パーティーに参加
だが、いざ出席すると決まってからが大変だった。
一応フォーマルな式典だと言うからそれなりに準備もある。
貴族主催でないだけ、細かなところまではうるさく無いそうだが、地元貴族も出席する公式行事となると、着ていく服にも気を使わないといけない。
ましてや女性ならば、俺が考えている以上に気を使うそうだ。
俺たち軍関係者は、第一級礼装なる物がある。
これは国王主催の公的行事、戴冠式までもこの衣装で大丈夫という優れモノだから問題ないが、マキ姉ちゃんたち事務員の方が問題だ。
事務用の制服は作られていないし、もし仮に制服を作っても、そんな制服に第一級礼装など作られるはずがない。
主計官として雇った2人は一応艦に乗りこむので、制服は用意される。
主計官は士官待遇で、主計補は下士官待遇で遇することが決まっているので、それなりの制服だ。
だが用意するのは軍属としての制服で、軍人のそれとは違う。
何より、軍属の制服では第一級礼装まで準備されるなんて聞かない。
よって彼女たちの服装も問題になる。
どこでどう聞きつけて来たのか、頻繁にこっちに来ているフェルマンさんが、殿下からの指示を彼女たちに伝える。
「女性のドレスは戦闘服です。
遠慮なく作りなさい。
難しいようならこっちに来れば私が準備します」
とのことだ。
ここまでは、まあ納得ができる話だ。
流石にこの星でもドレスくらい準備できるだろうと俺は何ら関わっていなかったが、驚いたことにドックの社長からの紹介で古着屋からドレスを手配することになったらしい。
しかも、その古着屋。
後で聞いた時に驚いたのだが、デザイナー崩れかなんかで、マキ姉ちゃんたちのドレスをすぐにオーダーメイドで作ることになったとか。
古着を買うのではなく、彼女達一人一人に合わせてオーダーメイドでドレスを作ると言うから驚きだ。
しかも値段がすごく安い。
パーティー用ドレスのオーダーメイドなら目の玉が飛び出るくらいするらしいのだが、無名のデザイナー作とあって、ほとんど生地の値段だけで作られるとか。
まあ安いと言っても俺たちの制服三着分はしたそうだが、それでも庶民でも手の出る金額で作られるから驚きだ。
その話を聞いたうちの女性たちの機嫌の悪い事。
なんでも彼女たちだけズルいというのだ。
大体君たちドレスなど要らないだろうと言おうものならどんな反撃があるのやら。
しかも、カリン先輩やイレーヌさんなどは貴族の出だから一着や二着持っているだろうと思うのだが、持っていようといないと関係ないそうだ。
あまりに機嫌が戻らないので、自費で作ってもらえるように俺が交渉するという話になって事を収めたが、後でマキ姉ちゃんが「ナオ君、男を見せないと」と言って俺の給料から天引きされることになった。
そういえばマキ姉ちゃんも、殿下と一緒に行動するようになってドレスを持っていたはずなのだが、今回もちゃっかり作っていた。
なんだか納得がいかない。
まあほとんど給料は使わないから問題ないが、それでも納得がいかない。
そんなすったもんだの末、当日を迎えた。
ドレスを着こんだ女性にはエスコートがいるという話なので、制服を着た俺らがエスコート役を買って出た。
いや、俺はしたくはなかったが女性の圧力は、それはそれはとても強いものだ。
今回、男性は俺1人だが、部下の3人も制服での参加なので結局俺たち制服組が事務組をエスコートしてパーティー会場に入ることになった。
会場入り口付近で中を見ると、奥の方に人だかりができている。
ジャイーンが主役になって、参加者たちに挨拶をしているようだ。
そういえば、前にジャイーンに会った時に、このパーティーで社長就任を発表すると言っていたので、さしずめ今回のパーティーの主役はジャイーンということか。
この星一番の財閥でもあるストロングアーム家がこのパーティーを仕切ってでもいるのだろうから、一番の見せ場でもある社長就任挨拶を持って来れば主役にも成ろうというものだ。
まあ、俺たちは招待されているので、そんな場の空気を壊さずに指示に従って会場に入っていく。
しかし、マキ姉ちゃんが会場に入ると会場の雰囲気が一変した。
先ほどまで奥でジャイーンが主役のようだったのが、一気に主役の座をマキ姉ちゃんに持っていかれたようになっている。
ほとんどの参加者の目がマキ姉ちゃんに注がれている。
本当に居心地が悪い。
今では時の人と言っても良い位の有名人である本庁最年少女性部長の隣にいるさえないやつは誰だと言った感じの視線を多数感じる。
マキ姉ちゃんにとっては問題無いかもしれないが、俺にとってはここはまさに敵の真っ只中のような感じだ。
幾たびかの視線を潜り抜けて来たが、今まで感じたことのない敵意を一身に感じる。
マキ姉ちゃんはそんな雰囲気を全く無視するように、我々を招待してくれた事務局長の方にゆっくりと歩いていく。
その事務局長だが、先ほどまでジャイーンの直ぐ傍にいたことからストロングアーム家の関係者だろう。
ジャイーンに似てなくもない事から親族と思われる。
そんな人が向こうからわざわざ挨拶にきた。
「我々の記念すべきパーティーにお越しいただき大変感謝いたします」
「いえ、こちらこそご招待を頂きありがたく思っております。
私どもも、この星で活動してまいりますので、皆様方と親しくして頂けるチャンスを貰い、ありがたく感じているところです。
第三王女殿下も皆様に良しなにと申しておりました」
「おお、それはそれは、此度のプロジェクトに一層の華が添えられました。
して、御連れの方は……」
すると、ご年配の紳士が一緒に数人を引き連れてこちらにやってきた。
その中にマークの父親と、驚くことにドックの社長までもが居たのだ。
流石に空気を読んだのかいつものように『あんちゃん』とは呼びかけられなかったが、マークの父親に似ている年配の方から挨拶された。
「ナオ戦隊司令殿。
私どもキャスベル工廠の招待を受けて頂き大変感謝しております。
ご一緒に、ブルース嬢までもお連れ頂き感謝いたします」
あれ、これってさっきの人、確か事務局長とか言っていた人の話を否定するかのような言い方だが、良いのか。
すると、その彼の隣にいた年配の方から挨拶された。
「これは知らなかったとはいえ、大変失礼しました。
私は、そこにいる空港ビル社長になったジャイーンの父親で、ストロングアーム家の当主をしております」
何だが、ストロングアーム家とキャスベル工廠とが目の前でマウントを取り始めた。
一緒にプロジェクトに参加しているのではとも思わないでもないが、貴族以外でも経済界でもややこしい話はあるのかな。
先に挨拶をしていた事務局長はジャイーンの長兄で次期当主の方のようだが、今回は明らかに失点とばかりに父親から睨まれている。
知らなかったんだからしょうがないとも思うのだが、こういう方たちにとってはそうも言っていられないのか、ちょっとばかりとげとげしくなっている。
それを察したのか、ドックの社長が今度は遠慮なく「あんちゃんも来たのか」と言ってきた。
この一言で周りの空気も変わった。
流石に社長をしているだけはある。
この人ただの技術バカだけでは無かった。
マリアもきちんと教育してくれると助かるのに。
社長は気まずくなった場の雰囲気を自身が悪者になることで一瞬で変えた。
だが、それなら俺も社長の思惑に乗らない手はない。
「社長もいらしたのですね。
知っていればご一緒したのに」
「アハハ、そうもいかんだろう。
何せ今日のあんちゃんはブルース嬢のエスコートをしないといかんからな」
「そのエスコートもここまでですよ。
挨拶済ませればお役御免ですかね」
「マキ部長。
あんちゃんはこう言っているが良いのか。
本当にあんちゃんを借りて行っても良いか」
「ええ、社長。
でも、お手柔らかにお願いしますね。
貴方たちもパーティーを楽しんでいらっしゃい」
マキ姉ちゃんは連れて来た部下にも同じことを言ってこの場から解放した。
俺は、無事エスコート役を降板して、社長や彼の友人でもあるマークの父親と一緒に部屋の隅に向かった。
そんな俺たちを少し離れた場所に居るジャイーンが心配そうに見ていた。
彼の後ろには5人もの美女が控えている。
あれ、てっちゃんだよな。
しばらく見ないうちに綺麗になったな。
でも俺にとっては過去の話だ。
ジャイーンのお披露目を兼ねているので、余計な虫が付かないように彼の女もこの場にて紹介されている。
一々マキ姉ちゃんのように紹介される訳では無いが、ジャイーンの後ろに控えることによって、彼女たちはジャイーンの女だと分かるようにしてあった。
当然、てっちゃんも着飾って彼の後ろにいた。
俺はそれを見ても何も感じていないことに驚いている。
彼女に振られたことで死ぬことを決心したのだが、何かしら思うところがあってもとは思ったが、それすらなかった。
全て過去のことになっている。
それだけ、ここしばらくの間に起こったことが俺を変えたのだろう。
確かに境遇も変わったが、何より俺の中で決定的に俺を変えたのはやはりあのことだろうな。
あれ以前にも、いや、最初に仕事に就いた時から海賊たちは、それこそ数えきれないくらい殺してきた。
俺の命令では無かったが、俺の目の前で部下たちが海賊たちを射殺していく場面が俺の初仕事であった。
最初に指揮する船を貰った時にも、魚雷の設定ミスから、殺さなくてもよい海賊たちをそれこそ宇宙の藻屑にしたこともある。
だが、それまでは何も心境に変化はなかった。
俺はただ仕事をこなしていただけだ。
だが、同じ仕事をこなすだけだったのに、この手で子供たちを殺めたことだけは別だ。
一生俺は背負っていくだろう、いや、一生背負わなければならないことだ。
多分だが、そのおかげでてっちゃんに再会してもうろたえたりしないで自然に振舞えたのだろう。
全ては昔の出来事だ。
『過去の話か……何もかも懐かしい』なんてね。
「おい、あんちゃん。
どうした」
先に歩いている社長から呼ばれた。
俺がぼーっとジャイーンたちを見ていたのだろう。
知らないうちに足を止めて社長たちから少し離れてしまった。
「すみません。
向こうに知り合いがいたので、見とれてました」
「ああ、あの美人たちか。
だが残念だったな。
彼女たちは先約済だそうだ。
しかも財閥のご子息だと言う。
まあ、見とれるくらいなら害はないか。
だが、あんちゃんも若い男だったということか」
社長にからかわれたので、周りから笑われた。




