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身もふたもない

 

 緊張こそしていないので、わざわざ命令してまで休息を取らせるほどではないが、どうしようかと迷っていた。


 すると、通常モードで艦橋に詰めていた通信副士から報告が入る。


「艦長。

 第一巡回戦隊から通信が入りました。

 無事第二機動艦隊との合流を果たし、ご依頼のあった船団を合同で捕捉中。

 これより指揮命令系統は第二機動艦隊司令官に移ります…とのことです」


「了解した旨、返信してくれ。

 追伸で、その後の状況をできる限り報告してほしいと依頼をしておいてくれ」


「依頼ですか」


「ああ、既に俺には指揮権がなくなったのだろう。

 だから依頼だ。

 向こうが依頼通り連絡をくれるかどうかは向こうの判断次第だな。

 ……

 あ、指揮権を持つ第二機動艦隊から情報公開を禁止されれば無理かな。

 まあ、依頼だけでもしておいてくれ」


「了解しました」


 ……


「艦長。

 今度はその第二機動艦隊司令官からの通信です。

 殿下からの依頼により第一巡回戦隊の応援に入るそうです。

 状況が変わり次第こちらに情報を公開するとのことです。 

 ……

 あ、追伸があります。

 此度の配慮に感謝とのことです。

 これから捕捉した船団に対して制圧作戦に入る。

 状況が変化次第連絡するとのことです」


「また、律義に通信が来たな。

 コーストガードもいよいよ本格的に殿下に乗り換える気なのかな。

 まあ、こちらに友好的なのは歓迎だし、こちらからも返信しておこう」


「何と返しますか」


「応援の件、大変感謝しております。

 これからの作戦の成功をご祈念いたします。

 とだけ返しておこうか。

 一応、あちらの方が立場が上になる筈だから、ここは丁寧に返しても殿下の顔に泥を塗るようにはならないからね」


「了解しました」


 それから数時間して、船外活動を終えた副長が帰ってきた。

 え、いつ艦から外に出たんだ。

 気が付かなかった。

 そういえば、カリン先輩は居ないな。


 どこに行ったのか誰かに聞けばわかるが、今は良いよな。

 大方艦載機関係で飛び歩いているのだろう。


 俺が慌てて艦橋内を見渡して状況を把握しようと努めていると、帰って来た副長のメーリカ姉さんから報告が入った。


「艦長。

 第57ブロックの応急修理を終えました。

 スカーレット合金の一部が剥がれましたが、それほどの被害は見られませんでした。

 応急処置用鋼板を外から溶接しておりますから、57ブロックの閉鎖を解除できます。

 どうしましょうか」


「解除できるのなら解除しておこう。

 あそこが使えないと移動にもちょっと不便だからね」


 それからさらに半日が過ぎ、あの戦闘から実に1日以上もここで作業をしている。

 修理にさほどの時間はかからなかったが、デブリの処理は全く目途が立たない。

 価値がない物ばかりなら、さっさと見切りをつけ移動も考えるが、これが何ともいえない。

 真っ二つに裂けた船内からは、かなり弱っていたが幾人か救助した。

 しかも、これが問題だ。

 救助した人が、果たして拉致被害者なのか海賊関係者なのかが分からない。

 まあ、その辺りをトムソンさんに丸投げしているから、そのうち判るだろう。

 幸い豪華な部屋だけは腐るほどある。

 後部格納庫周辺にある第108ブロックはブロックごと閉鎖しても問題ない位に辺鄙な場所にもかかわらず士官用のあの豪華な部屋が作られていた。

 艦内では一番不便な場所なので、当然誰も使用していない。

 マリアいわく、「艦載機などの士官用にあった方が便利でしょ」などのたまわっていたが、余った部屋を配置する場所に困った処置のようだ。

 カスミが前に俺にこっそりと教えてくれた。


 この艦には不良乗員などのための収監施設は用意されていない。

 懲罰は、正直命じたい奴らは居ない訳でもないが、したことが無かったので、今まで必要性を感じていなかったが、海賊たちの収監施設の必要性を今回の件で強く感じた。

 まあ、先に話した場所があるから当面何ら問題ないが、海賊たちを収監するのに豪華客船の上級個室を宛がうのもどうかと思う。


 後々の課題として、現在は捜査員の方に事情聴取と隔離の監視をお願いしてある。


 また、他にも死体などについても問題があるが、それ以上に色々と情報収集ができる機材や価値ある物品も多数出ているので、警察官としても放置できそうにないとのことだ。


 うちの立ち位置は警察だから、今はできるだけトムソンさんの意見に従っている。


 そんなこともあり、丁寧に付近を探索しながらの作業なので捗らなくて時間ばかりかかる。


 結局、ある程度探索して、生存者だけを探して、ここの探索や片づけはどこかに依頼することで、首都星にいる殿下と無線で話し合った。


 それまでの間俺たちはこの場にとどまり、作業することになっていた。


 あの戦闘から2日、毎日デブリと戦いながら時間を過ごしていた。

 明日には応援が来ることになったので、俺たちも明日引き継ぎを済ませればここを離れることができるが、その後についてはまだ何も決まっていない。


 保護中の人たちについても、拉致された人たちのようだったが、海賊たちの一味で無いという決定的な証拠がつかめない。

 前に、臓器売買の基地で保護した人たちの中にも少なからず海賊たちの一味、一般人に紛れている海賊たちが居たことが最近になってようやく判明したのだ。


 そういうこともあり、トムソンさんは保護中の人たちを海賊として扱っていないが、完全に信用している訳でない。

 いや、一般人として保護している体を取りながらも、軟禁しているのだ。


 今後の活動については、もう少し情報が欲しい所ではあるが、この先このまま調査しても成果が上がるかどうかが分からないこともあり、一旦ニホニウムに戻ることを考えていたら、別に作戦行動中である第二機動艦隊の司令官から例の船団との戦闘を終えたという情報を貰った。


 彼らの報告によると、彼らは規則に則り停船を求めたところで、先方から発砲してきたことから交戦となり、海賊船3隻の拿捕に成功したとのこと。

 それ以外としては改造船8隻の撃破と、軍艦3隻の撃破も確認している。

 彼らが撃破した3隻の軍艦は、航宙駆逐艦1隻と航宙フリゲート艦2隻だったそうだが、ほかに軍艦4隻の逃亡を許したそうだ。

 俺たちもイージス艦1隻の逃亡を許していることから、今のところ分かっているだけでもシシリーファミリーの残存戦力は軍艦だけでも5隻はあるということだ。

 それに何より拠点がまだ残っているだろう。

 少なくともこの近くにある筈の拠点だけでも潰しておきたい。

 そう考えていると、第二機動艦隊の司令官から拠点についての情報を貰った。

 拿捕した海賊船の調査により、あるポイントが判明したそうだ。

 少なくとも今回相手した海賊たちはそのポイントからの出撃を確認している。


 そこで、先方からの提案があった。

 第二機動艦隊は明日までにここに来るそうだから、一緒に拠点制圧に向かう案を打診してきた。


 俺も、ここで時間をかけてこれ以上あいつらに逃げられてもとの考えもあり、その案に同意した。

 ちょうど明日にはここに応援も来る。

 状況に応じて、それら応援も含めての強襲なら俺たちに不利となることは無いだろう。


 忙しい中、俺は士官を集めて今後について説明をした。

 ここでの作業が単調だがあまりに仕事量が多く忙しいので、ここを離れることに、全員が喜んで賛成していた。


「で、艦長。

 ここを離れるのは良いとして、帰れる訳では無いよね」

 マリアが当然のように聞いてきた


「ああ、それで集めたようなものだ。

 ちょっと前に第二機動艦隊から連絡があった。

 どうも敵の拠点の位置が分かったらしい。

 もうすぐ第二機動艦隊がここに来るから先方と相談だが、その拠点にいくつもりだ」


「え、あのスペースコロニーのように乗り込むのか」

「あの時は、私たち乗り込んでないよ」

「ああ、軍に任せていたからな」

「じゃあ、今度は……」


「ちょっと落ち着いてくれ。

 君たちとのファーストミッションの時のような危険な目にはさせないよ。

 乗り込むとしても十分な戦力をもってからだな。

 今回は第二機動艦隊が指揮を執るようになるだろうから、俺たちは付いていくだけかもな」


「そうですか。

 とにかく応援がここに着くまでは私たちは動きようはありませんね」


「ああ、この件も既に本部には伝えてあるから、本部からの意向も直に入るだろうが、とりあえずは成り行き任せだな」


「分かりました。

 みんなもそれでいいな」


「それでいいかと言われても、今の作業をしながら成り行きに任せるのだろう」

 身もふたもないことをマリアが言い出したが、まさしくその通りなので何も言い返せない。

 ……あ、ひょっとしてみんなを集める必要は無かったのかな。


「艦長。

 ありがとうございました。

 先の見通せない作業ほど神経に堪えるのはありませんから、正直教えてもらえて助かりました」


 あ、そうなの。

 それならよかった。

 全員がマリアのように身もふたもないことを言い出したらどうしようかと思っていたよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] そこから18行下にも捕捉の間違いがありました。
[一言] 冒頭の  「艦長。  第一巡回戦隊から通信が入りました。  無事第二機動艦隊との合流を果たし、ご依頼のあった船団を合同で補足中。 これより指揮命令系統は第二機動艦隊司令官に移ります…とのこと…
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