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反乱未遂

 

 あの食堂だけで時間が潰せる筈も無く、本部から人が来たのは翌日の朝早くだった。

 まあ、時間を潰す目的で食堂に長居したおかげでトムソン室長ともチャーリー監察官ともかなり仲良くなれたのはうれしいおまけだ。


 食堂で時間を潰してから『シュンミン』に戻りそのまま就寝。

 翌日早朝に当直だったマリアに起こされて……マリア一人に当直させたのは誰だ。

 幸い何事も無かったからよかったものの、もしこのコロニーを巻き込んで爆発させたらそれこそ俺たちが犯罪者になってしまう。


 話が逸れたが、マリアに起こされて俺はメーリカ姉さんと前に連れて行かれたあの部屋に向かった。


 この部屋はかなり広かったと記憶していたが、俺が入った時には部屋には既にかなりの人が待っていてかなり狭く感じた。


 ちょうど昨日仲良くなった監察官と顔があったので軽く会釈をして部屋の中央に通された。


「おはようございます、ブルース戦隊司令。

 いきなりで申し訳ないが私は王国軍警察の総括をしている本部長のマキャベリーです」


 俺が部屋に着くなり部屋の最奥にあるおおきな机に座っていた人が俺に挨拶をしてきた。

 昨日はあそこに名前すら聞いていない大佐が座っていたはずだが、そう言えばあの大佐もバードン中佐もこの部屋にはいなかった。

 肩にある階級章は……え、少将。

 目の前の人は宇宙軍の提督だ。

 何でそんな人が中尉の俺にあそこまで腰が低いのだ。


「あ、ご丁寧に、遅れましたが宇宙軍から出向中のナオ・ブルースです。

 宇宙軍での階級は中尉ですが、ここでは戦隊司令を名乗らせてもらいます」


「あなたのお立場は理解しております。

 ……

 が、宇宙軍の中にはあなたの立場を全く理解できないバカがおりました。

 そのバカのために大変なご迷惑をおかけしたことを宇宙軍を代表してお詫びします」


 そう言うと目の前の提督は俺に向かって深々と頭を下げた。

 俺は慌てて提督に頭を上げるようにお願いした。


「頭をお上げください。

 私個人としては事を大きくしないで欲しかったのですが、事が組織や殿下のお立場までを汚すようなことがありますと私としては如何ともしがたく……」


「ええ、存じております。

 ましてや今の宇宙軍上層部は大きな問題を抱えておりますから、ここでさらに事がこじれると宇宙軍が機能不全に陥らないとも限りません。

 流石にそれだけは阻止しないといけないために私がここに参りました」


「は~」

 提督に対して甚だ失礼な態度になってしまったが、提督の言葉にどう対応して良いか分からなかったので、思わず情けない声が出てしまった。

 これが昨日の面々なら激高してその場で射殺されても不思議が無かったかもしれないが、初老の提督はそんな俺の態度を無視して話を進める。

 射殺は大げさか。

 でも殴られるくらいはあったかもしれない。


「この件はこの場で終わらせる為にブルース戦隊司令から聴取をするつもりでしたが、残っている記録や、監察官からの証言だけで状況は完全に把握できました」


「では、私は何故ここに」


「ええ、事をできる限り最小に治めるために戦隊司令に相談したくお呼びしました」


「相談ですか」


 提督からの相談というのは、今回の件の落としどころをどこに置くかということだ。

 俺を監禁した段階で王国の法律を当てはめると反乱に当たるらしい。

 一旦反乱が発生すると、その反乱の範囲の特定から加わった反乱軍の処分など、その後始末は多岐にわたる。

 しかし、あの無線の対応からその報告を俺らが殿下に報告しているので無かったことにできず、しかも決定的に事が大事になったのは俺の監禁だった。

 せめてあれが軟禁だけに収まっていれば反乱などと大げさにせずに組織間の取引で担当者を処分するだけで収められなくも無かったが、それすらできなくなった。

 だから王宮も軍も事の重要性を理解したので、軍警察本部のトップであるマキャベリー本部長を軍最速の航宙フリゲート艦で寄こしてきたのだ。

 ただ、この場で軍法会議を開くには将官が足りず、軍も王宮も軍法会議をその場で済ますつもりはないようだ。

 ただ、傷口を小さくするための措置をとるのに相談してきた。


「彼らの態度は、こちらとしても弁明の余地はありません。

 あなたに対する愚行は明らかに王国に対する反乱ともとれる行動であることは軍としても認めます。

 ただ……」


「ただ……何ですか」

 言いにくい事なのだろう。

 先ほどまでにたかが中尉に頭を下げることをいとわなかった提督が言い難そうにしている。

 よほど言いにくい事なのだろうが俺は、先を促した。


「ハイ、ただ、この場でその反乱を認定しますと、反乱に加わった部隊が少なくとも一個戦隊にまで及びます。

 最悪第二艦隊全体が捜査の対象となり、捜査終了まで機能不全となるために国防面で著しく弱体化してしまいます。

 ですので、今回の件は反乱では無く反乱未遂として扱いたいのですが、戦隊司令のご意見をお聞きしたい」


 提督が言わんとしているのは、行為は認めるが反乱では無くしたいということだった。

 確かに反乱するつもりなどなかったであろうことは俺でも理解できる。

 俺に対する嫌がらせ程度にしか考えていなかったのであろう。

 運がなかったというか、元々バカだったので、あろうことか部下を使って俺を監禁したことが悪かった。

 そう、組織的に俺を監禁したという事実ができてしまったのだ。

 どうも第二艦隊全体かは分からないが、ここに居る戦隊全体に俺に対するヘイトが溜まっているように感じていることも影響したのだろう。


 組織的に俺を監禁したのではなく、今回の場合あの大佐とバードン中佐の二人が部下を無理やり使って監禁したことにしたいと言うのだ。

 これならば反乱未遂という扱いにしても問題ない。

 それでも後始末が大変なのだろうが、現状の落としどころとしては悪くない。


「ええ、それでも構いませんが、そこまで大事にしなくとも……」


「ええ、ですからシナリオ的に、ここでは反乱未遂容疑で五人を拘束して首都に戻ってから調査してしかるべき容疑で処罰する方向で考えております。

 多分、職権乱用と不当拘禁で処罰されることになるかと」


「そうですよね。

 この時期に反乱なんかそれこそ敵対国に利する行為ですからね。

 ですが、何故五人も拘束するのですか」


「ええ、首謀者の二人と、直接戦隊司令を拘束した三人も調べないといけませんから」


「え、あの人たちもですか」


「ええ、気の毒ですが直接あなたを拘束しましたから、いくら命令とはいえ、この場で無罪放免とはいきません」


「ことを小さく収めようとしてもここまで大事になりますか。

 殿下のことが無ければこちらがお詫びしたくなりますね」


「いえ、バカの自由を許した軍の責任は重いです。

 しかし、あなたのような数々の功績を残す軍人を育てられるのに、なぜあのようなバカが上層部に居るのでしょうかね」


 流石は軍警察のトップだけあって俺のことはしっかりと調べ上げているようだ。

 あの勲章を貰った事件だけでなく、今までに沈めた海賊船などについても正確に理解しているようだ。

 それにしても、軍上層部のバカの扱いについて俺に愚痴を言われてもね。

 それこそ軍上層部、特に人事関係の将軍や王宮にでも言ってくれ。

 ……

 あ、だからか、この場に王宮監察官がいるし、その人にどうにかしてくれと暗に言っているのか。


 とにかくこの件は、少なくとも俺たちについては片付いた。

 俺はすぐに解放されたが、俺やトムソン室長が食堂で休んでいるとあの提督の秘書官が今まで調べた経緯などについて報告してくれた。


 なんでも、今回の事件の動機の背景に第二艦隊の焦り、特に補給艦護衛戦隊全体が焦っていることと、その原因を作った俺に対するヘイトが溜まっていたことがあったと教えてくれた。


 焦りとヘイト??

 俺が疑問に感じていることを悟ったその秘書官がもう少し詳しく教えてくれた。


 これは王国軍の根幹にかかわることだが、第一艦隊と第二艦隊とは同列に扱われてきたのだが、先のシシリーファミリーの件で大きく功績面で第一艦隊に水をあけられたと感じている様だった。

 ただでさえ、首都に居る第一艦隊には対抗意識が強いのに、ここに来て軍功で明らかな差が出たことに耐えられなかったようだ。

 特にこれから軍でのキャリアを重ねて行く時期に大切な初期訓練課程においてマーク達と大きな差を作ってしまったことが焦りに繋がっているようだ。

 俺へのヘイトについてもこれに関することだが、どうも俺は第一艦隊とつるんで第二艦隊に差を付けさせるために動いているように思われたようだ。

 止めが、俺らが海賊船を鹵獲してここにこれ見よがしに持ってきたことがあると教えてくれた。


 軍功で差がついた第一艦隊とここでの勤務を交代した第二艦隊は、ここに着くなり直ぐに海賊船の残党狩りに着手したが数日間全くと言って成果が出なかった。

 そこに来て俺らが獲物を見せびらかしに来たように見えたようだ。


 彼らにとっては『第一艦隊には軍功を譲るのに、なぜ俺らには見せびらかすだけなのだ』 といった感じに受け取られたようだ。


 そんなの知らんがな。

 俺はただ自分たちの手に余る件について応援を頼んだだけなのに。

 組織内の評価については自分たちで調整してくれと言った感じだか、そこまで聞いて前に食堂で感じた雰囲気について合点がいった。


 あれは焦りだったのだ。

 そう言えば今回派遣された中に俺らの代の恩賜組が混じっていた。

 急遽呼び戻される格好で軍功の調整を兼ねた措置だと聞いたが、それがかえって悪さをしたのだろう。


 いろいろと教えてくれた秘書官にお礼を言ってから別れた。


 そんな状況ならいつまでも俺たちが居ては良くないだろう。

 直ぐにでも立ち去るか。

 トムソン室長たちは残るのかな。


「トムソン室長。

 どうにか解放されたので、直ぐにでも立ち去ろうかと思っているのですが、室長たちはまだ残るのですか」


「いえ、もし艦長がよろしければ我々を連れ帰ってほしいのですが」


「構いませんよ。

 どれくらいお待ちすれば」


「な~に、直ぐですよ。

 みんな帰りたくてうずうずしていましたから」


「では、皆さんをポートでお待ちしております」


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― 新着の感想 ―
[一言] う~む上層部が馬鹿すぎる… いくら焦りや怒りがあるとはいえ監禁までするとは… 長々と詰問することによって時間的拘束を…とか考えず、ダイレクトに格子の中にぶち込むあたりに頭の悪さが出ていますね…
[一言] いよいよ部外者に初公開か。 まあ常識が通じない艦だからどうなることやら。 自滅させるために改装させた艦が、どれだけのものか知って騒動になりそう。
[良い点] 銃後でのほうがややこしいとは( *´艸`)
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