乗員の地上勤務
「ご苦労様です。
これで良いですね」
「ええ、確かに。
しかし、正直初めてですよ、宇宙港の外まで運ぶ仕事を請け負ったのは。
保険の適用など、面倒が多かったと聞いておりますが、今後はこの仕事は増えるのでしょうね」
「ええ、隣を見てもらえば判るかと思いますが、我々の基地をここに作っておりますから」
「確かに立派なものを作っているようですね。
今後はここに直接着陸することなどもあるのでしょうか」
「そこまでは分かりませんが、色々とここも変わっていくのでしょうね。
何か、我々が来たことでご面倒をおかけして、申し訳なく思っております」
「いえいえ、正直、宇宙港のほとんどが喜んでおります。
なにせ、新たな組織の基地が作られておりますから。
私の個人的な感想ですが、ニホニウムの経済も最近は停滞気味でしたから。
でも、ここに来て基地の建設が始まってからというもの色々と活性化してきておりますね。
この星も、これで一挙に発展してくれれば良いのですが」
「そうですね。
私もこの星出身なもので、この星が良い方に変わってくれれば嬉しく思います」
「そうなんですか。
あ、無駄口をたたいて貴重なお時間を取ってしまい申し訳ありませんでした。
我々はこれで」
そう言って、艦橋にいた案内人は『シュンミン』を降りて行った。
彼と代わるように隣のドックの社長が入ってきた。
「お~~、あんちゃんいるか」
「いるかって、俺艦長だし、離着陸時には艦橋にいないとダメだろう。
規則通り俺は居るよって、話が違うでしょ。
マキ部長と話は済んでいるよね」
「ああ、この船の整備だって。
何でも無理をしたって、聞いたけど」
「装甲をぶち抜かれて、乗員に怪我させた。
一応、補修部材で、その部分を塞いでいるが、その修理と、できればで良いんだけど内装の一部改装をしたい」
「ああ、マキ部長から聞いていた通りだな。
その程度なら一々ドックに運ぶことなくここでも大丈夫だ。
尤もドックは使用中で、直ぐに使えないがな」
「そうだったんだ。
それは良かった。
まあ、次の出撃が決まっていないからどれくらいここに居れるか分からないが、それでも、いつまでも修理に時間をかけたくないしね。
しかし、社長は相変わらず忙しそうだね」
「貧乏暇無しさ。
いつもの解体の依頼だ。
ああ、そうそう、そういえばマキ部長からまた軍艦の改装の依頼を打診されたけど、急ぎか。
もし急ぎならすまんがまた人を貸してくれないか。
あんちゃんのとこなら即戦力だし、何より仕事が丁寧で速い。
うちの若い者に爪の垢煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
「ああ、いつも通り、うちのマリアに人を付けて出すから、好きに使ってくださいな。
こっちとしても、いつもお世話になっておりますし、今度もちょっとばかり無理なお願いをしないといけないかと相談したくて」
「無理なお願いって?」
「ええ、ここまでこの船を使ってきましたが、いくつかの面で足りない設備がありまして、今回は予算の許す限りその改修をお願いします」
「何だ、その足りない設備って」
「一つは人を収監するための部屋ですか。
海賊相手をしておりますと、どうしても必要になってきます。
あの贅沢な部屋に入れるのもね。
ですから、一部倉庫などを改造して、いつでも収監できるようにしておきたいのです」
「それは、まあそうだな。
軍艦ならあってもいい施設だな。
…て、それよりも、そんな施設が無かったって方が驚きだよ。
今なら商船にだってあるぞ」
「ええ、ですがマリアたちの暴走で中をかなりいじったでしょ。
あの時に無くなったんでしょうね。
だってこの船の中身は軍艦とは言えない別物になっていますからね」
「ああそうだな。
その件では俺も何も言えないが、それとまだあるのだろう必要な施設って」
「ええ、救護室をいじりたくて。
船医を乗せてもいいような治療室にしておきたいのですよ。
普通、こんな小さな船では使わないでしょうが、我々はこのサイズの船だけで活動していきますから、どうしても宇宙での怪我の時などに備えておかないとね」
「なら、あんちゃんは運が良かったよ。
今、うちで解体中の船だが、軍から回されてきたが、どうも海賊が使っていたようなんだよ。
しかも、どうも臓器売買に関する海賊のものらしくて、船そのものはありきたりのものだが、中身は最新の治療施設がいくつも入った天ぷら船だ。
天ぷら船はうちだけのものではないようだな」
ドックの社長の話だが、どうもあのスペースコロニー制圧時に鹵獲した医療船のようだった。
シシリーファミリーが治療船の中でも臓器摘出ができるように、また、顧客に対して、そのまま生体間移植ができるようにと作っていた船のようだった。
一通り捜査が済んだものは民間に払い下げられて解体されているので、ここのドックもその仕事が回ってきたという話だった。
つくづく、あのシシリーファミリーとの縁があったものだと感心したが、考えたら当たり前の話で、最近鹵獲される船といえばシシリーファミリー関連しかなく、また、軍などの政府関係から解体依頼が入るとなると、回されるドックも限られてくる。
まあ運が良かったと言えば良かったと言えるのだろう。
医療船だけでなく色んな船が鹵獲されていたはずなので、それこそ改造商船なら我々には全く旨味も出ないが、今俺が欲している治療施設がそのまま詰まった船が目の前にある。
あの船からの移植なら、それこそ、さほどの費用を掛けずに最新式の医療装備を『シュンミン』に取り込むことができそうだ。
その後、ドックの社長とは2番艦の話になったが、流石にこの船のようなでたらめな改造はしないということで両者の意見は一致していた。
「この船と同等だったっけ、次の船も」
「ええ、艦隊行動をとれるようにとのことらしいけど、正直俺は詳しい話は知らないんだ。
組織も正式に政庁となることだし、俺もお役御免にでもなるのだろうな」
「あんちゃん首か。
ならうちにでも来るか」
「いや、首じゃ無いよ。
俺は軍人だよ。
出向中だけど。
それに何も言われていないけど、準備室だから無理な人事もできただろうが、正規な組織なら、それなりの格が要求されてくるのでしょ。
詳しくは知らないけど」
「そんなことなのか。
俺も、お役人には知り合いが少なくて知らないよ。
まあ、何も言われていないのなら、そのままでいいんじゃ無いのかな。
マキ部長は、そのまま部長なのだろう」
「そう聞いているよ。
なにせ国民に史上最年少女性部長として公表されているしね」
「その部長から何も言われていなければ考える必要は無いな。
部長から言われてから初めて考えればいいだけだ」
なんだか社長から慰められたのか、そんな感じになってきた。
「それよりも暇なら、マリアと一緒に手伝ったらどうだ。
前の時も、色々と忙しそうにしていたから、あいつらに良いようにされたのだろう」
「いや、俺は部長から別の仕事を命じられているから無理だ。
孤児院の関係で少し手伝わないといけないらしい」
「そうか。
そういえばあの孤児院も忙しそうだしな。
俺も暇じゃないからそろそろ行くか」
そう言って社長との話は終わった。
俺は副長と『シュンミン』の乗員について相談していた。
コーストガードからの部下たちについては副長に丸投げしても問題は無さそうなのだが、就学隊員たちもいる。
その就学隊員たちもそろそろ仕事に慣れてきているので、ここらあたりでそれぞれ希望のコースに着けるように教育をすることになった。
特に艦載機パイロット志望者やその整備員志望者については王国では資格がいる。
国家資格取得のためには『シュンミン』内だけでは無理なので、部下のパイロットや整備士を付けて宇宙港近くの学校に通わせる手続きをすることになった。
軍やコーストガードでも独自で教育していくシステムを持っており、そこに入れることもできなくは無かったが、それだと、どうしても子供たちをダイヤモンド星に送る必要が生じる。
彼らが軍人なら戦闘機に必要な訓練もすることになるので絶対に無理な話だが、俺らは軍じゃない。
そこまでの資格は必要としていないので、民間の学校で即席コースに放り込むことにした。
その辺りについても、カリン先輩からの知恵だったが、それら諸々を含めて、艦載機関係の希望者については全てカリン先輩に任せることにした。
残りについても、攻撃系ならケイトに、機関系、通信系などについてもそれぞれの責任者に就学隊員を預けて必要な教育をさせるように副長に手配してもらった。




