新たに見つかったやらかし
「イレーヌさん。
艦医の件は切っ掛けが切っ掛けでしたから、私も焦っておりました。
なにせあの時、この艦での最初の負傷者が出たので、しかも手術の必要があったなんて知りませんでしたからね」
「そうそう、あの時の艦長、かなり焦っておいででしたから」
「からかわないでください、カリン先輩。
見てわかるでしょうが、私は経験など無いのですよ。
本当に初めてでしたから焦りました。
ちょうどいい機会だから、皆さんにも言っておきましょう。
私は部下を危ない目に遭わせたくないので、絶対に危険なことはしないでくださいね。
仕事柄、戦闘は避けて通れないでしょうが、それでも最大限危険は避けますから」
「そうですか、艦長。
でも、副長から聞きましたよ。
艦長は部下には危険なことはさせない癖に、ご自身ではどんどん危険なことをしていくと。
私もちょうど良い機会ですからお願いしておきますね。
艦長こそ、ご自身の安全をお考え下さいと。
これは乗員一同からだけでなく、マキ部長からも言いつかっておりますから」
「そ、そ、そうなのか。
そんなつもりは一切なかったのだが、以後気を付けよう」
俺はカリン先輩にそう答えているが、心の中では『うそぴょ~~ん』と舌を出していた。
しかし、今度からもう少し上手にしないと、前線に出させてもらえなくなりそうだ。
流石に、今はやりたいことができたから、直ぐに死にたいとは思わなくなってきたが、この国から海賊が一掃できるくらいまでには、本願を成就したい。
いざチャンスって時に前線に出られないようなら、これこそ間抜けだし、気を付けるとしよう。
「ちょうど良い。
話に出た、医療室も見て行こう。
悪いが、イレーヌさんも一緒に来られるかな」
「ええ、私は艦長の秘書官ですから、できる限りご一緒させていただきます」
俺は事務室にしている部屋から秘書官を連れだして、カリン先輩と一緒に二つ下のデッキにある医務室に向かった。
この艦の中央に当たる場所にあったマリアの部屋を改装した場所だ。
確か、マリアと隣室のカスミまで追い出して改装したと聞いていたが、出発前に確認しているカリン先輩とイレーヌ秘書官が2人して不思議なことを言いだした。
「あの綺麗な医務室ですか」
「あそこって、きれいなんですが、ちょっと狭いんですよね」
狭い?
そんなはず無いだろう。
マリアの部屋だって、豪華客船の高級船室を持ってきたんだぞ。
確かに改造して元々の豪華客船時代と比べれば若干狭くはなっているが、それでも十分な広さがあったはずだ。
多少機材が増えて狭くはなるが、それでも……機材が増えた??
ひょっとして、またマリアが何か仕出かしたか。
最近大人しかったからノーチェックだったが、まさか……
「ちょっと気になることがあるから、急ぎ確認に行こう」
俺はそう言い残すと一人でさっさとデッキから降りて、医務室に向かった。
俺の後から少しばかり遅れて、2人が付いてくるが、正直さっきの話で心配になり、2人を待たずに医務室に入った。
確かに狭いわ。
なんでって言うまでもないか。
機材が多いのだ。
下手をすると町のちょっとした病院よりも診療機材は多そうだ。
流石にベッドに変わるポッドの数は3個の筈なのだが……なんで??
ポッドが町の立体駐車場のようになっている。
「クローさん。
つかぬことをお伺いしますが、現在この艦にはポッドっていくつありますか?」
「あ、艦長。
視察ですか」
「それよりも、お答えください」
「何をそんなに慌てているか分かりませんが、使える状態なのはあそこにある3つです。
あと、それ以外に34個を例の病院船から持ってきました」
「持ってきた?
ああ、あの病院船からですね。
それよりも、使えるやつ以外って何ですか。
使えないのを持ってきても邪魔なだけですよね」
「ええ、ですからそこにある立体移動式ラックに取り付けてあります。
ですが、これってまだ調整中なのですよ。
さっきからマリアさんが来て調整してくれています。
呼びますか」
「いえ、それには及びません。
しかし、この船にそれだけの入院施設に当たるポッドって必要ですかね」
「いや~、あははは」
「先生、調整してみましたから試してみませんか」
そう言いながらマリアが床から顔を出してきた。
な、何故、床から首を出している。
普通の病院だって、床に穴などないぞ。
この艦にも特別な場所を除き、少なくとも乗員の個室にはデッキを跨るような穴など俺は知らない。
どういうことだ。
「マリア。
いいからそこから出てこい。
少し俺と話をしようじゃないか」
「へ?
艦長。
何でここに」
「いいから出てこい」
「何か、艦長、怒っていませんか?
あ、でもでも、私仕事はさぼっていませんよ。
今、非番時間。
大丈夫。
当直当番でもないですからね」
「ああ、それも分かっているから、いいから出てこい」
マリアは言い訳をしながら穴から出て来た。
「さて、まずはマリアの言い分を聞こうか」
「艦長。
言い分って何?」
「まず、医務室の改良についてだ」
「あ、これね。
これ凄いんです」
「まず、何がすごいのか俺に分かるように聞かせてくれ」
俺が、少し怒ったようにマリアを問いただしているのを見たイレーヌさんが不安になって隣にいるカリン先輩に聞いているのが俺にも聞こえて来た。
「カリン少尉。
何故、戦隊司令がマリア機関長に対して怒っているのか分かりますか」
「ああ、あまり気にしないで良いですよ。
艦長、割とよく怒っておりますから」
「え、戦隊司令って、短気なのですか。
私にはかなり温厚な性格に見えたのですが。
あ、それに、この艦の皆さんは何故戦隊司令について艦長と呼ぶのですか。
あれ、失礼に当たるのでは」
「ああ、それね。
艦長の希望なのですよ。
艦長、戦隊司令と兼務ですし、何より、私たちってこの艦しか持っていないので、一艦で戦隊司令って恥ずかしいらしいのよ」
「え、それでも栄誉なことなのでは。
軍ではまれに一艦も指揮する艦が無いのに艦隊司令官なんかもいますしね。
尤もそのような例では、例外なく名誉職ですが」
「そうですね。
艦長の言い分が、『俺は繋ぎで今の職に就いているだけだ。
大体、どこの世界に一介の中尉が戦隊司令なんだよ。
冗談にしても酷すぎる』というのだそうです。
繋ぎ職かはわかりませんが、確かに現職の中尉で艦長も異例というかまずありえませんしね。
私も宇宙軍の士官として艦長の言い分も理解できますからご希望通りに艦長とお呼びしております。
尤も公的な場では言えませんが。
そこは艦長も理解しているようですよ」
「そうなのですか。
それについては分かりましたが、その戦隊司令……いや艦長ですね。
艦長って短気だと言うのは」
「いえ、私も直接知っている訳ではないのですが、副長から聞くに、マリア機関長って、機械オタクっていうのですか、とにかく機械の改造が大好きで、趣味で色々と作っているそうですよ。
この艦のレールガンもマリアさんとドックの社長とのコラボ作品だとか」
「え、そうなのですか?」
「そうなんですよ。
それで、きちんと許可を取って改造すればいいのですが、いささかその許可の取り方に問題があって、やらかすようですよ」
「やらかすって??」
「あなたの部屋、どう思います」
「私の部屋ですか。
それが何か?」
「この艦って、内装見て、どう思いましたか。
やたら豪華で、とても軍艦に見えませんよね」
「それって、殿下もお乗せするからでは」
「これも又聞きなんですが、殿下に接収される前からなんだそうです。
なんでもコーストガード時代の改修工事でこのようになったとか」
「え、あの予算も何もないコーストガードが、このような豪華な艦を。
そんなの会計検査で引っかかって許される訳ないでしょ。
流石に無いわ~~」
ほれ見ろ、イレーヌさんも引いているぞ。
そもそも、ここだって元々はお前の部屋だったのだろう。
何だよ、豪華すぎて居ずらいからって、あまり使わないから引っ越しもスムーズにできたと聞いたぞ。
今回のこの部屋だってそうだ。
お前はどうするつもりなんだ。
カリン先輩とイレーヌ秘書官との会話を気にしている間中、マリアはと言うと今回話題になっているあのポッドがいかにすごいかを力説していた。




