本来の使われ方って
更に殿下の嫌がらせは続く。
拠点制圧作戦に『シュンミン』も現地に同行することになっている。
これについては別に構わないのだが、俺たちは第二機動艦隊の指揮権から離れて、独自行動することになった。
それも別に構わない。
どうせ、スペースコロニーの時のように、突入には俺たちのような小勢は参加させてもらえないだろう。
指揮権から離れるというのはそういうことだ。
俺が最大の問題としているのが、殿下が現場に『シュンミン』で赴くということだ。
行くのなら無理を言って『鳳凰』で行けばいいだけなのに、今回『鳳凰』は拠点制圧には赴かないことになっている。
どうもこれは現場での指揮権の問題らしい。
今回の現場指揮権は何があってもコーストガードが持つことが既に決められている。
だが、殿下が現場に行くための足が必要となり、元々から殿下座乗艦である『シュンミン』が選ばれた格好になった。
しかも、今回は軍からも人が出る。
軍本部付き参謀部から第四席の参謀が数人の部下を連れて『シュンミン』に乗り込んでくることが先の会議で決められた。
殿下については慣れているので構わないが軍のお偉いさんは勘弁してほしい。
しかもただのお偉いさんではない。
軍本部のエリート中のエリートと目される参謀様だ。
流石にこれにはカリン先輩も参っている。
しかし、俺たちのメーリカ姉さんはブレない。
全く変わらないのだ。
彼女にとって軍のお偉いさんなどは殿下と変わりがないらしい。
メーリカ姉さん曰く「偉い人だろう」の一言だった。
うん、確かにそうだ。
結局、明日始まる拠点制圧に対して、軍本部から数人と、更にコーストガードの第二機動艦隊からも士官が連絡役として『シュンミン』に乗り込んでくることが決まった。
俺たちは、今度は殿下を乗せて内火艇で『シュンミン』に戻っていった。
『鳳凰』からと第二機動艦隊からは別々に明日来るらしい。
俺たちが『鳳凰』の内火艇で『シュンミン』に戻ると、既にフェルマンさんや殿下付きの人たちが『シュンミン』に来ており、殿下の受け入れ準備が整っていた。
流石に俺の艦でも保安員による出迎えの儀式を受けるとは思ってもみなかった。
『シュンミン』の後部格納庫に内火艇が入ると殿下付き保安員が先に到着していて、俺たちを出迎えてくれた。
なんとその出迎えに艦橋に居る筈のケイトもいた。
そのケイトがこれまた驚きなのだが、出迎えで俺に『シュンミン』の指揮権を返上してきたのだ。
ケイトも士官として成長したなと偉そうに感慨深く感じていたが、果たしてケイトの自発的行為なのか。
それよりも艦橋に誰も居ないということは無いだろうな。
ケイトのことだ、あり得るから心配になる。
俺はすぐに艦橋に戻り確認を取ろうとするが、フェルマンさんに殿下の部屋に殿下と一緒に連れて行かれた。
殿下の部屋に入ると、早速殿下付きのマーガレットさんがこれまた美味しく淹れてくれた紅茶をもってきた。
俺は勧められるまま紅茶を飲んで、殿下から(正確には一緒に居るフェルマンさんから)今までの経緯を簡単に教えてもらった。
俺はただ単に軍から嫌がらせを受けた位に安易に考えていたが、俺の拘束については王国全体を挙げてかなり大騒ぎになったそうだ。
あの参謀が所属する第二艦隊の司令部が置かれている惑星では司令部を宇宙軍の軍警察が囲んで閉鎖しての取り調べまであったという。
第二艦隊の王国に対する反乱の疑いがかけられたとかで、王宮では上を下への大騒ぎとなり、まだその影響が色濃く残っているとか。
今回大物が出て来たのも殿下の言では、そんな首都にいたくないという気持ちもあったとかで殿下の希望を聞くや否や、『鳳凰』まで出してきたと言うから驚きだ。
俺が殿下の元に行ってから色々と王宮をにぎわせることになったが、殿下としたら「我が意を得たり」といった感じで喜んでいる様だった。
そんな説明がなされた後にこれからの事を話し合った。
「ナオ戦隊司令。
急遽お客様を乗せての作戦ですが、大丈夫ですか」
「殿下、大丈夫とは」
「このお船は一番小さな軍艦と聞いています。
あ、気を悪くなさらないでくださいね。
決してこのお船をけなしている訳ではありませんから」
「ええ、分かっております。
確かに王国内で軍艦として活動している艦の中では一番小さな艦種になります。
その大きさに問題がありますか?」
「いえ、私が気にしているのはこの後いらっしゃる軍の方たちのことです。
作戦中に控えてもらえる場所について、前にパーティーで使った多目的ホールにでも案内しましょうか。
あ、それですと今から準備させないと間に合いませんね」
「作戦中について作戦全体をご確認されたいのでしょうから、多目的ホールは適さないかと考えております。
しかし、ご心配には及びません」
「もし、もし場所がないようでしたら私のこのお部屋を開放します。
この部屋なら艦長室とまで行かなくても、色々と機材は持ち込めますでしょうし、作戦の監督にも問題無いでしょう」
殿下はご自身が連れて来た高級軍人の扱いについて俺に気を遣っているのだろうが、完全に的がずれている。
まあ、艦橋に連れて行けば大方片付くのだが、艦橋に入り切れないようならすぐ後ろの作戦検討室に連れて行くことを考えていた。
今までの戦闘では捜査員の方たちに詰めてもらっていたが、流石に艦隊行動する旗艦の役割を形ばかりでも演じないといけないので、あそこも本来の働きに期待しよう。
元々そういう目的で作られている部屋なのに、何故だかまともな使い方をされたことが無い。
少なくともこの艦は幾度も戦闘を経験してきた。
単艦での行動も多かったが、数度は応援の艦とも連携を取りながらの作戦もあった。
そういう時に他の艦とも連携を取るための部屋のはず。
航宙駆逐艦で構成された戦隊指揮を執るための部屋だ。
だが、俺にはあそこが艦橋にいる女子たちの休憩場所。
おやつルームにしか見えない。
あ、トムソンさん達に入ってもらった時に部屋が汚れていなかったかな。
たまに部屋の隅におやつの食べ残しなどのごみが散らかっていたことがあったが、大丈夫か。
トムソンさん達が使うまでは本当にまともに使われていなかったが最近になってやっとまともになってきたのか。
あ、トムソンさん達もそういう意味ではまともで無いな。
観戦のためにいただけで、作戦を見守るという本来の意味ではひょっとしなくとも初めてかもしれない。
急ぎ確認だけはしておかないと。
少なくとも食べ残しの処理だけはさせておこう。
俺は殿下に作戦検討室の存在の説明をして、そこで全体の指揮を執ることを提案しておいた。
「殿下。
本艦に限らず軍艦ではどんなに小さくとも僚艦との作戦行動を円滑にするための作戦検討室なる部屋が艦橋の直ぐ傍にあります。
正に今使うべき部屋です。
そこで指揮を執ってもらいましょう」
「そんなお部屋がありましたの」
「ええ、艦橋のすぐ後ろ。
殿下のお席から直ぐ傍にある扉の奥がその部屋です」
「まあ、あのお部屋は休憩室では無かったのですね」
殿下は部屋の存在を知っていた。
しかも俺たちの行動を正しく理解している様だった。
確かにそうだよ、俺たちはあの部屋を休憩室代わりに使っていたよ。
それしか使い道が無かったからね。
「ただ、問題がありまして」
「問題?
それは何ですの」
「この艦では殿下の乗船までは想定されており、その準備もなされておりますが、殿下が直接指揮を執ることまでは考えておりませんでしたから、先の作戦検討室には殿下にお座りいただける席が無いのです」
本艦の備品はどれも他では考えられないくらい豪華なものばかりで、それは後部格納庫にある休憩ベンチですら豪華客船のパーティールーム脇にある休憩用のソファーが使われているから、作戦検討室に設置されている椅子も例外でなく豪華なものだ。
その椅子が一脚ならばごまかしもできるが、全てがその基準では俺のような尉官と同じ椅子にお座りになって指揮を執られることで、問題が出ないか心配だ。
艦橋では予備シートだったこともあり、殿下用にわざわざ交換させた位だ。
こんなことを想定されていれば、あの時に一緒に交換させていた。
殿下を御乗せすることを了承した時に、戦闘時など危険がある場合には御乗せしないことを約束させていたが、今回ばかりはちょっと難しい。
既に殿下も乗り込んできたし、今更『鳳凰』の方が安全だからそちらに移動して欲しいとも言えないし、なにより危険かどうかが非常に微妙だ。
予想される戦闘行為には我々は参加できないだろうし、この艦の逃げ足なら、他に僚艦が居ればまず逃げ切れる。




