搭載機の回収
章の続きが出来上がりました。
少し間が空いてしまいましたが、この章の終わりまで続けて投稿していきます。
俺は戦闘の終了を確認してから、艦内のレベルを戦闘から一段落として乗員の休める体制を作った。
戦闘そのものについては、それほど時間がかかった訳では無い。
あれほどの相手に対して要した時間は、世間様の常識の範疇では驚くほど短い時間で済んだともいえるが、それでも慣れていない若い乗員たちの神経を磨り潰すには十分な時間だったはずだ。
彼らの精神的な消耗は計り知れない……と思う。
かくいう俺自身が精神的にそうとう消耗している。
しかし、俺と違って副長のメーリカ姉さんは流石にタフだ。
いささかも疲れを見せずに艦内を完璧に運営していく。
「まもなく艦載機回収ポイントに入ります」
「艦載機回収作業に移れ。
艦載機回収に当たり、十分な注意を怠るな。
最後に気を緩めて事故など起こすことの無いように」
ラーニの報告を受けたカリン先輩が後部格納庫に対して指示を出していく。
指示を出し終わったカリン先輩は俺に艦橋を離れる許可を求めて来た。
先にも話した通り、まだこの艦は準戦体制にあるのだ。
近くで休憩こそ取れても、艦橋を離れてうろうろとして良い状況では無い。
そんな状況で、真面目なカリン先輩が珍しく、彼女らしくないお願いをしてきたのだ。
「カリン少尉。
理由を尋ねても良いかな」
「ハイ、艦載機パイロットを始め部下たちを直接ねぎらいたいものですから」
「分かった許可しよう。
あ、俺も同行するか。
副長」
「ハイ、何でしょうか」
「後部格納庫を経由して救護室を見て来るから艦橋の指揮を頼む」
正直言って今の艦橋に俺は必要ない。
先ほどから副長が完璧に指揮を執っており、それこそ俺がこそこそといなくなっても分からないだろう。
いや、流石にそれは無いか。
でも、いなくても当面の危険はない。
なぜ危険が無いと分かるかというと、先ほど哨戒士のカスミにこの辺りを入念に探ってもらったのだ。
敵どころか、付近には小惑星以外に大きく動くものは無かった。
敵艦載機はもちろん、脱出用ポッドすら動くものを見つけてはいない。
まあ、不規則にこの辺りを動き回るデブリはそれこそたくさんあるが、危険性は微塵も感じられないとのことだ。
「了解しました。
見舞いに行くのですね。
あいつらも喜ぶでしょうか、それとも恐縮してしまうか。
お戻りのお時間だけでもわかれば教えてほしいのですが」
「ああ、簡単に見舞うからそれほど時間はかからないよ。
ついでに57ブロックを見てから戻る」
「了解しました、艦長。
艦橋の指揮権を引き継ぎます」
俺は艦橋の指揮権を副長に引き継いで、カリン先輩と一緒に後部格納庫に向かった。
途中、廊下で休んでいる兵士や、片づけをしている兵士の横を抜け歩いていく。
大きな戦闘を終えても、すぐ次の戦闘に向け準備を始めている乗員に対して、俺は尊敬の念すら感じてしまった。
艦橋にいると、俺は指示を出すだけで、戦闘の状況はただ単に数字とレベルでの情報でしかないが、実際に戦っている兵士たちにとっては、それこそ実際に武器を取り敵に向け戦闘をしていたのだ。
太古の帆船時代ほどではないが、いくら自動化が進んだ現代でも戦闘には現場の兵士の体力が必要になる。
こまごましたものを運んだり、それこそ忙しかったのだろう。
敬礼をしてくる兵士たちに俺は返礼しながら格納庫に向かう。
ちょうど今、格納庫では出撃した2機の艦載機の回収作業中だった。
俺らが格納庫に着くころには終えているだろうが、タイミング的にはちょうど良いのかもしれない。
「艦長、カリン少尉のお二人が入室します」
格納庫前で警戒をしている保安員が中の作業中の乗員に声を掛ける。
乗員は作業の手を休めて、俺たちに敬礼をしてくる。
この辺りは軍そのものだが、軍艦である以上こういう様式美だけは残ってしまう。
俺としては一々面倒なので、こういった儀式めいたことはやめておきたいが、そうもいかないのだろう。
「作業を続けてくれ。
大戦果をもたらしたパイロット諸君が艦載機から降りられなくて困っているぞ」
俺は冗談を交えながら作業の続きを促した。
作業員は俺の言葉で、直ぐに艦載機からパイロットの回収に走った。
艦載機から降ろされたパイロットは顔を紅潮させながら俺らの方に走ってくる。
カリン先輩の前で2人そろって止まると敬礼をしながら嬉しそうに報告してくる。
「少尉、俺たちやりましたよ」
「カリン少尉、ご命令通り海賊船2隻を破壊しました。
俺たちにもできるのですね……グス」
2人は感激したのか泣きながらカリン先輩に報告している。
………
………
あれ、こういう場合、より上官である艦長に報告があるべきだよな。
それとも直接の上司であるカリン先輩に報告した後にカリン先輩から報告を受けるのが良いのかな。
俺はその場に置いていかれた悔しさから、カリン先輩の方を見ながらくだらないことを考えていた。
で、そのカリン先輩も困った顔をしながら彼らが落ち着くのを待って直ぐに彼らを叱責する。
「2人とも、そう言った報告は先に艦長にするものです」
やっぱり、より上の人にするものが正しいのか。
まあ今のような場合、普通は2人宛てに報告すれば面倒なことを考えなくとも良いから、2人に失礼のないように言葉を選んで報告してくるよな。
その肝心のパイロットは、俺の存在に驚いて慌てだした。
尤も俺が臨検小隊時代から知っている連中なので、後回しにされたのかもしれない。
彼らの中での序列は俺が一番下で、その上にカリン先輩、一番上にメーリカ姉さんが来るのだろう。
だが、その認識は正しい。
俺もそうだから。
でも、流石に彼らの直属の上司であるカリン先輩に言われて、俺の存在に気が付いたのにはまずかったと感じたのか、慌てて俺の方に向き直り敬礼して、報告してきた。
「え、あ、いらしたのですか少……艦長」
こいつ今俺のこと少尉と言いそうになって慌てて訂正したな。
しかし、いらしたのですかって何だよ。
存在感の薄さは俺も自覚はあるが、見落とされるほど俺って影薄いのか。
「ああ、カリン少尉と一緒に艦載機で海賊を仕留めた君たちヒーローを出迎えに来たんだ」
「あ、艦長。
ご命令の通り、目標艦の撃破に成功しました」
「ああ、これは凄い事……なんだよね」
「ええ、快挙と言って良いものかと」
カリン先輩が俺のすっとぼけた質問に答えてくれた。
「なら、これは正式に賞詞を出してもらわないといけないかな」
「艦長、何を今更。
すごい事かどうかも分からない人にそう言われてもね」
あ、こいつ昔に戻ったな。
こいつらも掃きだめと言われたところに回されたことだけあって、やたらと調子が良いんだ。
とにかく腕は確かなのはベテラン連中から聞いていたけど、やたらと軽い。
その辺りも、今は厳しくカリン先輩に鍛えてもらっていたのに、俺の顔を見て昔に戻ったようだ。
だからすぐにカリン先輩から怒られた。
せっかく大戦果を挙げて帰ってきたのに、流石に罰までは貰わないだろうが、貰えるお褒めの言葉も減ってしまうぞ。
カリン先輩が困ったような顔をしながら、怒ればいいのか流せばいいのか悩んでいるようだ。
せっかくの戦勝気分に水を差すことはしたくないので、俺は助け舟を出す。
「カリン少尉。
艦載機のチームはものすごい成果を出した。
これはきちんと賞しないといけないから、殿下に賞詞でも出してもらおう。
直ぐに準備をしてくれ」
「艦長。
どういう意味ですか」
「チームの長から推薦が無ければ殿下にお願いができないだろう。
パイロットだけでなく、チームとして賞してもらえるように推薦状を出してくれ。
俺の方から殿下にお願いをしておく」
「あ、ありがとうございます、艦長。
皆喜びます」
「艦長、ありがとうございます。
俺たちのことまで忘れずにいてくれて」
横で話を聞いていのか、整備を任されている年配の整備士がお礼を言ってきた。
彼も『アッケシ』からパイロットと一緒に引き抜いてきた変わり者だ。
なにせ、あの当時からメーリカ姉さんと仲良く後部格納庫に集う連中をまとめていた苦労人だ。
名前をトーマスといい、同じ整備士の若い2人、ユージとコージをまとめて艦載機と、内火艇の整備を任せている。
整備の腕も相当なものだと聞いていたから、それに何より俺のコーストガード時代からの知り合いの一人だったこともあり、殿下から聞かれた時に推薦して引き抜いてもらった人だ。
今この人は、うちに来る時に整備チームリーダーをしてもらうため下士官になり、後部格納庫を預かってもらっている。
「そうですね、トーマス曹長たちの働きも忘れる訳にはいきませんね。
分かりました。
直ぐに推薦状を作ります」
「ああ、そうしてくれ。
賞詞が出ても給料は上がらないだろうと思うが、貰えないよりはいいだろう。
少尉。
君は艦橋にはすぐに戻る必要はないから、もう少しみんなを労ってくれ」
「艦長はお戻りになるのですか」
「いや、この後救護室に向かって怪我した連中を見舞ってから第57ブロックを見て来る」
俺はそう言い残して後部格納庫を離れた。
先日、博報堂様からご連絡いただき、なろうの規格である『今日の一冊』にこの作品を3月9日か紹介していただいております。
正直初めてのことでしたので、驚きとともに関係各位の皆様には感謝しております。
作品の紹介には博報堂様の方でこの作品の要約をして頂き、その文章を載せてあります。
結構手間のかかることをして頂きました。
よろしかったら訪ねてみてください。
私の作品は第133回となっておりますから、私の前に132の作品があるようで、他の作品もよろしかったら覗いてみてはいかがでしょうか。
自分で探すことのない作品に出合えるかもしれません。




