ジャイーンとの再会
乗員たちの処遇って結構面倒くさい。
宇宙にいる時にはそれぞれに決まった仕事があり、俺の方から指示を出すことなんかほとんどない。
だが一旦地上に降りると、仕事が代わる。
当直などもあるが、それ以外になると訓練することを義務付けられているのは軍に所属するものだけだ。
一応コーストガードでも同様にあるが、コーストガードは軍というよりも警察に近い事から海賊捜査に関してなどの事務仕事が結構ある物で、地上にいる時にはその事務仕事にほとんどの時間をとられるのが普通だ。
後は、休暇くらいか。
それぞれに家族もいることだし、人間らしい生活のためには必要であり、そのための時間も用意されている。
何が言いたいかというと、軍にしろコーストガードにしろ、地上でもやることが決まっているのだ。
だが、作りかけの組織となるとそれが決まっていない。
当然、当面のしのぎを決めるのは責任者としての仕事になるので、そのお鉢が俺に回る。
まあ、今回は就学隊員の処遇だけで、それ以外はそれぞれにやりたいことがあり、あいつらは俺に対してその許可を求めて来るだけなので、俺もあまり頭を悩ますことは無い。
だが、今回の経験は、この組織における今後の参考になるので、あまりいい加減なこともできない。
ただ、今回は、自分たちの乗る軍艦の整備にそのほとんどが費やされるので、まず問題は無い。
……
本当に問題無いのか。
あいつらを放っておくと何時暴走しても驚かないが、その辺りも経験を積んだ俺たちに……いや、マキ部長には通用しないだろう。
一応、何をやるにせよ、マキ部長宛てに稟議を通してからになっているので、そうそう悪い事にはならないだろう。
俺は当面の部下の処遇を済ませて、自身の仕事にかかる。
マキ姉ちゃんからの依頼もあり、首都星ダイヤモンドで雇う人たちのこちらの孤児院での受け入れの準備のために孤児院(仮)に向かう。
なにせ正式な孤児院は現在目の前で建設中だ。
今はドックの社長の十八番である、解体船からの流用施設で孤児たちを預かっているのだ。
内装は今まで外れたことが無い。
唯一心配事があるのなら、正規なものができても新たな施設の方が仮設のものより不便もしくは貧相になってしまう恐れがあると言ったことだ。
なにせ流用する施設にバラツキがあり、俺たちの『シュンミン』のような豪華客船もあれば罪人輸送船のようなものまである。
尤も社長は好き嫌いが激しくて、大量輸送船などはあまり扱わないと聞く。
大量輸送船は解体していても、発見が少なく面白くないというのがその理由だそうだ。
現在孤児院で使っているのは、俺たちがここに来て初めて使わせてもらった客船から取り外した簡易宿泊棟だ。
あれもマキ姉ちゃんが社長にドック入りの際にお願いして急遽用意してもらったもので、あれ以降使われていなかったものだが、解体する暇も手間も無いとのことで、それならと殿下が再度利用させてもらうようにお願いしたものだ。
なので、孤児院はお隣にあるのだが、なにせここの敷地も広い。
『シュンミン』を降りてから15分ばかり歩いて孤児院に着いた。
現在は子供たちが外で遊んでいる時間のはずだが、俺たちが子供時代の時よりも静かな気がする。
元気が無いのが心配だが、まだ保護されてからそれほど時間が経っていないのでやむを得ないか。
俺は心配事をよそに置いて中に入った。
中にいる職員の数も前に来た時よりも格段に少なくなっているのが気になった。
忙しくしている職員に申し訳ないとは思ったが捕まえて事情を話した。
驚いたことに、俺に対応してくれたのは本来『シュンミン』を地上で世話しないといけない地上事務所の職員だ。
そうマキ姉ちゃんの部下の一人だった。
彼女の話では、立ち上げこそ応援で来てくれていたブルース孤児院の職員もいつまでも居れる筈もなく、さっさと元の職場に戻り、今ではここは『シュンミン』地上職員と殿下が保護中の人たちだけとのことだ。
確か地上職員も数人しかいなかったはずで、絶対に手が足りないと思っていたら、前にシシリーファミリーにとらわれていた大人たちのうち、行き場の無い人や、無理やり海賊たちに協力させられて仕事をしていたために犯罪者にされてしまった人たちもいるとのことだ。
そう、俺があの子たちを殺した時に立ち会っていた医者も含まれている。
流石に、ここに連れて来た当時は子供たちの健康状態も決して良いとは言えなかったが、いつまでも放置している筈も無く、一通り見た限りでは治療の必要そうな子供は居ない。
すぐにきちんと治療していたようだ。
何せ医者の他看護師もいたはずなので、そういう面ではここは恵まれていたはずだ。
そんな孤児院にお抱えの医者なんかかなり贅沢だとは思ったが、あまり今ここで踏み込んでとは思い、話を続けた。
既にマキ姉ちゃんからの連絡がここにも来ており、かなり期待しているとのことだが、正直全くの余裕がなく、受け入れの準備ができていない。
彼女たちは俺に、とりあえず新たな職員たちの宿泊先の準備を頼んできた。
ドックの社長にでも頼めば、マリアたちもいることだし、直ぐにでも簡易宿泊所くらいはできそうだったが、流石に一発目からマリアたちへの免疫の無い人たちに洗礼を浴びせることも無かろうかと、俺は空港併設のホテルを当たることにした。
ホテルで広域刑事警察機構の名前で予約を入れようかというタイミングでマキ姉ちゃんから連絡が入る。
「今から頼まれた宿泊先の件だけど、空港隣接のホテルに予約するよ。
確か3人で良かったよね」
「え、いつの話をしているの、ナオ君。
桁が違うわよ。
3人でなく30人よ。
とりあえず30人を仮職員として雇ったから、その分の宿泊先を確保しておいてね。
ナオ君なら大丈夫よね。
ホテルが無理なら、う~~~ん。
社長に頼めばどうにかなるから。
流石に『シュンミン』って訳にはいかないしね」
「分かった分かった。
とにかく聞いてみるよ。
ダメなら他も当たるから」
「お願いね。
流石に最初から社長のところというのもね。
無理だったらすぐに連絡してね」
この職場は、いや、この国は無理しか言わないのか。
思えば俺の初仕事からして無理ばかりだったのに。
まあ聞くだけ聞いてみよう。
後は交渉かな。
俺はホテルのフロントで予約交渉を始めた。
組織名を名乗り、用件を伝えたらいきなりのダメ出し。
まあ、流石に今日の明日ので、30人の宿泊は無理か。
しかもその30人は長期滞在ときているし。
フロントで粘られるのが困るのか、俺はすぐにフロント脇のコンシェルジュのところに連れて行かれ、そこで交渉が始まった。
お役所でも無い筈なのに、いったんこじれると話はまとまらないものだ。
コンシェルジュだけでなく、このホテルのお偉いさんまでが出てきても話が付かない。
まあ、こちらが無理を言っていることが分かっているだけに、そろそろ諦めて社長に泣きつこうかとも考えているが、今度はホテルが俺を放さないのだ。
部屋は貸さない癖に俺たちとはより深くお付き合いしたいとかで、あ~でもないこ~でもないと言ってくる。
正直、そろそろ飽きて来た。
俺は困って途方に暮れてると、一人のバーテンダーがこちらにやって来る。
酒など頼んでいないが。
ホテルのサービスかとも思ったが、手には何も持っていない。
注文でも聞きに来たのかとも思ったが違った。
「何かお困りですかって、ナオか。
お前ナオだよな」
え? え? 誰って、良く知っているよ。
ジャイーンだ。
ジャイーンが、何故かバーテンダーの格好でこっちに近づいて来たのだ。
「ジャイーンだよな。
そうだよ、ナオだ。
久しぶりだな。
あのパーティー以来か」
「ああ、そうだよ。
お前は相変わらずその格好だな。
すぐにわかったぞ」
「悪かったな。
俺はジャイーンと違って、おしゃれなんかしたこと無いよ。
何より、まともな服は軍服以外持っていないしな。
あれ、これって軍服か」
「知るか、そんなこと。
それよりも、ナオの居る殿下の組織は凄いな。
ますます活躍しているっていうじゃないか。
今日、来たのもその件か」
「ああ、殿下からのお使いって云うよりもマキ姉ちゃんから頼まれた件だ。
知っているだろ、マキ姉ちゃん」
「マキ姉ちゃんって、ひょっとしてマキ・ブルース嬢か。
殿下の組織で部長になったという人か。
なら、この星で知らない人は居ないよ。
それより、何を揉めているんだ」
俺はバーテンダー姿のジャイーンにマキ姉ちゃんからの依頼を伝えた。
「この星で殿下が孤児院を作っているのを知っているか」
「ああ、最近その話もかなり有名になってきているな。
なんでも、保護している孤児の数に対して職員の数に問題がありそうだとも聞いたが。
その件か」
俺は、正直にジャイーン状況を伝えた。
俺も正直詳しい訳では無い。
孤児院の状況についてはかえってジャイーンの方が詳しかったくらいだったくらいだ。
ジャイーンは殿下が職員の数に問題があることを認識していないのが不思議だと言っていた。
何故足りなければ人を雇わないかと。
人が雇えないことについては、先日フェルマンさんから概要は聞いたが、言いふらして良い事ではないので、話を濁して、今回その職員のための宿の手配で困っていることを話した。




