あっけない結末
艦載機から早速報告が入る。
カスミの報告にあったように前に戦闘した2隻の航宙フリゲート艦が付近を警戒するように行動していると言ってきた。
更に30分後に今度は第二機動艦隊から敵発見の報告が入った。
この報告と同時に艦隊は一斉に戦闘態勢に入り、最大船速で敵に向かう。
と言っても艦隊の最大船速は8AUにしかならないので、俺の感覚からは割とゆっくりとしたようにしか感じない。
ふと俺は思った。
この8AUどころか巡行の5AUですら俺の最初に乗り込んだ『アッケシ』では相当キツイはずだ。
あの艦は艦齢も大分あり、相当くたびれていたから今回のような共同作戦には付いてこれなかっただろうな。
だから、あの時も捨て駒のような役割しか与えられなかったのだろう。
人生どう転ぶか分からないが、そう考えるとこの艦は本当に異常ともいえる高性能艦だ。
艦隊全体が増速すると同時に全ての艦から艦載機が全機出撃を開始している。
俺はカリン先輩に対して、艦載機の回収を命じた。
俺たちは第二機動艦隊の指揮権から外れているので、戦闘に混ざるとかえって彼らの邪魔になる。
艦載機のパイロットからは怨嗟の声が入るが俺は無視して回収を強く命じた。
艦載機のパイロットがどんな戦闘を期待したかは知らないが、彼らの思惑は外された。
まあ、端から話になっていない。
俺たち第二機動艦隊と応援の宇宙軍の軍艦が現着と同時に敵の方は一切の戦闘もせずに降参してきた。
完全に力が違い過ぎる。
自殺願望でもなければ絶対に戦うことは無い。
元々海賊連中に忠誠など期待できないし、何より彼らには王国上層部に伝手があるからある意味タカをくくっていた。
戦闘なくその場を収めた第二機動艦隊は海賊全員を旗艦に集めて収監して2隻を鹵獲した。
フリゲート艦1隻をその場に残して、先に進む。
俺たちは先の戦闘の最中にカスミが目的の座標にある資源採集用小惑星を見つけていた。
一応警戒しながら近づいて行ったが、これほどの大勢力で近づいたために大きな戦闘にならずに、目的地の制圧を苦労せずに完了した。
今回の作戦はかなり大規模なものになっていたが、ふたを開けてみたら実にあっけない幕切れになった。
拠点制圧に関しては、宇宙軍から上陸専門の陸戦部隊が2個中隊参加しており、また、第二機動艦隊から志願兵だけで構成された決死隊で1個大隊の参加で強襲作戦が実施された。
しかし、単発的な抵抗こそあったものの、ほとんどのエリアではそのまま降伏勧告を受け入れて終わり。
現在、残党の掃討作戦を実施中とのことだ。
第二機動艦隊は、既に小惑星内の中心部に拠点を構築中で、小惑星にある宇宙船ポートに旗艦を入港させて、続々と人員を上陸させている。
既に第二機動艦隊の司令官がその準備中の拠点に移り指揮を執り始めたと先ほど連絡が入った。
「殿下。
作戦終了の様です」
「そうなのですか。
このような作戦の終わり方ってどういうものなのか知りませんが、なんか始める時は『さ~やるぞ~』って感じではっきりしていましたが、グダグダな終わり方って何か拍子抜けしますね」
「ええ、ですがこれは殿下の功績が大きかったかと」
「え、それどういうことですか」
「私が学生時代に聞いた話ですが、およそ戦争というものは準備が大事だと。
既に勝ちが決まるまで準備段階で作り上げて、戦争するというそうです。
今回の場合も、殿下がこれほどの大部隊を用意して下さりましたから、戦闘らしい戦闘が起こらなかったんだと思います。
この兵力差では実際に戦っても全滅が見えておりましたから」
「そういうものですの。
でも、これでは……
そうだわ、艦隊司令官にお願いできないかしら」
「何をですか」
「戦闘の終了宣言ですよ。
昔映画で見たことがあります。
戦で勝った場合に勝鬨をあげているのを。
流石に『エイエイオ~』なんては無いでしょうが将兵全員に宣言くらい出しても良いでしょ」
「そうですね。
大尉。
悪いが司令官殿に確認取ってくれないか」
それから大尉が小惑星内を移動中の艦隊司令官をやっとのことで捕まえて、殿下の意向を伝えた。
司令官も同様なことを考えていたようで、準備中の拠点で、通信設備が使える状態になるのを待ってから、全将兵に向け戦闘の終了の宣言を伝えた。
その際に、殿下に、戦闘に参加した全将兵に向けねぎらいのお言葉を求めて来たので、殿下も丁寧に感謝の念を伝えていた。
今回の戦闘で、シシリーファミリーの受けた被害は計り知れないだろう。
残存が確認できる武力は決して小さなものでは無いが、それでも本拠地を失ったのだ。
それに最大兵力時から半減どころでない損失も受けている筈。
当分は、いや、もう王国内ではシシリーファミリーの影響力は無くなるだろうと思われる。
俺は一連のシシリーファミリーとの闘争を振り返って考えてみた。
俺たちが偶然にもあの人身売買の拠点となるスペースコロニーを制圧した段階でシシリーファミリーは詰んでいたのかもしれない。
確かに、あのスペースコロニーを失うと相当な痛手をこうむることにはなるが、一番の痛手は王国内に繋がる悪徳貴族をあの件で掃討できたことが大きいのだろう。
あの時の件で、かなりの貴族が爵位を剥奪されたり降爵されたりしていると聞く。
また、軍内部のガンもかなり摘発されている。
これが無ければ、スペースコロニーを制圧したところで、すぐにシシリーファミリーは復活できただろう。
何せ王国内で力を持つ連中が、ごまかしに入ればせっかく捕まえた連中も知らないうちに釈放や脱獄されて元の木阿弥になっていたことは簡単に想像できる。
トムソンさんが言うには、過去同様なことを何度も経験していたとか。
下っ端は簡単に捕まえられても、大物になると絶対にできない。
上からの妨害や、裁判前にいなくなることなんかそれこそ枚挙にいとまがないそうだ。
今回のようにここまで完全に討伐できたことは、ひとえに殿下の強い意志の賜物があったためだ。
そのため、トムソンさんのようなベテラン捜査員も仲間になり、次から次に情報を貰えるから俺たちが海賊の尻尾を掴むことができたようなものだ。
ここだって、結局トムソンさんの勘のようなものから見つけたようなもので、本当にすごい。
しかし俺たちの活動は始まったばかりだ。
王国内で多分最大級の海賊を一つ潰しただけでは終わらない。
そもそも俺たちが捜していたのはシシリーファミリーでなく菱山一家のカーポネ一味だった。
そのカーポネ一味に関しては、あれ以来情報が全くつかめない。
まあ、シシリーファミリーの件で俺たちがそれどころでないためもあるが、この件が落ち着いたらじっくりと探していくことになる。
でも、これほどの大捕物だ。
暫くは、この後処理に時間がかかるだろう。
まあ、組織としては相当この件で人手を取られるだろうが、逆に言うと実行部隊である俺たちの仕事は少なくなる。
まあ、最初はこの艦のドック入りからだが、少なくとも俺の事務仕事は軽減される方向にあることは決まったようなものだ。
しかも、殿下は少し前に俺の事務仕事軽減のための人員を用意して下さるとも約束してくれた。
殿下の作戦に参加した将兵に向けた演説が終わるのを待って、俺は殿下の指示を待つ。
『早く、家に帰ろう』という命令を。




