艦長通達
「で、ですね、艦長。
クローさんが言うのに、あのポッドはわが王国に無い優れた機能が満載だそうなんです」
「優れた機能?」
「ええ、なんでも患者のバイタルデータは我が王国と同様かそれ以上に正確に詳細に記録表示ができるのは当たり前として、簡単な外科手術はロボットアームである程度まで出来るとか。
それ以上に優れた機能として、免疫細胞を含めた細胞の活性化を促す機能があるとか。
どうです凄いでしょう、エッヘン」
何でお前がえばっているんだ。
「聞きなれない言葉が出て来たが、最後の活性化がどうかといったが、何だ?」
「それはですね……ですから……」
途端に語尾が怪しくなってきた。
やはり機械については天才的でも医療については俺と同様程度しか知識を持ち合わせていないらしい。
「え~~と、クローさん、ヘルプ」
そう言って、説明をクローさんに丸投げしてきた。
その後クローさんが説明してくれたことによると、これまたすごい。
早い話が、この前のような怪我なら、そのまま患者をこのポッドに放り込んで、処置を指示するだけで、手術をしてしまうとか。
それだけなら、ロボット手術なら我が国にもあるが、専用手術台に置いてだ。
それをこのポッドはしてしまうとか。
それ以外に驚くことに術後についてこのポッドが最大の特徴を表す。
免疫細胞や他の細胞分裂などを促進させるために活性化させるとか。
そのため、自然放置よりも20~30%くらい早く回復すると言う。
これは、早く治療が済むという効果よりも、重篤な患者において最大限の効果を発揮するそうだ。
それを簡単に説明してくれた例として、今は生きているが手遅れの場合を挙げて説明してくれた。
この手遅れというのは、体の中ではたとえ手遅れになっていても最後まで自然治癒するための細胞が働いているのだとか。
この自然治癒の速度に対して、けがや病気によるダメージの方が酷くて、どんどん生命力を奪っていき最後に手遅れとして終わるのが一般的なんだと。
それが、この装置を使うと治癒速度が格段に速くなるので、間に合わないことが少なくなり、手遅れの患者を救うことができると言うのだ。
確かにクローさんの説明を聞いたらすごいと言える。
「うん、確かにすごいな」
「でしょ、でしょ、艦長」
「あ、ちょっと待て、俺が言いたかったのはそこでは無い。
艦内の部屋に無断で穴をあけたことだ。
それと、この装置の持ち込みについてもだ。
俺は稟議の類をお前からもクローさんからも受け取っては居ない。
そう、許可した覚えが無いのだが、それについて言い分を聞こうか、マリア」
「許可なら取ったよ」
「え?
そんなはずない。
イレーヌさん。
貴方が来てからマリアからの稟議書を見たことがあったか」
「いえ、私はまだ一枚も稟議書を見たことがありません。
そもそも、稟議書なんか早々見る物じゃ無いと思いますが」
そうなのだ。
軍、特に宇宙軍において、現場に限らず、そうそう稟議書なんか発行されるものでは無い。
軍の装備や、改造その他、普通の組織において稟議が必要となるような要件はほとんどが専門の上級組織において、装備計画などの格好で下部組織に回される。
第二艦隊本部で事務職をしていたイレーヌさんも第二艦隊では、ついに一枚も稟議書を見たことが無かったそうだ。
この組織と云うよりも『シュンミン』に乗り込んだ乗員がおかしいのだ。
いったい何枚の稟議書を承認したことか、その倍以上の稟議を却下もしたが。
「だよな。
俺も見たことが無い」
「え、稟議なんか書いてないよ」
「え、あれほど何かやる前には稟議を通せと言っているだろう。
無断での改造か」
「許可なら既に出て居ましたよ。
だいたい、この艦では部屋の改装は認めていましたよね」
「え、何のことだ?」
「だから、以前に私のところの就学隊員が部屋をいじりたいと艦長に許可を貰いに行きましたよね。
その時私も一緒に居ましたからよく覚えていますよ」
「え、そんなことがあったかな」
「え~、艦長。
もう忘れたのですか。
あの子が部屋に写真を飾りたいからフックを付けたいと言って許可を取りに行った時に、他にもそういう子が居たら、一々面倒だからと言って、艦長が通達を出したでしょ」
「通達?
何のことだ」
「だから、部屋の改造に関して、自分でできる範囲の改造なら許可なくしても良いと」
あ、あ~~~~!
うん、確かにその通達を出した覚えはある。
覚えがあるが、どこの世界に部屋の壁にフックを付けるのとデッキの床に大穴をあけるのと同じはずがあるか~。
そう言えば、あの通達以降の稟議書を見たことが無いな。
もしかして……
「分かった。
マリアの言い分はよくわかったよ」
これは完全に俺のミスだ。
自分でできる範囲というのがまずかった。
こいつらなら、材料さえあれば宇宙船すら作りかねないやつらだ。
「通達に関しては良く分かった。
だが、しかし、全てが許されるわけない。
俺のミスから始まった話だから、当然マリアを罰しようとは思わない」
「ですよね~って、艦長のミスって?」
「ああ、自分のできる範囲というのが悪かったようだ。
イレーヌさん。
艦長通達の変更を頼む」
「通達ですか、少々お待ちください。
……
ああ、これですねって、一つしか出されていませんね。
でも、この内容でしたら、別段おかしな点は……」
「ああ、普通ならおかしくないとは思う。
思うが、今度の場合、受け取る側がおかしかっただけだからな。
自室に限り、かつ、自室以外に改造の範囲が及ぶことの無いようにと追加と変更で通達を出してくれ」
「ハイ、分かりました。 直ぐにでも処理します」
「あ、それは急がないが、大急ぎで頼みたいことがある」
「至急案件ですね」
「ああ、そこのマリアと一緒に艦内を回り、彼女たちが手を加えたものを見てきてくれないか。
そこら中に稟議の必要な物があふれているはずだから。
それも見つけ次第、マリアに稟議書を出させてくれ」
「え、ええ~~。
そんな~殺生な、艦長」
「ああ、今回は俺に責任があるから、そうだな、理由は艦内戦力の増強のためとしてだけで良い。
内容は詳しく書いてもらうが、それだけ書いてもらえれば無条件で承認しよう」
「無条件で、本当に良いのですか。
相手はマリアですよ」
「しょうがないじゃないかカリン少尉。
既に出来上がった物ばかりだ。
もうこうなると元に戻すのに稟議が必要になるレベルだ」
「分かりました、私も一緒に回ります。
良いですねマリア准尉」
「あ、はい」
「艦長。
艦長はこの後……」
「自室に戻り始末書を作るよ。
あと今回の顛末も書面にしてマキ部長宛てに出さないとな」
「分かりました、私も戻り次第お手伝いします」
「ああ、忘れていた。
クローさん。
申し訳ありませんが、マリアの作ったこれ、完成前でしょうが、稟議書を作ってもらえますか。
そうですね。
理由としては、乗員の安全面での向上としてくれればいいですので」
「分かりました。
でも、軍での稟議書って書式はありますか。
私は病院での稟議書しか作ったことが無くて」
「それで構いません。
まだ、何もない組織ですので、書式は決まっていませんから」
俺はクローさんにも稟議書をお願いして、足を引きずるように自室に戻っていった。
クローさんは俺の睨んだ通り、頭の良い人だ。
俺は、あの立体ポッドと呼べばいいのか、それだけの稟議を頼んだが、およそ普通の病院では絶対に稟議が必要になると思われる装置を全て稟議書に挙げてくれ、その許可を俺に求めてきていた。
しかし、上がってくる装置リストと説明を見て行くうちにとんでもない物ばかりを目にした。
MRIなどの体内観察装置を始め、血管内を流れる血液の免疫状態をモニタリングする装置や、それこそ何に使うんだよと言いたい装置類の数々。
こんなのを持ち込めばそりゃ~狭くもなるよ。
それら全てに目を通して、稟議を通し、今回の改造事件をまとめてマキ姉ちゃんに報告しておいた。




