敵発見
俺は通信士のカオリに指示を出す。
「僚艦になった第一巡回戦隊の2隻に向け、今まで調べてある航路についての情報を包み隠さず提供しておいてくれ」
「了解しました。
情報形式は軍共通のもので構わないですね」
「ああ、後はうまく調整してくれればいいよ。
要は情報の共有だけはしておきたい」
海賊船と拿捕したポイントからここまでは『シュンミン』の巡航速度である8AUできたけど、これからは僚艦に合わせないとまずいために軍の艦隊行動時の巡航速度にならい半分の4AUで進む。
今までとは違い半分の速度で、かつ3隻分の監視があっても、めぼしい発見も無く拿捕したポイントまで来てしまった。
「どうかな、副長」
「ええ、このまま進めますが、疲れがたまり始めていますから、できれば休みを入れたいですね」
「だよな。
コーストガードの艦では交代勤務なんかして、それこそ24時間の操船もできるだろうが、うちはそうもいかない。
笑われても死ぬよりはましか。
この先は完全に未知の領域だ。
ここで3時間の休憩を入れよう」
「了解しました。
僚艦にもそう伝えて停船させます」
副長は第一巡回戦隊に連絡をとり、この場所で3時間停船させて休ませることにしてもらった。
こちらの練度も十分でないことを一応説明の上詫びを入れておいたが、先方は大して気にもせずに、かえって良い判断だとほめられた。
とにかく僚艦が守ってくれるので、停泊ではないが停泊時と同じシフトで3時間交代して休みを入れた。
今度ばかりは俺も事務仕事などせずに休んだ。
とてもじゃないが3時間ぽっちじゃ焼け石に水だ。
かえって混乱を招くだけなので、俺もしっかり寝て休んだ。
休憩を終えて、俺たちはさらに奥に進んでいく。
全くの未知のエリアだというのに、今までと代わり映えせず、これと言って発見が無かった。
俺の中で『もしや空振り』の言葉がよぎる。
そうなると応援してもらった手前、第一巡回戦隊に悪いことをしたかと思ってきた。
そんな感じを抱いていると第一巡回戦隊の司令から無線が入る。
なんでも、第二機動艦隊がこちらに向かっているのだとか。
話を聞くとかなりややこしく、先に休憩をしていた時に第一巡回戦隊の司令がコーストガードの本部に連絡を入れ、急遽派遣が決まったらしいことになっている。
ただこの第二機動艦隊の指揮命令系統は俺に無く、独自で動くらしいが、こちらの要望はできる限り聞いてくれるとの話だ。
だから、このエリア内での活動を認めてほしいと言ってきた。
俺にエリア内の行動についての許認可権はないが、別に構わないと返事はしておいた。
こちらが聞いてもいないが、俺たちの疑問について先方からそっと教えてくれた。
要は、得られる功績の問題だ。
それに戦隊司令に命令を出すのに戦隊司令でも問題は無いが、機動艦隊の艦隊司令官に命令を出すのは憚られる。
逆に、応援を依頼している側が後から来た艦隊司令官の指揮命令系統に属せとも言いにくく…あの軍なら簡単に言ってきそうだが…その辺りを配慮して、コーストガードの戦隊司令からの情報提供による出動という扱いだとか。
形式上指揮命令権はないが、遠慮なく要望を伝えてくれればいいとまで教えてくれた。
俺は空振りの危険性について懸念を伝え、せっかく応援いただいても成果を持ち帰れない可能性を詫びたら、既に新たな航路となりうる場所を発見調査しているので、十分な成果だと言ってくれた。
これだけでも十分な調査案件で、第二機動艦隊を出しても問題ないどころかおつりが出るとまで言ってくれた。
それならばと、これからについてのことを無線で直接第二機動艦隊の司令官を交えて話し合った。
最初に空振りについて説明後、可能性として、これは俺たちが望んでいることだが、敵海賊の本拠地もしくは重要拠点に繋がることを伝え、最悪敵海賊との戦闘の危険性を伝えておいた。
今までコーストガードが取り締まっていたような改造商船相手ではなく本当の軍艦相手の危険性を包み隠さず伝えた。
先のスペースコロニーの戦闘においても、航宙駆逐艦数隻と遣り合っていることから、最悪航宙フリゲート艦数隻との戦闘もありうることを伝えた。
無事に第二機動艦隊と合流ができれば十分な戦力になりうることから俺は心配していないが、何があるかは開けてみないと分からない。
第二機動艦隊との合流も、俺たちが休んだ3時間のおかげで十数時間もかからないと聞いた。
なんでも第一巡回戦隊からの応援要請以前にすでにこちらに向かって移動中だったとかで、殿下から応援依頼が出た時から動いていたようだ。
流石に規模があるので、直ぐに準備ができずに巡回戦隊とは距離が出てしまったが、それでもここまでの航海は巡航では無く、かなり急いでこちらに急行している最中だという。
本当に心強い措置だ。
でも、流石にあのコーストガードがここまでするというのも俺には疑問が残る。
ひょっとして、既にコーストガードは殿下に取り込まれたのか。
俺の疑問にカリン先輩が自身の予測だと言ってから答えてくれた。
今の勢いだと殿下に取り込まれるのも時間の問題だという。
取り込まれて消滅するくらいなら、サッサと殿下の傘下に入った方が身のためだという組織論理が働いたのだろう。
ちょうど今の王国内では軍の権威が著しく低下している。
今なら軍から回された連中も先の事件の影響もあるし、そのほかにも色々と仕出かしたこともあり、コーストガードにとって乗り換えるのにはもってこいのタイミングだとか。
そんな背景もあり、最大限に殿下に協力しているのだろうと教えてくれた。
俺は第二機動艦隊については第一巡回戦隊に任せて、計画通り航路を進んでいく。
4時間ばかり進むと、哨戒士のカスミが声を上げた。
「前方、移動する金属反応。
その数10を超えます」
「副長、警戒を発令してくれ。
巡回戦隊に情報提供」
「了解しました」
一挙に緊張が走る。
まだ、最大戦力の機動艦隊との合流までは時間がかかる。
このまま遠距離からの監視で済めばいいが、そんなことにはならないだろう。
「カスミ哨戒士。
詳細は分からないか」
「最大の感度でとらえておりますが、先の情報以外は……
艦長、待ってください。
……
……
移動する金属反応ですが二手に分かれます。
別れた集団で、規模の大きな方は、その数……15は在りますかね。
この塊は我々から逃げる方向に移動していきますが……5ですね。
5隻です。
5隻はこちらに向かって来ます。
宇宙船5隻です。
このことからこちらから逃げる金属反応も宇宙船と断定します。
その数15いや20……
詳細までは分かりませんが10以上の宇宙船が逃げて行きます」
「艦長。
どうしますか」
「どうするって、向かってくる方は戦うしかないだろうがな。
逃げて行く方はどうしよう」
「兵力の分散は愚策と進言します」
すかさずカリン先輩が意見を言ってくる。
確かに明らかに数的にはこちらが不利だ。
そんな不利な状況で戦力の分散はありえない。
ありえない話だが、そのまま海賊たちの戦力を逃がしていい物か。
これが戦争なら一旦引くという選択肢もある。
いや、それしかないだろう。
今の戦力では、できても威力偵察が関の山だ。
しかし俺たちは軍ではない。
治安を守る警察だ。
テロリスト相手に不利だからと言って市民を守らずに引くことはできない。
幸いなことに、今の俺たちにはすぐに守らないといけないものは無いので、選択に幅が持てるが、ここで海賊たちを逃がすと、せっかく殲滅できるチャンスを棒に振ることになり、ひいては近い将来に新たな海賊被害を見逃す恐れに繋がる。
どうにかできないか……
ずっと俺の横でこれらのやり取りを静かに聞いていたトムソン室長が俺に声を掛けて来た。
「艦長さんや。
素人の俺が何かを言える立場でないことは分かるが……」
「何ですかトムソンさん」
「ああ、俺たちの仕事のことなのだが……」
トムソンさんがこう切り出してきたのを、カリン先輩はこんな時に何を言うのだと、トムソンさんを睨みつけて来た。
俺は手でカリン先輩を窘めて、話の続きを待った。
どうせ、非常時ではあるが今すぐどうこうなるものでもない。
今後の対応のヒントでもあればと俺は話を続けた。




