戦闘開始
俺らは乗員に趣味人…もとい、その方面でのエキスパートいや、エキスパートを目指している連中が多くいるので、要らないと言われ国内にまだ数多く放置されている航宙魚雷をありがたく頂いて、以前の『シュンミン』改造時に使いやすいように発射管を改造して現在に至っている。
あ、魚雷管制が艦橋に求めて来た補正パラメータ以外の非常時処理暗号というのは、もしもの時の魚雷の自爆処理命令に使うものだ。
これは以前から航宙魚雷にあり、この暗号を入力しないと魚雷そのものが使えないようになっている。
なので、以前軍で魚雷が使われていた時代から発射寸前にその暗号を魚雷に入力して発射するようになっているが、俺たちは以前にやらかしたのだ。
ダメ押しの魚雷が戦闘中に必要がなくなった時に自爆させようとしたのだが、その暗号を艦橋にいる者が誰も知らずにそのダメ押し魚雷で敵を粉砕してしまったことがある。
本当は、鹵獲して情報を取るつもりが、暗号が分からずにダメになった経験から、最後の暗号を艦橋から入力するようにルールを変えた。
それが今に続いているのだ。
あの時ルールを作るときに調べたことだが、それまでの暗号は最後に魚雷を触った者の好きな数字が入力されていて、酷いのはデフォルトと呼べる『0000』のような何も考えていないものまであった。
こんな数字では敵がダメもとで打ち込んでこないとも限らない。
正直ルールを変えて良かったと思っている。
話がだいぶそれたが、魚雷発射の準備が整い、俺に最後の確認を求めて来た。
俺はケイトに向かい頷いた。
「1番から5番魚雷、準備ができ次第発射」
この艦では発射管の性能で、同時に発射できる魚雷の数が4本のため、同時発射では5本目が撃てない。
そのため、前進中に前方の目標に後部発射管が使えず、撃ち終わった発射管に5本目を装填してからの発射となる。
しかし、細かな命令までは艦橋では出さないので、ケイトが先のような命令を魚雷発射官制に出したのだ。
「全弾発射完了」
前部魚雷発射官制から作業終了の報告が艦橋に入る。
「これで、こちらの思惑通り牽制になればいいのですが」
「艦長」
俺と副長のメーリカ姉さんが話しているところに機関長のマリアが怒ったような声で割り込んできた。
「どうした機関長。
緊急事態か」
俺は急いで艦長席の前にある俺用のモニター全てに目をやった。
どこにもアラートが発生しているようには見えない。
「艦長。
この艦が今まで何度も戦闘してきたのに、まだ一度も朝顔を使ってくれていませんよね」
「朝顔??」
俺はマリアが何を言い出したのか分からずに副長を見たが、彼女も訳わからずと言った感じだった。
すると攻撃主任のケイトが俺の報告してきた。
「そうですね。
あの朝顔は訓練では使用しましたが、まだ一度も戦闘で使ったことはありませんね」
「だから、何なんだよその朝顔って」
「あ、忘れている。
私と社長が心血を注いで作った朝顔だよ。
レールガンと同じ仕組みの兵器だよ。
十分に実用に耐えるものだよ。
何よりエネルギー兵器が全く使えないところでも問題なく敵に攻撃できる優れものなんだよ。
艦長、忘れていたでしょ。
酷~い」
確かにそんなの有ったな。
完全に忘れていたよ。
………
ちょっと待て。
エネルギー兵器が使えない場所でも使えるって、ここは主砲のレーザー砲が使えるぞ。
「おい、マリア。
ここはそのエネルギーが使える場所だぞ。
無理して使う必要がないの…」
「無理じゃないよ。
ここでも十分に使えるよ。
魚雷ばかり使ってなんだかズルい」
ズルいって言ったってな~。
戦場ではズルいのは誉め言葉だぞ。
こちらの作戦が最も効果的に嵌った時に敵から言われる最上の誉め言葉だが、今のマリアに言っても聞く耳を持たないか。
……
しかし、あの朝顔って確か速射が可能だったはず。
連続して速射できるのは強みだ。
「マリア。
あの朝顔って連続して速射は可能だったよな」
「そうだよ。
あの子は目標に向け自動追尾機能まであって、秒3発は違う目標に向けても撃てるよ。
尤も事前に追尾装置にパラメータの入力は必要だけど。
今あの子についている就学隊員だって、それくらい誰でもできるようになっているよ」
なんだか俺の知らないところで就学隊員たちの練度が上がっていたようだ。
流石にそのまま信じる訳にも行かず俺はケイトの方を見た。
「実戦ではまだ使ったことはありませんが、それくらいはできる練度には全員なっております」
そこまで聞いて俺は考えた。
これからやろうとしている作戦は中央突破して敵の分断とかく乱を誘い各個撃破だ。
中央突破の最中に敵に向けての攻撃手段が増えることには大賛成だ。
しかも中央突破の最中では敵との距離が非常に近くなるため、魚雷でも敵に向けて撃てばまず当たる。
敵は逃げるには至難の業が必要になる。
なら、使わない手は無いな。
「マリア。
今度の作戦では朝顔を使う。
主役と言ってもいい位には働いてもらうからそのつもりでな」
「何を調子の良いこと言っているのかな。
今まで存在すら忘れていたのに」
「良いから、今度は十分に働いてもらうよ」
俺はそう言ってからケイトの方に向いて作戦を指示する。
「ケイト、朝顔及び航宙魚雷発射官制に通達。
敵中央突破の最中に敵に向け至近距離から攻撃する。
特に後部は中央突破後も攻撃をするから準備をさせておいてくれ」
「艦長。
敵の混乱を誘うためですね。
艦載機はどうしますか」
「流石に艦載機では危険が大きすぎるから今回は使わない。
だが、いつ発艦命令が出ても言いように準備をさせておいてくれ」
カリン先輩が艦載機について聞いてきたので、俺はすぐに答えた。
俺の答えにちょっとばかり不満がありそうだったが、顔に出さずに自身の仕事に戻っていった。
戦闘間近でみんな興奮しているのか、肉食女子感全開で自分の担当する武器をしきりにアピールしてくる。
勘弁してほしい。
俺はできるのなら平和に済ませたいのだが、とにかく俺以外の人間にはできるだけ危険のない方法を考える。
それが俺の仕事だ。
今までのそんな流れを変えるかのように再びカスミからの報告が入る。
「まもなく光学認識エリアに入ります。
あ、敵も我々をはっきりと認識したようです。
射程にはまだ入りませんが敵の主砲の発射を確認。
こちらには届きません」
敵は海賊だけあって、戦闘において完全な素人では無いだろう。
なのに、なぜ射程外からの主砲攻撃があるのだ。
俺らに対しての牽制にしてもあまりにお粗末だ。
そんな俺の疑問にこたえるかのようにカスミが続けて報告してくる。
「しきりに敵全艦より主砲攻撃を確認。
目標が『シュンミン』ではありませんね。
多分ですが先に発射した魚雷に向けてだと思われます。
魚雷を『シュンミン』から発艦させた艦載機か何かと勘違いしているのでは」
魚雷相手に主砲攻撃とはあまりに無駄が多い。
俺たちとしては牽制として既に十分に役目を果たしているが、仮に艦載機だったとして、アリなのかその疑問が俺を支配する。
「副長。
艦載機相手に主砲攻撃ってアリなのか。
そもそも艦載機に主砲って当たるのか」
「当たるかどうかについては、当たることもあるでしょうし、当たれば艦載機なんかは完全に消滅します。
しかし、主砲で艦載機を狙っても狙って当たるようなことは無いでしょうね。
少なくとも私が知る限りそんな攻撃を知りません」
「だよな。
あいつら何を考えているのかな。
まあ、俺としては、既に十分牽制の意味が出たので御の字だが」
俺と副長が余裕をもってのんびりと話していると通信士のカオリから報告が入った。
「艦長。
第一巡回戦隊から通信が入りました。
現在、敵船団を戦隊のレーダーで捕捉。
これより追尾に入るそうです。
なお、その第一巡回戦隊を追って、最大船速で現在第二機動艦隊が移動しているそうです」
「分かった。
戦隊司令に了解の旨連絡しておいてくれ。
ついでに戦隊の健闘を祈ると」
「了解しました」
「さあ、副長。
俺たちもいよいよだな」
「ハイ、艦長」
そういうとメーリカ姉さんは艦内放送を入れる。
「これより敵中央を突破しての戦闘に入る」
そう言ってから、俺にその艦内放送用のマイクを向ける。
俺に、何か言えと言うのだろう。
俺はマイクを取り、強めの語調で話し始めた。
「これより庶民の敵である海賊たちを殲滅する。
各自持ち場での奮闘を期待する。
以上だ」




