法的根拠
一応今回の件で唯一の救いは、費用が一切かかっていない。
そんな筈あるかと言われるかもしれないが、全てあのドックで解体中の病院船からマリアたちが取ってきたものだ。
それでも文句を言うものも居るだろうが、これはきちんと書面にて契約が交わされていた。
乗員のスキル向上のための実習に解体作業を利用させてもらうことで、解体中の船から持ち出した部品は、特別指示が無い限り無償で所有権をこちらに譲渡するといった内容だ。
穴だらけの契約だが、それでも無いよりはましと、あの社長とマキ姉ちゃんが2人して頭を抱えながら考え出した裏技だ。
まあ、どこかで費用でも発生してくれていれば、ここまでことが大きくなることが無かったのにとも思うが、とりあえず実害無いと、報告書の最後にそうコメントしておいた。
その後、副長が呼びに来るまで始末書と格闘していた。
夕食時に予定通り招いた捜査員全員に集まってもらい、ささやかな歓迎のレセプションを食堂で行った。
そう言えば艦内パーティーなんて殿下を最初に乗せて各地を訪問して以来のことだ。
あの時には、艦内多目的ホールをいくつか使い行ったように記憶しているが、今回は俺の気持ちであるということで、パーティーの格を気にする必要がないので、食堂ですることにした。
準備も片付けもこの方が楽だと言う理由からだが、弊害も無い訳では無い。
乗員の夕食にここを使えないと言うのがある。
士官下士官はここに来てもいいが、その際にはきちんとお客様に挨拶するように副長に徹底させたら、誰も来なかった。
後で聞いたら、ほとんど夕食を我慢していたとか。
後は、自室に夕食を持ち込んだと言うのもあった。
まあ、2時間ばかりのことだから、我慢しても食事が次の非番時間になるだけの話で、そう問題も無かったが、今後は考えよう。
レセプションも波風なく、無事に終わった。
酒も提供はしたが、飲んだのは捜査員だけで、乗員については誰も口にしなかった。
まあ、当たり前の話で、皆この後仕事がある。
うん、俺の部下たちはプロ意識が徹底していると秘かに喜んだのは他でもない。
ケイトたち豪快組なんかは当直を調整して飲みだすのではないかとひそかに心配したのだが、それも無かった。
士官は全員当直時間を調整して交代で、ここに来て挨拶だけはさせてある。
今後情報の提供などもあるだろうから人脈だけは作っておいた方が良い。
この辺りは根っからの商売人であるジャイーンに教えられたことだが、確かに俺もそう思う。
レセプションの後、近くの第一多目的ホールを開放して、酒を飲めるようにしておいた。
招待客の他、アテンド役の捜査員との飲みにケーションも大事だということで、トムソンさんに頑張ってもらう。
俺も誘われたが、先の見回りでそれどころではないことが発覚したので断った。
まあ、正直俺も酒は好きだが、強い訳では無い。
接待する側では正直まだ無理だ。
翌日には目的のPB-1に着いた。
このPB-1とはつい最近ついた管理ナンバーで、海賊基地を発見殲滅した順にナンバーが付けられるようになった。
俺たちがかかわったあのスペースコロニーが最初であるためにPB-1と付けられ、次にシシリーファミリーの本拠地がPB-2となる。
この他に軍やコーストガードなどが見つけ潰した海賊基地が三つありそれぞれ順番にナンバリングされた。
主に軍がほとんどと言うか、コーストガードが見つけたのは最後のPB-5だけで、残りの二つは軍が他の星系で見つけ直ぐに潰した拠点だ。
ほとんどが小惑星などにうち捨てられた調査ベースを改造したものだと聞いている。
軍も、コーストガードもあれ以来シャカリキになり海賊討伐に力を注いでいる。
大変いい傾向だとは思うが、そんなことなら最初からそうしておけよとも思わないでもない。
前に殿下に会った時に殿下もそのようにこぼしていたので、同じ気持ちであったようだ。
ちなみにこのPBとはパイレーツのPとベースのBから安直に付けられたそうだ。
最初のお客さんをお連れして俺の仕事が終わる訳では無い。
本来ならば、最初のお客様の成果を確認して他に広げて行けばよかったのだが、他の星系の警察官が黙って待っている訳では無い。
首都星ダイヤモンド警察は、その立ち位置や扱いの違いなどから諦めている部分もあるが、ニホニウムやルチラリア警察がともなれば、もう黙っている必要がないとばかりに、殿下に要請しているそうだ。
同じ拠点に多数の捜査員を派遣する訳にはいかないが、今では5か所も捜査できる拠点があるので、それらの拠点ごとに希望を募り、調整しているという話だ。
で、俺のところには。次の拠点であるPB-2にお隣のレニウム星系から各警察本部から選出された合同捜査員チームを連れて行くことを命じられている。
ということで、俺は、その合同捜査チームを引き取りにレニウム星系に向け艦を進めた。
レニウム星系の主惑星に合同チームは集まっていた。
ここって、殿下と来た時以来の訪問だったが、事前に殿下からも捜査室長のトムソンさんからも話が通っていたようで、ほとんど待つことなく事務手続きを済ませて、直ぐに出発となった。
デジャブか……そんな感じなやり取りがあり、『シュンミン』は目的のPB-2に向け艦を進めていた。
「艦長。
ちょっとよろしいでしょうか」
平和な時間が過ぎて行くとばかり思っていたら、艦橋に居る副長からきな臭さを漂わせた声で呼ばれた。
「どうしましたか、艦長」
アテンド中の捜査官代表に俺は一言断ってから艦橋に向かう。
「どうした、副長」
「艦長、アテンド中にすみません」
「構わない、それよりも何があった?」
「あれです」
そう言うと副長はモニターに映った1隻の宇宙船を指さした。
「あれか……」
俺と副長が話していると、後ろから付いてきたレニウム合同チームのリーダーであるケイン警部補が聞いてきた。
すると、すまなそうに後からトムソンさんが俺に言ってくる。
「すまんな、艦長。
これは一種の職業病だと思ってくれ。
犯罪の匂いがしたので、思わず黙っていられなかったのだろう。
正直俺もそうだ。
邪魔するつもりは無かったのだが、良かったら教えてもらえると助かるのだが」
「艦長」
副長も俺の方を見る。
「別に隠すようなことでは無いだろう。
ただ、ちょっとばかり面倒なだけだ。
しかし、どうするか……」
「艦長、どういうことだ」
「あ、すみませんトムソン室長。
あの船、トムソンさん達が言うように非常に怪しいんですよ。
コーストガードなら間違いなく臨検ですね」
「海賊?」
「いや、武装は貧弱なようですし、何よりエネルギー出力が弱すぎます。
通常の船よりも抑えて居るようにすら思われますから、密輸船の類でしょうね」
「それなら、私たちに遠慮なく、職務を遂行してください。
ここで臨検しての足止めがあっても、何ら問題は有りません」
「どうだろう、艦長。
ケイン警部補が言われるように、職務を第一に……」
「それが、その職務っていうのが問題なのですよ。
ここって、まだレニウム星系内ですよね。
首都星系内なら無理やりしても、コーストガードに貸しがあるからどうにかなるでしょうが、私たちって、法的にまだ権限を貰っていませんよね」
「………」
「あれ、ひょっとして殿下が既に……」
するとカリン先輩が横から言葉を挟んだ。
「いえ、艦長。
殿下からはそのようなことは聞いていません。
イレーヌ秘書官、法的にどうなるかご存じですか」
「いえ、私もそんなに法律に詳しい訳ではありませんが、事前にお伺いした時には、そのようなことは何も……」
「ですよね~」
「艦長。
流石に一般人の立場では無理があるだろうが、皆、それぞれ出向の身だ。
出向元の身分ではどうかな」
「軍人としての身分はあるでしょうが、作戦でない以上、そこまでの強制力は……」
「だが、流石に悔しいな。
みすみす悪党が目の前にいるのに見逃すなんて。
これでは以前と何も変わらないじゃないか。
くそ~~」
「あの、トムソン室長」
「あ、ケイン警部補。
あなたを無視して話し込んでしまい、すみませんでした」
「いえ、お気になさらないでください。
それより、今のお話をお聞きしている限り、法的根拠の問題ですよね」
「そうなんです。
実行力は海賊相手でも引けを取る事の無い実績がある艦長ですから」
「何を言うのですか。
でも、トムソン室長の言われるように、機材も人員も問題は有りません。
何せこの艦の主力メンバーは臨検小隊出身者ばかりですからね」
「私、以前にそう言った法律を詳しく調べたことがあるのですよ。
逃げた海賊連中をどうにかして捕まえられないかと」
「そうですか。
しかし、それが今何かつながりがあるのでしょうか」
「職質ですよ、職質」
「は?
職質って」
お知らせとお詫び。
読者の方にはお気づきだったでしょうが、6月12日に ジプシースズキ様からレビューを頂いておりました。
先月の12日って作者が呆けていた時期で、全く気が付きませんでした。
内容はこれでもかというくらいほめて頂いており、正直ここまで評価いただいても良いのかと感激しております。
たまたま昨日レビューが1から2になっているのを発見して慌てて読んでみました。
この場をお借りしてレビューを頂きました ジプシースズキ様にはお礼と、気が付くことが遅れたお詫びをいたします。
また、他の読者の皆様にはこういうレビューを頂きましたとご報告させていただきます。
本当にこの作品はこういった読者の皆様による暖かな応援により支えられております。
感謝いたします。
今後とも応援ください。




