友人のあせり、元カノの驚き
『戦隊司令』だと。
ジャイーンは挨拶が少し空いた時にナオたちの会話を聞いたようだ。
その際に出たナオの役職にかなりショックを受けていた。
「ジャイーンさん、大丈夫?」
高校時代の恩師であり、ジャイーンの愛人の中でまとめ役のミドリさんがジャイーンの表情の変化を読み取り、声を掛けた。
「ああ、大丈夫だ。
ちょっと昔の知り合いを見て驚いていただけだ」
「ブルース嬢ですか。
本当に綺麗な方ですね。
そんなブルース嬢と昔からお知り合いなのでしょ」
「ミドリさん。
私、聞いたことがあります。
この星にあるブルース孤児院出身で、この星の大学を出てそのままコーストガードに勤めたとか」
「そうそう、そんなことをニュースなどで紹介されていましたね。
でも本当に綺麗な方ですね」
「綺麗なだけでなく、相当な実力者だとか。
そうでないと、あの若さで、しかも平民の出で本庁の部長職に抜擢などされませんよね」
「でも、正直凄いですね。
エスコートしてくれる軍人さんも若いのに相当な役職みたいでしたしね。
どこぞの貴族さんかな」
「羨ましいかも。
仕事もバリバリにこなして、良いとこの男も捕まえて何てね」
「何言ってるのよ。
私たちには、それこそいい男のジャイーンさんが居るでしょ。
それともヤナさんはジャイーンさんを捨ててあちらに行きますか」
「そんな訳ないでしょ、イトカさん。
ただ、自分だけであそこまで成り上がるなんて、ちょっとかっこいいかもと思っただけよ。
でも、そんなすごい人とお知り合いだと言うジャイーンさんもすごいと思うけど」
「今みんなが言ったことは本当ですか、ジャイーンさん」
「ああ、昔からの知り合いだ。
小さなころから俺は知っているよ。
しかし、俺よりも親しいのが居るだろう、そこに」
「え?
誰です?」
「テツリーヌだよ。
同じ孤児院出身だ。
それに、彼女以上に良く知る人が居るよ。
皆も知っているはずだよ。
マキ先輩の隣にいる人のことを」
「え、誰です?」
「横でエスコートしている軍人は俺の友人でもあるナオだよ。
………
しかし、あんなとこでキャスベル工廠相手にマウントを取らなくてもよさそうなのに、兄貴たちも少しは場を弁えればいいのにな。
まあ気持ちも分からなくはないけどな。
戦隊司令をあっちに持っていかれれば焦る気持ちも分かるが。
それよりも、ここも落ち着いたようだから、私も挨拶に行くがどうする」
「え、ブルース嬢を紹介してくださるのですか」
「ああ、ナオはみんなも知っているから紹介するまでも無いし……と云うよりも、ナオはさっさとあの場を離れやがった。
前にあった時と同じように、相変わらずパーティーは苦手らしいな。
それよりも一緒に行くか。
兄貴や親父がいるけどな」
「ええ、ご一緒させていただきます。
皆は?」
「「「お願いします」」」
ジャイーンは自分へ挨拶してくる客が途切れたところを見計らって、マキ部長のところに女性たちを伴って挨拶に向かった。
皆、有名人に会えるとばかりに喜んでいるようだが、一人だけ浮かない顔をしている女性が居た。
テツリーヌだ。
「あのナオ君が、何で軍人になっているのよ。
ジャイーンさんは知っていたの」
テツリーヌはナオの立派な姿に完全に飲み込まれている。
彼女の中では、ナオの存在は最後に別れたときの泣きべそをかいている姿でしかない。
うがった見方をしようものなら、自分は勝ち組に属せたが、多分ナオは難しいだろうと思っていたのだろう。
本当にナオが生活に困って、自分に泣きついてきたらジャイーンさんに口利きくらいはしても良いかとくらいには思っていた。
自分が仕事を任される立場になっている様なら、自分が使ってあげてもいい位には思っていた。
だが、彼女の考えは間違っていたことが判明した。
今のナオとの立場は完全に違った。
自分は、この格あるパーティーのホストの一人のしかも付き添い程度なのに、ナオはゲストだ。
ホストの一人であるはずのジャイーンさんよりも下手をすると立場は上にいるようにすら見える。
しかも、ナオの隣にいるマキ姉の着飾った姿は光り輝くように煌びやかに見えて、自分がみじめにすら感じている。
そんな自分にどうしようもなく戸惑っていることに気が付いた。
「お久しぶりです、マキ先輩。
高校を先輩が卒業して以来でしょうか」
「え、ジャイーンさんなの。
見違えたわ。
もう、すっかりビジネスマンね。
あ、こんな言い方だと失礼になりますね。
ごめんなさい。
あ、そうそう、社長就任おめでとうございます。
それに、電話でお話させていただきましたが、あの時は本当に助かりました。
殿下も大変喜んでおり、お礼を申しておりましたから。
改めてお礼を申し上げます。
私どももこの星に拠点を設けて行きますので、色々とお世話になることが多々あるやもしれませんからその節はよろしくお願いいたします。
今後は、今までご無沙汰していた以上にお会いすることもありますね」
先ほどまでこの場にいたお偉いさんたちが居なくなったことで気が緩んだのか、珍しくマキ姉ちゃんは、失言した。
貴族主催では無いとは言え、この星の経済界の重鎮が集まるフォーマルなパーティーだ。
急にそのことを思い出して、マキ姉ちゃんはジャイーンに詫びた。
「いえ、気にしないでください。
また昔のように話しかけてもらえ、うれしくもありましたから。
何より、今のマキさんはこの国の重鎮。
そんな方と仲良く軽口をきけるだけでも、私にとってかなりのメリットになります。
特にこんなみんなが見ているような場所ではね」
「そうなんですか。
なら、一層気を付けないといけませんね」
簡単な社交辞令の後、先ほどのジャイーンの兄の振る舞いを詫びて来た。
「すみませんでした。
ナオ戦隊司令のことについて、長兄がナオのことを招いたキャスベル工廠相手にマウントを取るようなことをして場の雰囲気を壊してしまい、一族のものとしてお詫びします」
「気にしておりませんよ。
それこそ貴族主催のパーティーなら日常のように繰り広げられておりますから、私も殿下について何度もそういった場面に出くわしておりますから」
だが、ジャイーンはただ詫びただけでは無かった。
要は、ナオについて話題をふる為に詫びて来たのだ。
その後すぐに、ナオについてジャイーンは聞いている。
「そのことなんですが、ちょっと気になったので、もしよろしければ教えてほしいのです。
前に、この星のパーティーでナオを見かけた時には、第三王女殿下から『私の艦長』と言われていたので、艦長職だと思っておりました。
だが、先ほどキャスベル工廠さんは戦隊司令といっておられましたけど、どういうことなのでしょう」
ジャイーンが上手に話題をナオに替えながら、本当に知りたい情報を得るために話を持っていったが、そこにテツリーヌが割り込んできた。
「マキ姉、そうだよ。
私びっくりしたんだ。
前に電車でマキ姉にあった時には何も言っていなかったでしょ。
あ、その時はマキ姉も部長でもなかったっけ。
でも、マキ姉のこともびっくりだけど、何でナオが軍人、しかも戦隊司令だっけ。
そんなに偉くなっているの」
「あらあら、テツ。
この場にふさわしくない云い様ですね。
あなたはこれからこういった社交界に沢山出ないといけないのでしょ。
私も先ほど失敗しましたが、言い方には気を付けないとね」
マキ姉がテツリーヌを先輩らしく窘めているが、当のテツリーヌにはそんな余裕がない。
とにかく、今の彼女の中では『なぜ』だけしかない。
あまりの様子に、場所を移して話をすることにした。
マキ姉もジャイーンも一応挨拶は済んでいるようだが、それでもつながりを求めて来る人は後を絶たない。
会場中央ではゆっくりと話すことも難しい。
みんなで端により、マキ姉は、ジャイーンやテツリーヌの疑問に答えていった。




