殿下の来訪
翌日になって、哨戒中のカスミから報告が入る。
「艦長、かなりまとまった数の軍艦が近づいてきます。
前に殿下から連絡のあった応援でしょうか」
「先方からの連絡はまだか」
「いえ、多分ですが相手がコーストガードでしたら、まだ我々をレーダーで捉えていないのでしょうね。
連絡はレーダーで感知されてからだと思います」
「なら、こちらから警告の無線を出してくれ。
もしもがあると厄介だし、王国の艦船でも軍なら同じように厄介ごとに成り兼ねない」
「そうですね。
流石にあの数では海賊ということは無いでしょうがまたぞろ軍からの嫌がらせも考えられますから、一応の警告無線は出すようにした方が良いでしょうね」
「通信士。
聞いた通りだ。
コーストガードのフォーマットに則り身元を確認する無線を出してくれ。
周波数は商用のほかに軍、コーストガード、それに政府専用に割り当てられている全部でだ」
「了解しました」
俺はコーストガードにある規則に従い、近づいて来る艦隊に対して身元照会の無線を発した。
しかし、索敵能力が王国のどの艦よりも優れていることは良い事ばかりでは無いな。
普通同じ能力なら、こちらで発見するあたりで、先方から無線が入る筈。
無ければ敵認定できるが、俺たちの場合はそうもいかない。
まあ軍の一部が勝手に俺たちを敵と同じような扱いをしていることもあるが、とにかくめんどくさい。
俺たちとしてはとにかく新参者ということもあるので、決して瑕疵を作ってはいけないという制約がある。
不注意で瑕疵を作ると殿下に迷惑をかけてしまう。
ただでさえ、ついこの前軍とのいざこざに巻き込まれたこともあるのだ。
あの時のこちらに瑕疵はないが、それでも殿下の手間を取らせてしまったという事実が残る。
まあ、こちらは王国の規則に則った行動をとっていれば問題は出ないだろう。
俺は暢気のそんなことを考えていたら、通信士が大声で報告してきた。
「艦長!
大変です。
軍からです。
あの船団は軍の艦隊です。
その軍からこちらの呼びかけに答えてきました」
「ああ、軍か。
まあ予想はしていたが、あの連中か。
また厄介なことにならないと良いがな」
「何を暢気に。
艦長、あの軍団を率いているのが王国宇宙軍本部ですよ、本部。
統合作戦本部付き、主席参謀という方がこちらに向かってくるそうです。
向かってくるのがあの鳳凰ですよ鳳凰。
第一艦隊旗艦の鳳凰が殿下を乗せてこちらに向かっているとのことです。
ど、ど、どうしますか」
「え、なんで。
俺聞いてないよ。
俺は何をすればいいか、先方は言ってきたか」
「いえ、あ、ちょっと待ってください。
殿下からです。
お出になりますか」
「ああ、直ぐに俺が出る。
繋いでくれ。
殿下をお待たせする訳にはいかないからな」
俺は艦長席にある、無線端末を開いて、宇宙軍旗艦の鳳凰にいる殿下と話を始めた。
殿下からの話では、先の俺に対する件は王国内でも大問題となっており、宇宙軍の改革が急に進んだそうだ。
いや、現在改革中だとか。
で、俺たちに関することでは、とりあえずあのスペースコロニーの扱いだが、軍の艦隊管理から外れ、宇宙軍本部直轄にして管理するそうなので、今回宇宙軍本部から人が派遣されることになっていたため、殿下はそれに便乗した格好でこちらに向かってきている。
宇宙軍としても先のスペースコロニーの件での借りに、更につい最近仕出かしたことへの負い目もあり、殿下の申し出を受ける羽目になったそうだ。
しかし、いざ殿下を御連れするに際して、格式が整うのは少なくとも航宙戦艦以上が必要であり、宇宙軍高官もお連れする関係で、より艦内に余裕のある『鳳凰』が出張る羽目になったとか。
殿下はフリゲート艦で構わないと言って断ったようだが、軍内部でも色々とあったようで、王室座乗を初めから考えられて作られている超弩級戦艦で宇宙軍本部の人と一緒に乗ってきたと教えてくれた。
まあ、宇宙軍本部としても第二艦隊から補給戦隊の指揮権を取り上げることもあり、ちょっとした威圧も兼ねているのだろう。
どの組織にも言えることだが、権限を取り上げられる時には大きく反発を招くが、一度仕出かしたこともあり、その反発を強権で押さえるための措置でもあるようだ。
そんな他の組織の力学などどうでも良い事だが、何で殿下がここまでくるんだ。
来る必要があったのか。
確かに今回俺たちが仕出かした、いや仕出かされたと言えばいいのか、軍の横暴は殿下の権威を著しく貶める行為で、王室としても断じて容認できることではないことくらいは俺でも理解できる。
そのために、それ相応の人の派遣はあってもいい。
でも来るのはフェルマンさん辺りで何ら問題無い筈。
殿下本人が出張る必要など……
まあ良いか、殿下が来て下さるのなら、この後の方針についても話し合おう。
直にコーストガードの第二機動艦隊も合流できるし、他の応援もあるだろうから……他の応援?
ひょっとしたら今来ている宇宙軍の方たちのことか。
となると少々厄介なことになるかもしれない。
俺の認識が正しければ、今のコーストガードと宇宙軍が鉢合わせすることはあまり芳しくないような気がする。
噂の域を出ていないが、コーストガードは宇宙軍から離れて殿下の傘下に入るようなそぶりがありそうなのに、殿下はそれを拒むつもりで宇宙軍と会わせるおつもりか。
簡単に報告した後、直接お会いした時にと言われて通信は終わった。
それから3時間後に目の前に現れた大艦隊。
第一艦隊から旗艦護衛艦船を連れた超弩級戦艦『鳳凰』が目の前にある。
しかし……なんだな。王国が誇る戦艦だけあってその威容は半端ない。
「宇宙空間で見るとまた格別にすごい戦艦だな。
宇宙港で見た時とは違った感じだ」
「そうですね。
その旗艦『鳳凰』からご招待を受けておりますが」
「ああ、普通なら副長に艦を任せていくことになるが、旗艦の護衛艦隊まで連れてきているのだ。
しかも、その護衛に周りを囲まれていれば一駆逐艦なんかすることが無いよな」
「艦長、何を言いたいのですか」
「今日のお供は二人だ。
殿下のご友人と俺の右腕の二人だ」
「「は??」」
「だから、副長とカリン少尉を連れて行く。
ケイト、艦橋を頼む。
艦内を通常モードのまま維持してくれればいいから。
何かあれば『鳳凰』の指示に従ってくれ」
「は~、分かりました。
当直の当番を引き継ぎます」
『シュンミン』の指揮をケイトに任せて迎えに来ている内火艇に副長とカリン少尉を伴って乗り込んだ。
俺たちは『鳳凰』から迎えに来た内火艇に乗り込んで『鳳凰』に向かった。
俺たちを乗せた内火艇は『鳳凰』の後部格納庫に入ると、儀仗兵が控えている前に止まった。
流石王国随一の旗艦だけあって、偉い人を出迎える準備も常にあるのだと感心したが、いったい誰を出迎えるのだ。
え?
ひょっとして俺たちのことか。
「艦長。
軍は艦長を戦隊司令として正式に出迎えるようですね。
しかも、軍の戦隊司令でなく、他の組織の戦隊司令としての様です」
「え、何か違うの。
軍と、他の組織とでは」
「ええ、軍ですとかなり簡略化されることの方が多いと聞いております。
特に同じ第一艦隊所属ですとその傾向が顕著だとか」
「そうなの。
まあ、今の俺たちは殿下の配下であって第一艦隊には籍が無いからそうなるのか。
しかし、大げさだな。
一介の中尉ごときをこんな出迎えしていい物なのかね」
俺たちは内火艇の扉が開くと外に降ろされた。
俺たちが内火艇から降りると、儀仗兵の指揮官が俺の前に来て敬礼後、挨拶してきた。




