海賊たちの使っていた航路発見
暫くして副長とトムソンさんが艦橋に戻ってきた。
「艦長。
色々と配慮していただき感謝します」
「室長、何を急に。
とりあえず案内させましたが、あれで問題ありませんか」
「ええ、十分すぎるくらいです」
「ここからなら、それぞれ散らばった捜査員にも簡単に連絡が取れますから、遠慮なくお申し出ください。
あと、室長はそこの椅子をご自由にお使いください。
……
あ、大丈夫です。
そこは本当に予備で、殿下はこちらの椅子をお使いになっておりますから」
「ああ、ありがとう」
なんだか申し訳なさそうにしているトムソンさんを見て副長がトムソンさんに伝えた。
「ほかの方たちには、後ろの部屋で自由にしてくださっても構いません。
あそこは私たちも休憩くらいしか使っていませんので」
副長がトムソンさんに勧めた部屋は、艦橋とは扉一つで仕切られた直ぐ傍にある。
本来は作戦検討などを集まって行うための部屋で、これが民間の船ならば宇宙航路図を利用して進路を検討する部屋で、昔の名残から海図室などと呼ばれる部屋なのだろうが、軍艦ではそれ以上の設備を誇る。
軍艦では商船などとは違い、作戦検討室と呼ばれどの艦にも設けられている部屋だ。
なので、この艦でも十分な環境が整っており、作戦検討室にいれば艦橋内で見ることのできるレーダーや光学センサーの類、また、宙域航路図などをいくつもあるモニターで同時に監視することができるようになっている。
あ、トムソンさんの目的ならあそこに全員を集めれば済んだ話だった。
まあ、様式美というのも大切だ。
楽にボタン一つで捜査してしまうと捜査した感じにならないだろう。
実は艦長席も同じようにいくつもあるモニターで状況を見ることができる。
しかし、どうしてもモニターが小さくなってしまうので、俺は戦闘中で無い限りあまり使っておらず、艦橋正面の大モニターか各担当者の傍で担当が捜査しているモニターを覗き込むことが多い。
今回は、その覗き込む役割をトムソンさん達がすることになる。
小惑星帯の中に入ってから数時間後、やっと俺たちが奇襲の報告を受けた場所に着いた。
「トムソンさん。
ここで、艦載機からの報告を受けました」
「艦載機からの報告って?」
「ええ、トムソンさんから頂いた情報を元に、何かしらの痕跡を探すため艦載機を前方に飛ばしていたのですが、その艦載機がレーザー攻撃を受けたとの無線をここで受信しました」
「なら、実際に攻撃を受けた場所はもう少し先なのですね」
「ええ、これから向かいますが直ぐ傍です」
『シュンミン』をトムソンさんの依頼通りに、艦載機が攻撃された場所に案内した後に実際に海賊船を拿捕した場所まで案内してきた。
ちょうどもう少しで拿捕ポイントに着こうかというタイミングで、後部の攻撃発令所からトムソンさんを呼ぶ艦内電話が入った。
「艦長。
すまんが後ろに居る部下から呼び出しが入った。
何か気になることを見つけたらしいので……」
「私が案内しますよ。
その気になることって、私も気になりますから」
「艦長」
カリン先輩が怒ったように声を掛けて来た。
軍艦内で準戦体勢下においては、乗員全員にそれぞれ決まった持ち場がある。
当然この『シュンミン』でもそれはある。
唯一例外があるとすれば艦長くらいだろう。
艦長にも持ち場はあるのだが、それ以上に艦長には艦全体に対する責任があるので、問題ある部署への移動が艦長権限というほとんど艦内では絶対的な権限で許されている。
まあ普通は許されるはずの無い事だが、そこはそれ、『この艦は軍艦ではないし』との気の抜けたお言葉でうやむやに。
「副長。
どうしても気になるのでトムソンさんと後部攻撃発令所に行ってくる。
艦橋の指揮を頼む」
「ハイ、艦長。
艦橋の指揮権を引き継ぎます」
「艦長」
まだ、カリン先輩は納得していないようだが、後は任せたよ。
俺はトムソンさんを連れて後部攻撃発令所に向かった。
やっぱり後ろの会議室を使った方が良かったな。
後の祭りとはこのことだと思いながら大して大きくない艦内を急ぎ足で向かった。
後部発令所に着くと開口一番でトムソンさんを呼び出した捜査員がモニターの前で俺たちを呼ぶ。
それに遅れて保安員が形式通りに声を掛ける。
「艦長、入室」
そう言って俺に向かって敬礼姿勢を取る。
捜査員を除く後部攻撃発令所に詰めている乗員たちが一旦仕事の手を休めて俺に敬礼姿勢を取った。
こういうのは軍隊から引き継がれた慣例だ。
俺も返礼した後に直ぐに仕事に戻してから遅れてトムソンさんが覗いているモニターをのぞき込んだ。
そこには俺たちが通ってきた形跡が映し出されており、その隣のモニターにはこの辺りの宙域地図が出されていた。
「室長。
これをどう見ますか」
捜査員は室長に判断を求めていた。
しかし俺には何が何だか分からない。
するとトムソンさんは俺に向かって聞いてきた。
「艦長。
今まで通ってきた場所だが、もし反対方向にどこまでも向かったらどこに行くのか知っているか」
「いえ、でもその地図上ではあのスペースコロニーの近くまで行けそうですね」
「悪いが戻る訳にはいかないかな。
俺にはここが一本道に見えてしょうがない。
この目で確かめてみたい」
確かにトムソンさんが言うように、俺たちは一直線でここまで来た。
そもそも一直線でなければ奇襲攻撃などされなかっただろう。
だというなら、ここは航路として使えるのではというのだ。
尤も、ここまでくるのに面倒な小惑星帯を抜けないといけないのだが。
となるとトムソンさんが言うように反対側の終点が気になる。
「分かりました。
直ぐに戻りましょう。
何、そんなに時間はかからないでしょう。
今までは周りを調べながらでしたからゆっくり来ましたが、今度はこの終点まではある程度速度を出して向かえます。
直ぐに艦橋に戻って指示を出してきます」
俺は急ぎ足で艦橋に戻り副長に指示を出した。
「悪い、副長。
直ぐにこの艦を反転させてくれ」
「え、それはどういう……
あのスペースコロニーに戻るのですか」
「いや、先ほど捜査室長と話したんだが、
どうも今通っているコースこそ、俺たちが必死に探していた海賊たちの隠れ航路のようだと言うんだ。
それを確かめるために、今進んでいるコースの反対側を探る必要がある。
どうも俺たちは途中からこの辺りに出くわしたのだが、どこかにきちんとした入り口がある筈だ。
それが分れば、今度こそ海賊たちの本拠地も突き止められそうだ」
「了解しました、艦長」
副長のメーリカ姉さんが俺にそういうとすぐに艦橋内に命令を出した。
「進路反転180度。
速度巡航で、今来たコースを逆走する」
また急に慌ただしくなった艦橋に捜査室長のトムソンが戻ってきた。
「艦長。
ありがとう。
俺の言うことを信じてくれて。
少なくとも、この反転で何かしらのことが分かるだろう」
トムソンさんに言われるまで気が付かなかったが、確かに攻撃を受けてから俺らはコースを変えずに進んでいた。
確かに途中の障害物となりうる小惑星に対応するために光子魚雷を進路上に打ち込んではいたがそれらが触発した形跡がない。
となると、この進路上には小惑星がなかったということだ。
少なくともあの海賊船を拿捕した場所までは無かったし、その先も問題なく進めそうだった。
先に、この航路と思われる先を調査してもいいが、会敵の可能性がある相手が相手だ。
この辺りでは大店の海賊シシリーファミリーであることを考えると、最悪あの軍にでも応援を頼まないと対処できない可能性はある。
いや、そうなる可能性の方が遥かに大きい。
俺一人なら別に構わないが、この船には大勢の部下がいる。
それに乗員でない捜査官も大勢乗っているのだ。
危険を感じてから応援を頼んでも小惑星が邪魔で行けませんなんて返事を貰ったら泣くにも泣けない。
海賊もあの拿捕した海賊船から俺らの艦載機に向け攻撃して、船に被害が出るとすぐに船を捨ててまで逃げ出していることから、向かう先には何かしらの準備はしているだろう。
最悪逃げ出しているかもしれないので、時間も惜しい。
時間との勝負であるが、急がば回れの喩えじゃないが、できるだけ安全策を講じるためにも海賊たちが使っていた航路を探し出さないといけない。
「ええ、多分ですが、これは大当たりの気がします」
「大当たりとおっしゃいますと」
「ええ、これが捜していた航路のような気がします。
まずあのスペースコロニーの近くまで手繰っていってみます」
そう言って、またトムソンさん達と一緒に周りを注意深く観察しながら進んでいった。
流石に来た航路を戻るので、巡航速度で進んだ関係もあり2時間ばかりで、この航路(仮)に出た場所を通り過ぎ、まだまっすぐに進む。
それからさらに2時間ばかりで目的の場所に着いたようだ。




