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合流

 

 まあ、実際に応援が無くても、俺たちだけで無理なら情報だけ持って帰り、国に後処理を任せればいいだけだと考えているが。


 俺たちはそんな感じで、今まで国の貴族や上層部から受けた仕打ちについて愚痴を話しながらゆっくりと食事を楽しんだ。


 飲み屋で話している訳でないので酒は出さなかったが、今回はそれが良かったと思う。

 もし酒でも飲みながらだと、俺たちは絶対に不敬罪の罪で捕まるようなことを延々としかも大声で話していたかもしれないから。


 これは今のどの国にも言えるのかもしれないが、特にわが王国は、俺たち下々の目からすると、よく言えば閉塞感を感じる。

 正直に話すと、我が国は少しばかり国の上層部が腐りかけているように見える。


 殿下はそんな国の状況に危機感を持ったようなので、この組織を立ち上げたのだろう。

 それだから、何ら自重などせずにどんどん問題点に切り込んでいるように思える。


 尤もこの感想は殿下の友人でもあるカリン先輩から聞いたことだが、それでも敵ばかりを作るのではなく上手に味方も作っているようでもある。


 殿下は恐ろしくできる人だ。

 権威は大事にはしているが絶対視はしていない。

 上手に使い分けている様に見える。

 もしかしたら、殿下たちは味方と敵のふるい分けをしている最中なのかもしれない。


 俺は、そんな殿下の(たなごころ)で遊ばれているだけだなのかもしれないが、全く不満はない。

 俺は全力で出来ることをするだけだと、そんな気持ちになった時間でもあった。


 食事の後は、皆と別れて俺は自室で休むつもりでいた。

 俺は先の失敗に懲りていたので、溜まる前に仕事を片付けようと艦長専用端末を開いて書類と格闘を始めた。


 まだ、前の報告書を提出してからそれほど時間が経過した訳でないのだが、それでも報告書の類が俺の想像をはるかに超えた分量にまで溜まっていたのには驚いた。


 俺は士官に任命されて宇宙に出てから航海日誌は真面目に毎日記録していた。

 習慣づいたのが良かったのか、艦長になってからも一日と欠かさず艦長日誌を記録している。


 もし、この日誌をためていたのなら、今の惨状ははっきり言ってどこまで広がったか想像すらしたくないレベルになっていただろう。

 もしかしたら、あの時できなかった自殺すらできるようになっていたかもしれない。


 俺は泣きながら報告書お化けと格闘した。

 乗員を休ませる目的で、あの訳の分からない長い名前の小惑星に『シュンミン』を着陸させ応援が来るまでの十数時間を俺はただひたすら書類仕事をしていた。

 本来の目的としては、この時間は士官と言えどもできるだけ休ませる意味もあったのだ。

 しかし、俺はお化けとの格闘で何度も『死んでしまうとは情けない』という声を聴き、何度も挫折しそうになりながら時間を潰していた。


 そんな俺を、この地獄から救ってくれたのは副長のメーリカ姉さんだった。


 応援の第一巡回戦隊がまもなく該当エリアに到着するという連絡を受けた。

 なので、俺を艦橋に呼びに来たのだ。


 俺が艦橋に入り状況を確認後、既に艦橋入りしていたカリン先輩に指示を出す。


「ここまであの艦隊を連れてきたいが、無線だけでは難しいだろう」

「そうですね。

 『シュンミン』で迎えに行きますか」


「いや、そうなるとあの軍がちょっと気になるかな。

 できれば、これ以上軍に邪魔されたくはない」


「確かにそうですね」


「艦載機を出して迎えに行ってくれないか」

「了解しました。

 艦載機をあの航路まで出して、第一巡回戦隊を待ちます。

 こちらから無線で第一巡回戦隊に案内させることを伝えておけば問題無いでしょう」

「そうだな。

 そうしてくれ」


 それから2時間後にこの小惑星の軌道上に第一巡回戦隊が到着した。

 既にシュンミンは応援戦隊の到着を前にして小惑星の軌道上に待機していた。


 軌道上では2隻のフリゲート艦に1隻の駆逐艦が並んでいる。

 第一巡回戦隊の2隻の航宙フリゲート艦は既に一度出会っている『アカン』と『クッチャロ』だ。

 なにせ俺たちが出世する切っ掛け(きっかけ)となったあの事件で、海賊船を拿捕してから最初に出会った王国の艦船だった。

 あの時には、俺たち第2臨検小隊が初めて臨検を受ける立場で第一巡回戦隊から臨検を受けたのだ。

 その後、すぐに処理してくれればいいものを、捕虜と死体だけを受け取りどこかに行ってしまったという非常に冷たい扱いを受けたのをよく覚えている。


 まあ、あの時では捕虜だけでも引き取ってくれたのだから感謝しないといけないことくらいは俺でもわかるが、当事者としては冷たい他人行儀な扱いを受けたとしか思えないのもしょうがない。

 他人どころか全く面識も無かったのだが、あの時の恨みなどというつもりはない。

 恨みも無い。


 むしろ今回の応援に直ぐに来てもらえたことを感謝しているのだが、相手がどう反応するか少々心配はある。


「艦長」

 副長が俺に聞いてくる。

「無線だけでやり取りをしても良いが、やはりここはきちんと挨拶はしておくべきだよな」


「ええ、あの時にも最初に来てもらえた事もありますしね

 何かと縁の有る戦隊ではありますね」


「ああ、そうだな。

 命令だからだとは思うが、捕虜も直ぐに引き取ってくれたしな。

 となると、誰と行くかだが……

 ま良いか。

 旗艦『アカン』に連絡してくれ。

 戦隊司令と挨拶がしたいので訪問したいと」


「了解しました」


 そこからは実にスムーズに事が運ぶ。

 元々第一巡回戦隊はコーストガードで精鋭と呼べるくらいに練度が高い。

 一般の兵士だけでなく、士官全ての意識も高いのだ。

 それに何より、軍からの出向組が誰一人としていないのが良い。


 俺たちはすぐに旗艦『アカン』から出されたチューブを使い『アカン』にカリン先輩と一緒に乗り込むことにした。

 一応このエリアは、いつ何時海賊に襲われないとも限らない。

 艦橋には副長を残すとしたら序列3位に当たるカリン先輩しか選択肢は無かった。

 本当は副長を連れて行きたかった。

 コーストガードって軍人に対するある種変わった感情がある。

 俺やカリン先輩のように軍人にはどうしてもそういった気持ちが入るので、できれば同じコーストガードのプロパーであるメーリカ姉さんだけにしたかったが、俺が行かないとまずいので、それなら同じ軍人でもと考えての措置だ。


 チューブを通って『アカン』に入る。


「広域刑事警察機構 設立準備室 所属艦の戦隊司令兼航宙駆逐艦『シュンミン』艦長のナオ・ブルースです。

 副長に代わり序列3位のカリン少尉を連れて第一巡回戦隊 戦隊司令に面会願いたい」


「お待ちしておりましたブルース戦隊司令殿。

 案内いたします」

 あの時に最初に挨拶をしたグーズ少尉が俺たちを待っていた。

 流石に彼は俺のことは覚えていないようだが、え、覚えているの。


「お久しぶりになりますか戦隊司令殿」


「え、少尉は私のことを覚えておられるのですか」


「戦隊司令殿、私に対しての敬語はおやめください。

 そういえば前も同じようなことを最初に話しましたね」

 そこから簡単に昔話をしながら第一巡回戦隊の司令がいる会議室に通された。


「広域刑事警察機構 設立準備室 所属艦の戦隊司令を務めますナオ・ブルースです」


「お待ちしておりました、司令」

 そこから社交辞令的な挨拶の後、打ち合わせに入る。

 主にカリン先輩が先方に説明している。


 先方も殿下からの要請が入った時に、完全に俺らの指揮下に入ることを内部で決めてきたようで、こちらからの要請には全く反論も無く、『全て指示に従う』とまで言って来た。


 無事、挨拶と指揮命令系統の調整を終え、俺たちは『シュンミン』に戻る。


「副長。

 出発だ。

 発見した航路を今度は敵本拠地に向け進む。

 俺たちが指揮を執るので先頭を進むことになっている。

 そのつもりで艦を進めてくれ」


「ハイ艦長」 

 そういうと副長のメーリカ姉さんは無線機のマイクを取り話し始めた。

 なんで??


「第一巡回戦隊へ発令します。

 只今より戦隊を発進させます。

 コース……、速度4AUにて発進。

 『シュンミン』の乗員諸君、聞いた通りだ。

 4AUにて発進させよ」


 そういうことか。

 今までしたことも無かったことだが、今度は僚艦を従えての行動になるから、事前に連絡しているのだな。

 良かった、俺が指示を出さなくてもきちんとしてもらえて。

 でないと今頃僚艦を置いて先に進んでしまっただろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。ナオ艦長の故郷での評判は殿下の懐刀と言うのと、これまでの実績が静かに伝わる事で。孤児院からの入隊希望者が爆発的に増えるかもです。
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