帰還
4月中には間に合いませんでしたが、どうにかこの章の分がたまりましたので、掲載していきます。
お楽しみください。
作戦の終了の宣言を受けた後でもそれぞれに仕事は残る。
俺たちが乗る『シュンミン』でも、撤収の準備に入ったが、ここに残る人たちもいるので上陸の手配もしている。
「トムソン捜査室長。
捜査の方よろしくお願いしますね」
ちょうど今、殿下がこの基地に残って捜査を指揮するトムソンさんにねぎらいの言葉をかけている。
それにしたって、トムソンさんの宇宙での仕事は続く。
あのスペースコロニーでの捜査に続き、自宅に帰らずに捜査を指揮することになる。
家庭は大丈夫かと心配をしたが、トムソンさんは内火艇に乗り込む時に笑って『大丈夫』と親指を立てながら言っていた。
本当に大丈夫か、ちょっと心配が残る。
いざ家に帰ったら離婚届だけを残して誰もいなかったってならないよな。
少し前に艦内の食堂で一緒に酒を飲んだ時に話していたことだが、いったん捜査に入ると、それこそ数ヵ月帰れないこともあったと聞いたことがある。
あの時、トムソンさんは笑いながら「今まで宇宙に関する捜査が全くできなかったが、ここに来てそのツケを支払うように連続しての捜査だな」といっていたのを思い出す。
内火艇で資源採掘用小惑星に運ぶのはトムソンさん達で最後だ。
宇宙軍本部から本艦に乗り込んできた第四席の参謀も第二艦隊旗艦の副長も部下たちを連れてさっさと小惑星に乗り込んで行ったから、今はもうここにはいない。
トムソンさんが殿下と捜査方針などについてこまごま打ち合わせをしていたので上陸が最後となっただけなのだが、捜査員全員でも捜査には時間がかかりそうとのことだ。
殿下は既に本部と連絡を取っており、機動隊員の応援も決めていた。
応援で向かう機動隊員も既にコーストガードの艦船でここまでくることが決まっている。
なんでも、暇しているコーストガードの第一、第三機動艦隊から特別にフリゲート艦を供出してもらい、こちらの応援に来るようなので、それに乗せると言っていた。
コーストガードも、ここに来て相当張り切っているので、ここでの捜査にも力を入れるようだ。
良い傾向なのだが、今更感半端ない。
まあ、ここに応援に来るのも、無理の出ない範囲で最大を出すと聞いていたから、大丈夫だろう。
なにせ応援に来るのは暇している第一機動艦隊と第三機動艦隊から数隻が回されると聞いている。
それ以外からは無理だ。
巡回戦隊はそれぞれの巡回業務があり、当然応援に来ることができない。
俺たちのところに真っ先に応援に来ていた第一巡回戦隊も、軍からの応援がこちらに到着次第、直ぐに巡回業務に戻ったくらいだ。
元々コーストガードの巡回戦隊には余裕はない。
良く俺たちのところに応援に来たくらいだとも思う。
それに比べて機動艦隊は、大規模海賊の殲滅が業務になるので、比較的余裕がある。
彼らの日常とは、ほとんどが訓練に費やされているので、巡回戦隊の手が回らない時にだけ仕事らしい仕事をしていたくらいだ。
しかも、今回ここに来ていないために第一第三の両機動艦隊は比較的余裕がある。
いや、その二つは、今はある意味謹慎中で大人しくしていたことが幸いした様だった。
流石に謹慎中の機動艦隊をそのまま出すわけにもいかなかったようで、特別に数隻ずつ艦船を出し合って応援に来ることになったと殿下から聞いている。
軍とコーストガードの応援も順次来ることもあって、『シュンミン』しか持たない俺たちの仕事は既にこのエリアには無い。
小惑星に捜査員を運んでいる内火艇が戻り次第俺たちは首都星に帰ることになった。
さほど時間を置かずに内火艇は問題無く戻ってきた。
その内火艇の回収を終え、俺たちはすぐにこの宙域を出発した。
帰路の途中は狭い回廊ということもあり、この小惑星帯を抜けるまでは宇宙軍の慣例に基づき4AUでのろのろと移動している。
しかし、一旦小惑星帯を抜けようものなら遠慮なく飛ばせることもあり、『シュンミン』の巡航速度なんかでなく、最大船速で帰還していった。
回廊をのろのろと移動していたので、俺だけでなく艦橋にいる全員がストレスを感じていたようだった。
俺の命令で速度を上げた時には皆歓声を上げて喜んでいた。
みんな、早く帰りたいよね。
今回は少しばかり色々とあったし、いくら居心地の良い『シュンミン』とは言え、宇宙よりも惑星の方がやっぱりいい。
人は宇宙で生まれた訳では無いからね。
早く地上に降りたい。
敵の本拠地があった小惑星は首都星系の大外にいたこともあり、帰るのに少しばかりの時間は要したが、それでも高速を誇る『シュンミン』を飛ばしたのだ。
他の船よりも断然早く目的の首都星『ダイヤモンド』に到着した。
首都星ダイヤモンドでは宇宙軍専用ファーレン宇宙港の、しかも、あの王族専用のポットに、それも優先で航路まで使わせてもらいストレスなく入港した。
王室専用の5番スポットに着陸すると、直ぐにチューブが繋げられ、本部のお偉いさんたちに出迎えられた。
俺は王室専用エリアにある貴賓室で、出迎えの人たちと会うことになっていたが、殿下にことわり直ぐに宇宙軍病院に連絡を取らせてもらうつもりだった。
あの三人の術後の確認のために検査入院の手配をするつもりだった。
しかし、既にその手配は本部の方で済まされており、俺が降りた後すぐに病院からスタッフが『シュンミン』を訪ねてきてあの三人を拉致していった。
本当に殿下が選びに選び抜いて連れて来たスタッフは、誰一人の例外なく優秀な人たちばかりだ。
俺の要求が殿下に伝わるや否やすぐに手配していたようだった。
やることに卒が無いと言えばいいのか、仕事がとにかく早い。
しかし、そんなに優秀な人たちばかりのはずが、何故だか俺の報告書の受理を拒む。
まあ、航海中に殿下が約束してくれた人が来ればそんな報告書地獄から俺も解放されるはずだと、正直秘かに期待している。
宇宙港の貴賓室では出迎えの人たちと軽く歓談しながらお茶を頂き、その場は解散となった。
明日、本部で今回についての報告と今後についての打ち合わせを持つとの連絡を聞いてそれぞれ解散した。
宇宙港の宿泊施設に部屋をとっても良いが、多分その宿泊施設のどの部屋よりも『シュンミン』の部屋の方が快適なことは分かっているので、俺はとりあえず『シュンミン』に戻った。
『シュンミン』は着陸と同時に艦内レベルを最低の母港停泊モードにしてあり、俺たちが艦を降りてから、このモードになって初めての帰艦になった。
本当にこの状態というのは最低限の人員しか仕事していないから艦内は騒がしいのと、ひっそりとしてるのとで極端だ。
艦橋はひっそりとしているのに、隣の作戦検討室では女子会の最中のようだ。
非常に賑やかな笑い声が聞こえて来る。
俺は自室に入り、副長のメーリカ姉さんを呼んでこの後のことについて相談した。
「この艦は一度ドック入りしないといけませんが予算は大丈夫ですか、艦長」
「ああ、なんでも予算の方は問題無いそうだ。
マキ姉…いや、マキ部長から問題無いとはっきりと言質を貰った」
「そうですか。
ではいつドック入りするかですかね。
……
ああ、そうだ。
艦長、聞きましたか」
「は?
何のことだ」
「なんでも検査入院したあの三人に問題があったとか」
「え、なにも聞いていないぞ」
「なんでも情緒不安定だとかで、やたらと泣いていると報告を聞きましたが」
「え、そんなことになっているのか。
原因は聞いたか」
「いえ、ただ予想は付いておりますから……
私は確認に行きますがどうしますか」
「行くよ。
直ぐ行こう」
「何も慌てなくとも。
まあ良いでしょう。
入院先ですが特別病棟だそうです」
特別病棟???
知らない訳では無い。
この国の特にこの星にいる人間なら誰でも知る病棟で、どこにでもある奴だ。
あ、ちなみにいうと、この特別病棟って頭が……なんて人のためでも、犯罪者のためでもない。
いわゆる偉い人ご用達といった感じのもので、ここファーレン宇宙港に併設されている軍病院では、まず一般の兵士は見舞いにすら難しい病棟だ。
入院なんて、士官でも佐官以上でないと無理。
まあ、現役の佐官が公傷を負った者か、将官もしくはその親類縁者しか入院は無理な奴だ。
しかし、何故あいつらがそこに連れて行かれたかが問題だ。
あいつら軍人ですらない。
いうなら軍人未満、コーストガードの正規職員でもなく就学隊員たちだ。
いうなら見習のコーストガードといった扱いのはずが絶対にありえない病棟での検査入院。
あ、あれか。
そうだよな。
俺でも不安になる案件だ。




