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ここでもやっぱり要らない子


 どこの国でも海賊討伐は重要な課題でもあると同時に、その取り締まりには名誉や、政府の沽券なども掛かっており、並々ならぬものがある。

 ましてや相手が他の国にも名前が通るくらい有名で巨大な菱山一家とあっては軍が出張ってきても不思議が無い。


 しかし今回掴んだ情報では、その菱山一家の一部で、規模的に巡回戦隊規模だという情報だったので、軍は出ずに、出没予測される地域の機動艦隊にその任が下された。

 でも、ここで面白くないのが情報を最初に掴んだ第二巡回戦隊の面々であった。

 第二機動艦隊の司令官も間接的に自分の功績に繋がるとあっては黙って見ている訳にもいかず、今回の作戦のようになったわけだ。


 第二巡回戦隊との共同での作戦となった経緯はこんな感じだという。


 なぜ俺のように下っ端な士官がそこまでの情報を得ることができたかというと何処にでもいる所謂情報通と言った連中からの又聞きの成果だ。


 しかし、いくら情報通だとしても組織の内部情報が筒抜け過ぎませんか。

 この国の防諜って大丈夫なのかと疑いたくもなった。


 まあ、冗談はそれくらいで、いまだに俺らが待機状態なのは、肝心の第二巡回戦隊の合流が遅れているからに他ならない。


 第二巡回戦隊はぎりぎりまで海賊の情報を探っているようで、もう直ぐここに合流すると俺はさっき聞いたばかりだ。


 第二巡回戦隊の合流の件は先ほど艦長から聞いたから俺は準備をしている。

 何でも、第二巡回戦隊が合流し次第、第三機動艦隊旗艦『ヌビア』内で艦長会議が開催されるそうだ。

 俺はこの船唯一の内火艇艇長として艦長を連れて旗艦『ヌビア』に送り届ける仕事を命じられた。


 メーリカ姉さんは当然艦長と一緒なんかごめんとばかり、内火艇の操縦をマリアに押し付け、俺とマリアで艦長を向こうの『ヌビア』に届ける。

 で、会議が終わるまで旗艦『ヌビア』に待機だという話だ。


 その為に、ここでも重要な話を聞くことができた。


 今回の作戦の目的は、あの有名な菱山一家にコーストガードが勝利する事だ。

 幸い今回の相手が菱山一家ではあるが、その配下の誰かという話で、コーストガードの予想としては隣のニーム宙域出身である、ネズーリ率いるフリゲート艦3隻からなる海賊団だという話だ。


 フリゲート艦3隻は、海賊としてはかなりの戦力だが、巡回戦隊一つでは歯が立たないだろうが機動艦隊が出張れば別だ。

 まず問題はなかろうと云う話だった。


 唯一の心配事としては会敵予想宙域が第三機動艦隊のテリトリーでも最も厄介な場所に近いと言う事だ。

 最悪の場合、レーダーも主砲のレーザー兵器も使用できない暗黒領域に近づく恐れがある。

 その場合には有視界での索敵となり、見逃す恐れが大きいことと、何より戦闘艦搭載武器の類が使用できないので、相手が降伏でもしない限り昔の海戦宜しく人が船に乗り込んでの制圧となる。

 まあ、その場合でもこちらの準備している規模なら人数的にもまず負ける筈はない。

 制圧に際しての人的被害の方が問題になるだろう。


 少しでも被害を抑えるためにと云うよりも、見逃しを防ぐ意味で勝手に囮を用意している。

年に数回しか無い貴重資源の搬出計画をそれとなく流布させたのだ。

 しかも、この囮作戦は、囮にしている輸送艦には一切知らせていない。

 勝手にコーストガードの上層部が機密の輸送計画を流したのだ。


 もし作戦が失敗でもしようものなら国をひっくり返したような騒ぎになるだろう。

 それだけ今回の上層部はこの作戦に自信を持っている。


 しかし、俺から言わせたのなら、この作戦って結構穴だらけだ。

 ただでさえ、敵も味方も索敵に問題ある地域での作戦で、艦載武器の類の使用も微妙だ。

コーストガードは敵に対しての数的優位にあるが、そもそも数的優位を完全に生かし切れていないと思われる。


 どうやら艦長会議も終わり、作戦前の結束を図る船上パーティーが始まるらしい。

 俺とマリアなど内火艇の操縦員には縁のない話だが、船長以下副官も参加してのかなりの規模のパーティーだそうだ。


 パーティーが終わるまであと1~2時間は待機なので、旗艦職員の計らいにより、士官食堂での食事をご馳走になった。


 その席で、また情報が漏れてくる。

 今度は作戦の実施計画の一部だ。

 いくら旗艦内部とはいえ、大丈夫か。

 もしここに海賊のスパイの一人でもいたらそれこそ取り返しのつかないことになる。

 まあ唯一安心できる事と言えば、この宙域の通信事情だ。

 近くに味方が居るのなら別だが、ここから離れた宙域への通信は、携帯端末なら絶望的だ。

 当然付近に海賊船などはいないことを確認されているので、まずここからの情報漏洩はすぐには無いだろう。


 で、その作戦での俺らの役割は要らない子である船を含む戦隊ならではの計画だ。


 当然セオリー通りの計画で、海賊船団には第三機動艦隊がその実力をもって当たる。

 海賊ならではなのだが、不利と見たらあいつらはすぐに逃げるのだ。

 が、その逃げた海賊を第二巡回戦隊が捕捉。

 数にもよるが手が回り切らないと判断されたら、第三機動艦隊の航宙フリゲート艦が応援に入るという計画だそうだ。


 第三巡回戦隊は何をするかというと、付近の警戒だ。

 海賊に新たな応援がこないことを警戒する仕事が割り振られている。

 当然今回の作戦での手柄など一切発生しない立ち位置での参加だ。

 そもそも参加させる必要もあるかと言いたいが、第二巡回戦隊が参加する以上参加させない訳には行かないという理屈だそうだ。

 周りの他の船の連中からかなり同情されたのが印象に残った。


 俺もこの話を聞いて、初陣での殉職が無くなったと、かなり落ち込んだ。

 周りからは、手柄を焦っている新人士官に見えた様だ。

 ベテランの士官からは肩を叩かれ慰められたので、さらに落ち込んだ。


 当然会議で詳細に作戦を聞かされている艦長もパーティーから戻ってきたときの顔はかなり暗かった。

 覚悟はあっただろうが、もう少し活躍の場を期待したのだろう。

 艦長の力量はまだしも、あの艦の乗員の力量はかなり高い。

 作戦に重要な役割で参加してもそれなりには活躍ができたことは疑うことのできない事実だと思う。

 艦長はどれだけ理解しているかは不明だが、それでもそれなりに仕事をこなしてきた実績からある程度の功績は出せたと踏んでいたのだろう。

 それを見事に裏切られたような作戦計画だ。


 暗い顔した艦長を乗せ、俺らは乗艦であるアッケシに戻った。


 俺らが戻ってすぐに作戦の発動命令が出された。


 第二巡回戦隊と第三巡回戦隊が予想宙域に散らばって哨戒に入る。


 哨戒に入ってから2日目に第二巡回戦隊から連絡が入った。

 一瞬だがレーダーで敵海賊をとらえたというのだ。

 しかしすぐにロストしたともいう。

 この辺りは恒星ルチアと王国の発展を妨げている超新星ウルツァイトの影響が無視できず、相変わらずレーダーの類は信用できない。


 この情報を得た第三機動艦隊の司令官であるアッシュ提督が判断を下す。

 例の囮にした輸送船と海賊とのランデブーポイントを計算させ、戦隊を組んでそこに突入するというのだ。


 アッシュ提督の命令から12時間後に該当の宙域に到着する。

 ここでは完全にレーダーは使えない。

 レーダーだけでなく、レーザー兵器も使用できない宙域だった。


 予想されていたことではあるが、やはり戦闘にはある程度の損害の覚悟はいる。


 全艦船が有視界で敵及び輸送船を探す。


 同じタイミングでそれらを同時に発見する。

 囮に対して海賊がまさに襲い掛かろうとしていたのだ。


 第三機動艦隊の艦橋では次のようなやり取りがあった。


 「提督、敵及び輸送船を発見しました。

 方位***、距離+++です。

 なお、敵の規模及び艦船は………」


 「おい、どうした、報告を続けよ」


 「違います。

 我らの予測した海賊ではありません」


 「なんだそれでは分からんぞ」


 旗艦艦長と、通信士との会話が続く。

 もうほとんど怒鳴り合いだ。


 「報告します」


 「そんなことは良いから、規模を伝えよ」


 「敵はカーポネ率いる海賊団です。

 戦隊規模、およそ我らと同格。

 航宙イージス艦2隻、フリゲート艦2隻、他小型艦1隻。

 あれは間違いなくカーポネ海賊団です」


 「そ、そんな馬鹿な話があるか。

 カーポネは菱山一家の四天王だぞ。

 奴らがこんな首都に近い場所なんかに来るか」


 「いえ、間違いないです。

 イージス艦に見覚えがあります」


 「そ、そんな………

 ここに居る艦隊だけでは不利だ。

 相手はあのカーポネだ。

 対人戦には我らは………」



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