作戦開始
それから俺は艦長席で当直のまねごとをして時間を使った。
その間、個室に案内していたお客様の内、随員と言われる方たちが艦橋を訪ねて、俺と簡単に話したが、直ぐに隣室に移り、それぞれの派遣元に通信で確認をしていた。
流石に艦内のどの設備も軍標準仕様では無いので多少は戸惑うようなこともあったようだが、流石に殿下の随員として回されてくるだけあって皆一様に優秀だ。
2時間が経過して最後に休憩を取ったマリアが一旦艦橋に顔を出してから機関室に向かった。
その後、隣室からお呼びがかかり俺は作戦中は隣室で殿下と共に過ごすことになった。
戦闘は無いだろうし、仮にあっても俺の手はほとんどかからないことが既に先の戦闘で実証されていた。
艦橋に副長が居れば問題ない。
何より隣室で扉一つしか離れておらず、大きな声を出せば簡単に届く距離だ。
しかも、隣室は作戦検討室だけあって、艦長席よりもモニター類は整備されている。
この艦は改装を経て初めてまともに使われることになるのだ。
俺が見てやらねばこの艦に対してなんだか申し訳なく感じていることもある。
俺は副長に艦橋の指揮権を預け、隣室に入った。
「司令がお見えになりましたね」
殿下のこの言葉が合図となり作戦が始まる。
コーストガードからこちらに来ている第二機動艦隊旗艦の副長であるベン大尉が殿下に報告する。
「第二機動艦隊旗艦及び宇宙軍応援艦全て準備が整っております、殿下」
「そうですか。
ナオ戦隊司令お願いできますか」
殿下は俺に作戦の始動を命じろと言う。
この場合、最上位者は殿下であり、その殿下の代理の立場になるのだからやむを得ないだろうが、なんだか落ち着かない。
しかしグズグズもできないので、俺はベン大尉にお願いを出す。
「ベン大尉。
第二機動艦隊司令官殿に殿下からのお言葉を伝えてくれ。
作戦を始めてほしいとな」
ベン大尉はすぐさま手元に用意してある通信機で旗艦に連絡を取り、間を開けずに艦隊全体に対して旗艦『タナミ』から返信が入る。
作戦の開始だ。
目的の距離はここから半日の場所になることは座標より計算で分かっている。
問題は目的まで障害がないかと、現地での戦闘くらいだ。
その進行ルートに予想される障害についても既に艦載機やレーダー計測である程度掴んでいる。
俺に対しても哨戒中のカスミから報告が入る。
「艦長。
これより前方5AUまではデブリを除くと小惑星も含めて障害物は確認されておりません」
隣室からだが、一応扉で仕切られているのでカスミからの報告は艦内放送で俺の前にある端末越しに聞こえてくるが、傍にいる随員たちにも聞こえたのか一様に驚きの声が出る。
「5AUだって。
何でそんな遠方まで分かるんだ」
「ナオ司令。
聞き間違いでなければ今5AUと聞こえたのだが」
「ええ、この艦は最新式でかつ高出力の哨戒システムを搭載しております。
ただの哨戒作業ならちょっとした天文台くらいの性能はありますよ」
「え、聞いたことないぞ」
「ええ、軍標準品ではありませんから。
確か軍規格にも無いものだと聞いております」
「そんなことが許されるのですか、殿下」
「ええ、私には細かなことまでの報告は来ておりませんけれども、この艦については全て王宮から許可は得ております。
問題は無い筈です」
作戦は始まったが、戦闘があるとしてもしばらくは無い筈だ。
この部屋に詰めている人たちに色々と疑問を持たれてしまったようだから、この艦の改装の経緯と大まかな性能などについて説明をした。
その際色々と問題にされそうな朝顔などについては説明を省いた。
俺も良く分からないうちに搭載されていたのだ。
詳細を求められても俺が困る。
かといって暇そうにしているだろうマリアをここに呼ぶことなど絶対にありえない。
今回の作戦行動中にマリアには艦橋にすら立ち入るなと言葉を変えて言ってすらいる。
絶対にまともな軍人にマリアの言動を見られたら、色々と頭の痛いことになる。
あいつときたら誰彼構わず手作り武器の自慢を始めてしまう。
一応、この艦に関する情報はすべての諸元について王宮に報告してあるし、その王宮からは文句も出ていないから、今のところOKのはずだ。
他から騒がれなければという条件が付くが。
なにせ、航宙魚雷一つとってもその入手先が問題ばかりで、一旦王国備品から廃棄されたものを中古で仕入れているし、何より一番問題にされそうなのが、うちで一番活躍しているといえる艦載機だ。
これなど、どんな経緯があったか分からないが、開発中の試作機が開発中止扱いになった時に、どんな理由を付けたのか分からないがうちが持ってきたのだ。
書類上では問題ない。
あくまで書類上でだ。
開発依頼元の感情などを除けばという条件が付く。
開発依頼者である宇宙軍の開発中止の理由は知らされていないが、宇宙軍が多額の資金を出して開発させた試作機をうちがタダ同然で使っていれば面白くも無いだろう。
流石に俺も説明にあたりその辺は言葉を濁した。
「倉庫でほこりをかぶっていた物を譲ってもらいました」とね。
それから数時間は何事もなく過ごした。
ここに詰めている人は、本部の参謀や旗艦の副長はもちろん彼らの随員にいたるまで全員がまじめに仕事をしていた。
自分たちで入手できる情報を、他の人から得た情報を合わせて分析する作業に余念がなかった。
多分いろんなケースを想定して作戦の修正箇所を探っているのだろう。
そんな折にカスミから報告が入る。
「艦長。
前方に移動物在り。
その数2、出力から軍艦と断定します」
「「「え??」」」
「そんな報告聞いていないぞ。
すぐに確認を取れ」
副長はその報告で旗艦に指示を出す。
しかし、旗艦から帰ってくる返事は暢気なもので「そのようなものは発見できておりません」というものだ。
それを聞いた宇宙軍本部の参謀は応援に来ている宇宙軍の軍艦に対して依頼を出す。
「敵と思しき艦船の情報を得たが、どうだろうか。
悪いが確認を取ってほしい」
いくら直接の指揮命令系統に無くとも同じ軍のしかも本部のお偉いさんからの依頼は命令と同じだ。
直ぐに詳細に調査されるがこれも返事は同じだった。
「情報の場所までの調査はこの艦からはできません。
しばらく時間をください」というものだった。
でもカスミからの報告は続く。
「認識される出力から2隻とも同程度の艦と断定します。
ライブラリーには登録が確認されておりませんが、先の戦闘時に得た情報を照合すると82%の確率で一致。
航宙フリゲート艦と断定します」
「ナオ司令。
これはどういうことですの」
「この艦は他の軍艦よりも遠くを見通せます。
そのためでしょう」
「どうしましょうか」
殿下は俺たちとコーストガードを含む実行部隊とで情報についての差が出たことを懸念している。
このことで俺たちとの確執ができたらと心配したようだ。
「殿下のお許しを頂けましたら、この艦から艦載機を出して調べさせますが」
「危険は無いのですか」
「全くの危険は無いとは言いかねますが、監視だけですからそれほどの危険性は感じません。
それにこの艦に搭載されております艦載機の索敵能力も高めですから、敵に気づかれずに調査できるのでは。
幸い周りには小惑星が沢山ありますし」
「コーストガードさんの許可を貰ってから出しましょうか。
お願いできますか、ベン大尉」
殿下はベン大尉に第二機動艦隊司令官に索敵調査の許可を貰うようにベン大尉にお願いした。
第二機動艦隊の司令官は半信半疑ながらもこちらの行動について了解する旨を伝えて来た。
ついでに、第二機動艦隊からも数機、別に索敵に出ることを伝えて来た。
それから1時間後に艦載機からの連絡が入る。




