第7章 「ガーディアン特報・インタビュー編 我が誇りの遊撃服」
外伝編Part3「淡路かおる剣客帖」の主人公、淡路かおる少佐が登場します。
また、第25回つつじ祭の様子は、第2話「乙女の祭典 つつじ祭」で描写されています。
なお、挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
この日の堺電気館で、「ガーディアン特報」として上映されたのは、今年のゴールデンウイークに行われた、第25回つつじ祭りの記録映像だった。記録映像には、こんなサブタイトルがついていたよ。
-第25回つつじ祭り記録映像『皐月の演武』 枚方京花少佐が居合いに捧げた15の春
スクリーンに大写しになった人類防衛機構のロゴが、堺県第2支局ビルのドローン空撮映像に切り替わるのに合わせて、つつじ祭りを紹介するナレーションが始まったんだ。
そうそう、今ナレーションを担当している可愛らしい声の持ち主は、特命機動隊の北加賀屋住江一曹なの。住江ちゃんは、私のクラスメイトでもあるんだよね。
『人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局主催の管轄地域交流祭、通称「つつじ祭り」は、堺県第2支局創設の年である元化元年開催の第1回から数えて今年で25回目を迎え、管轄地域の春の風物詩として親しまれています。』
つつじ祭というのは、私達が配属されている人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局が、毎年5月3日から5月5日までの3日間に渡って開催しているイベントなの。
管轄地域住民との交流と理解向上を目的としていて、現役の特命遊撃士や特命機動隊曹士が、模擬店や各種催しを行うんだ。
目的としては自衛隊の基地開放イベントと同じなんだけど、全体的な雰囲気としては、女子大学と付属女子高が共同開催する学園祭といった感じかな。
ちょうど今、スクリーンには今年のつつじ祭りのイメージ映像が流れているの。
研究成果のパネル展示に、ガールズバンドや漫才の上演、占いの館にメイドカフェと、色んな事をやったなあ。
あれからまだ1カ月も経っていないのに、何だかもう懐かしいよ。
あっ!私の班がやった「メイドカフェ ビクトリア」の映像も使われている!
数秒だけど、メイド服を着た私が出てきたね。
照れ臭いような誇らしいような、複雑な気分だよ。
『今回私達は、第25回つつじ祭りの最終日である5月5日に行われる「皐月の演舞」に居合い抜きで御出演の、第2支局所属の特命遊撃士・枚方京花少佐の、本番までの足取りと、つつじ祭り当日の演舞の様子を取材させて頂きました。』
北加賀屋住江一曹のナレーションをきっかけに、イメージ映像が青一色の静止画に切り替わったんだ。
-4月21日。つつじ祭り2週間前。予行演習直後の枚方京花さんに伺った、直前インタビュー。
ブルーバックに白抜きでテロップが表示されたタイトル画面が終わると、第2支局ビルに幾つかある応接室の1室を映した映像に切り替わったね。
「はい!私が写りましたよ!」
舞台の端でパイプ椅子に腰掛けた京花ちゃんに促され、客席で拍手が打ち鳴らされた。
応接室の椅子に静かに腰掛けていたのは、確かに京花ちゃんだった。
しかし、スクリーンの中にいる京花ちゃんの出で立ちは、舞台の隅のパイプ椅子に腰掛けて生コメントをしている本物の京花ちゃんが着ている遊撃服ではない。
大輪の桜の柄を散りばめた赤い着物に、青一色に染められた袴。
まるで卒業式か成人式に出席する女子大生か、大正時代の女学生を思わせる装いに身を包んだ京花ちゃんは、普段の明朗快活な雰囲気とは一味違った、雅な色香を放っていた。
『皆さんこんにちは!私は人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局所属の特命遊撃士、枚方京花少佐です!日本刀での居合抜きは初体験ですが、ベストを尽くしたいという思いは本物です!』
おっと、喋ったら一発でいつもの京花ちゃんに戻っちゃったね。
何だか、妙に安心しちゃったけど。
『予行演習の直後にお時間を頂きありがとうございます。そして、お疲れの所、誠に恐縮です。それでは早速ですが、その桜柄の赤い御着物と青い袴は、本番用の衣装ですか?』
『はい!本番を想定した予行演習ですので、衣装も当然!本番仕様です。友達の妹さんは着物を着慣れているので、その妹さんに着付けを手伝って貰ったんですよ。どうですか、今の私って?『デモクラシーの時代をハイカラに通るモダンガール』とか、『ロマン溢れる大正桜!』って感じがしませんか?』
スクリーンの中の京花ちゃんは嬉々とした様子で、姿なきインタビュアーに感想をせがんでいる。それも、肯定的な感想だけを受け付けているようだね。
「どうですか?和装の私って、可愛いですか?」
本物の京花ちゃんも、スクリーンの中とほとんど同じような事を言っているね。
客席からは「可愛い!」という声が、まるで歌舞伎の大向こうみたいに聞こえてくるけれど、それってほとんど誘導尋問だよね、京花ちゃん…
『普段の遊撃服姿とは打って変わった、可憐で艶やかな装いですね。実に新鮮な印象です。』
インタビュアーも無難なコメントを選んだね。私は、こう思ったんだけど…
『ちょっと待って下さいよ!それじゃ、まるで普段の私が可愛くないみたいじゃないですか!』
インタビュアーの発言が気に入らなかったのか、スクリーンの中の京花ちゃんは、勢い良く椅子から立ち上ると、激しい抗議を始めたの。
『すみません、そんなつもりで言った訳では…』
インタビュアーの弁明も、スクリーンの中にいる京花ちゃんにはまるで通用しない。どんどん1人でヒートアップしていったんだ。
『私だって、今年の11月で16歳の誕生日を迎える現役の女子高生なんです!年頃の女の子として、今の発言は聞き捨てなりませんよ!』
京花ちゃん…これが記録映像だって自覚、あるよね?少し大人気ないよ。
『それに、あの白い遊撃服は私も含めた特命遊撃士みんなの誇りなんですからね!友達と一緒に、幾つもの死線を潜り抜けた思い出深い遊撃服なんですよ!』
どうやら遊撃服と、遊撃服にまつわる友情の思い出をディスられた事が、京花ちゃんの逆鱗に触れたみたいだね。
友情を重んじる京花ちゃんらしいと言うか、何と言うか。
それにしてもインタビュアーさん、曲解されてちょっと可哀想。
絶対、ディスったつもりなんてないのにさ…
『あの『サイバー恐竜事件』の時も、『黙示協議会アポカリプス事件』の時も、この遊撃服で乗り越えたんです!友達みんなとの大事な思い出が、沢山詰まっているんですよ!』
スクリーンの中の京花ちゃんは早口でまくし立てながら、大袈裟な身振り手振りで憤りを表現していた。本当にしょうがないなあ…
補足だけど、「サイバー恐竜事件」というのは、私達が正規の特命遊撃士に任官されて、始めて参加した作戦なんだ。
マリナちゃんがサイバープテラノドンを大型拳銃で倒す瞬間は、今思い出しても鳥肌が立っちゃう程にカッコよかったよ。
そういう私もレーザーライフルで、何頭ものサイバートリケラトプスの脳天をぶち抜いてやったんだけどね。
そして、「黙示協議会アポカリプス事件」とは、無差別連続テロで世間を震撼させていた武装カルト宗教団体「黙示協議会アポカリプス」を武力鎮圧する時に起きた事件なの。
この鎮圧作戦で私は大怪我を負い、少し前まで病院で昏睡状態だったんだ。
後から聞いた話だけど、「深傷を負いながらも勝利に貢献したから。」という理由で、大尉だった当時の私は2階級特進をさせて貰ったみたい。
せっかく上級大尉を飛び越して准佐になったのに、3年も昏睡状態だったせいでマリナちゃん達に階級を追い越されちゃったんだ。
普段はタメ口で接しているから、そんなに気にならないけど。
まあ、今更こんな事を言っても仕方がないか。
私も早く功績をあげて昇級しないとね。
『これは失礼しました。普段の遊撃服に身を包まれた枚方京花さんのお姿も、颯爽とした美しさに満ち溢れていますよ。』
インタビュアーの取り成すような声と共に、大正ロマンスタイルで憤慨する京花ちゃんの映像が、静止画に切り替わったの。それは、愛用のレーザーブレードを構えてポーズを取る、遊撃服姿の京花ちゃんの画像だった。
-お気に入りの遊撃服に身を包まれた、普段の枚方京花さん。
ご丁寧にも、こんなテロップを添えてね。
「あの写真、私結構自信あるんですよ~!どうですか~?可愛いですか~?」
「可愛い~!」
完全に、客席の人に言わせているよね、京花ちゃん…
『そうですか?そう言われると、満更悪い気がしませんねえ…』
スクリーンの中の京花ちゃんの言葉は、間違いなく本心だね。憤慨の表情は、屈託のない笑顔に取って変わられていたからさ。
-我々の取り成しで、ご機嫌を直して頂いた枚方京花さん。
あーあ、こんなテロップまで入れられちゃって。
『さて、枚方京花さん。今回の「皐月の演舞」における意気込みをお聞かせ下さい。「居合抜きは初体験。」との事ですが、枚方京花さんはレーザーブレードの使い手として有名ですので、日本刀も扱い易かったのでは?』
話がようやく本筋に入って来たよね。心なしか、インタビュアーの声のトーンも、平静を取り戻しつつあるようだよ。
『私も最初はそう思っていたんですよ。けど、レーザーブレードと真剣は重量が違うので、振った時の感覚が全くの別物だったんですよ!』
スクリーンの中の京花ちゃんも、改まった表情になって来たよ。
『だからすぐに、『いつもの力加減で振ってはいけないんだ。』と、考え方を改めましたね。居合いって本当に奥が深いですね。』
『なるほど。それにしても、未経験の居合い抜きを短期間でここまで見事に習得されて、練習直後にも関わらず息一つ乱れていないというのはさすがですね。』
『そんな事ありませんよ。まだまだ至らない所だらけです。個人兵装で日本刀を選択した友達に、居合の型を見て貰っているんですが、ダメ出しされてばっかりですよ。』
『差し支えなければ、お友達のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?』
『私と同じ、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局に所属している、淡路かおるちゃんです。階級は、私と同じ少佐です。』
ここでまたしても、映像が静止画に切り替わったの。
スクリーンには、遊撃服を身に纏った、いかにも物静かそうな黒髪お下げの女の子の写真が大きく表示されていた。
この子が、淡路かおるちゃんだよ。
個人兵装は、庵棟で鎬造りの日本刀「千鳥神籬」。
母校である御幸通中学校では「至高の剣豪」と呼ばれていたんだって。
『在籍している学校も私と同じで、堺県立御子柴高等学校の1年B組なんですよ。大人しくて上品で、黒髪がとっても綺麗な子なんですよ。』
淡路かおるちゃんの髪が美しいのに異論はないんだけど、私やマリナちゃんの黒髪も、満更捨てた物でもないと思うんだけどな。
『だけど、練習では結構手厳しく言われちゃいましたよ。経験者だけあって、私の型の粗が目に付くみたいですね。『枚方さん、手首のスナップが効いていませんよ!』とか、『蹴り足を利かせ過ぎないで!』とかね…』
ここで、画面がまたしても青一色のタイトル画面に切り替わったの。ここから、練習時の映像が挿入されるみたい。




