという気持ちからだ。

 なので、自分さえ守られればどれだけ部下が死のうが全く気にもしない。


 そんな彼だからすぐに思いつく作戦だ。

 あれか生贄を出せばいいか。

 それなら、邪魔なメーリカたちなら最適だ。

 それに、どうせ軍から押し付けられたお荷物も一緒に処理できるし、これ以上に無い名案だと、すぐに艦内電話を取って命じた。


 『死んで来い』と。


 一方海賊の方でもある程度このような事態も予想しており、カーポネも方針を変えた。


 「おやじ、やはり出てきましたぜ」


 「軍か」


 「いや、ありゃ~コーストガードだ。

 しかし、巡回の様な雑魚じゃない」


 「なんだ。

 どれくらいの規模だ」


 「へ、機動艦隊だね。

 機動艦隊が一つに、ちょっと待ってくれ。

 それに巡回の奴が2つもある。

 連中かなり頑張ったな」


 「そうか、俺らよりも数が多いな。

 レーザー砲を使えればまだどうにかできるが……逃げるか」


 「そうですね、おやじの云った通り罠でしたしね。

 そうと決まればすぐに逃げますか」


 「兄さんちょっと待ってくれ。

 発見されたんだぞ。

 このまま逃げたって後ろを取られるぞ」


 「ああ、そうだな。

 あの遅いのもいることだし、どうしましょう」


 「ああ、そうだな。

 あいつもそろそろ限界だし、置いて逃げるか」


 「ちょっともったいないがしょうがない、それしかないですかね」


 「それなら、あいつを囮にして少しでもあいつらにダメージを与えるか」


 「あいつをコーストガードに無人で突っ込ませますか」

 

 「作戦は現場に任すが、あいつだけなら逃げきれまい。

 ブッチャーを付けるか。

 あいつを囮にして、ブッチャーで拾って逃げさせろ。

 そうすればそうやすやすと後ろは取られないだろう」


 「へい、判りました。

 すぐに。

 おい、お前ら聞いたな。

 すぐに掛かれ」


 「「「へい」」」


 カーポネは大海賊と言われる菱山一家の四天王と言われるだけある。

 有事の際の判断力はポンコツぞろいのコーストガード上層部の連中とは全く違う。

 違うが期せずして今回ばかりは離脱という同じ判断をしていた。

 尤もその判断に至る思考は全く違うが、偶然とは恐ろしい。

しかし、そのおかげで海賊との大規模戦闘は避けられ、また、勝手に囮とした輸送船は無事だった。


 そんな海賊とコーストガードの駆け引きがあった時に、ナオたちは後部格納庫で待機中だった。


 「今回は出番ないそうだ」


 「出番が無いのは楽でいいが、うちらに何をさせるつもりだ、上の連中は」


 「ああ、第三巡回戦隊は付近の警戒だとさ。

 実際の作戦行動は第三機動艦隊が行い、取りこぼしを第二巡回戦隊が始末するそうだ。

 で、うちらは出番なしと言う訳さ」


 「それなら私は楽でいいけど、隊長は何か思うところあるんじゃ無いの」

 

 「まあ、ないと言ったらウソになるけどな。

 上の命令に逆らえるほど俺は偉くは無いし、ここは素直に従うさ」


 『ビビ~、ビビ~』

 「艦内電話だ。スピーカーに繋げろ」

 「はい。」


 「艦長より第2臨検小隊に対して命令発令」

 『内火艇で敵艦艇に乗り込み、海賊を制圧しろ』

 「こちら、ブルース少尉。

 命令を了解しました。

 直ちに内火艇にて敵艦に対して乗り込みます」

 『幸運を祈る』


 それで館内電話は切れた。

 その後、格納庫はざわめきだした。

 「隊長、どういうことだ」

 「隊長、さっき聞いた話と違うけど」


 「まあ落ち着け。

 艦長より発令されたんだ。

 逆らえないよ。

 すぐに出発だ」

 

 マリアは先に内火艇の操縦席にいた。

 中から俺に声を掛けてきた。

 「隊長、艦橋より座標を受信しました。

 コース設定はすぐに終わります」


 「そう言う事だ、全員乗船せよ」


 メーリカも部下たちに向かって言葉を述べた。


 「上の都合で良いように使いつぶされるのは本意じゃないが、今隊長の言った通り発令されたんだ。

 すぐに行くよ。」


 「「「はい、姉さん」」」


 全員が乗り込んだのを確認後、内火艇を発進させた。



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