第3章 「戦う御当地アイドル、それが防人乙女」
こうして私と葵ちゃんが、他愛もない無邪気なやり取りを丁々発止と繰り広げていた、まさにその時だったよ。
「ああ…私、何だか心配になって来たよ、お京の事がさ。」
私と葵ちゃんのやり取りを見守っていたマリナちゃんが、突然不安げに頭を抱え始めたのは。
ちょっと、どうしちゃったのマリナちゃん?
「お京って、B組の枚方京花ちゃんの事だよね?」
「うん。マリナちゃんは京花ちゃんの事を、『お京』って呼んでいるんだ。」
私は遊撃服の袖をクイクイと引っ張って質問をしてくる葵ちゃんに向かって、くどくならない程度に京花ちゃんの事を説明してあげるのだった。
枚方京花。15歳。
御子柴高等学校1年B組。人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局配属の特命遊撃士で、階級は少佐。個人兵装はレーザーブレード。
左サイドテールにした青い髪が特徴的な、元気で明朗快活な主人公気質の子で、私やマリナちゃんの大切な親友だよ。
「京花ちゃんなら大丈夫じゃない?佐官だし、『ガーディアン特報』の生コメンタリーを担当させて貰える位には、上からも評価されているんだしさ。」
マリナちゃんに応じた葵ちゃんの声には、僅かにだが刺が含まれていた。
葵ちゃんが少し言及した「ガーディアン特報」というのは、私達人類防衛機構の活動内容をプロパガンダする為に制作されているニュース映画なの。
人類防衛機構の英語略称であるガーディアン(GUARDIAN. 英:Global United All Race Difference International Association Networking 「世界的に団結した全ての人類の守り手である、国際的組織網。」)を使っているのは、海外発信を視野に入れているからなんだ。
スマホで動画を見られる現代にニュース映画なんて前時代的な手段を取っている理由には、私達を始めとする特命遊撃士の特徴が大きく関わっているんだ。
特命遊撃士への任官資格は、「サイフォース」と呼ばれる特殊能力への覚醒と、ナノマシン投与による生体強化手術なんだけど、このサイフォースは女性にしか発現しなくて、一番活性化するのは10代半ばから20代までみたい。
だから、大学卒業位の年齢になってサイフォースが衰えた特命遊撃士のうち、人類防衛機構に残る人達は、参謀や長官等の幹部に昇格するか、特命遊撃士の上部組織である特命教導隊に入隊するかのどちらか。
中にはサイフォースが衰えずに特命遊撃士を永遠に続けられる子もいるみたいだけど、あくまでこれはレアケース。
人類防衛機構に残らない場合は、除隊して別の道を歩む事になるね。
自衛隊や警察を始めとする公安職系の公務員は、特命遊撃士OGの良い受け皿として機能しているよ。
軍事訓練も実戦経験も、特命遊撃士時代に充分に積んできているから、雇用する側も即戦力として高い期待を寄せているらしくて、願書を出せば一発合格で幹部候補生。今では特命遊撃士OGはどちらの組織でも一大派閥だね。
その上、民間企業や官公庁への就活の場合でも一目置かれるから、特命遊撃士OGという肩書きは下手な資格よりもよっぽど頼りになると評判だよ。
そんな訳で、前線に出る特命遊撃士は往々にして年若い女の子になるの。
お陰様で、私達特命遊撃士の事を、「戦う御当地アイドル」みたいに認知してくれる管轄地域の人達も多いんだ。この人達は私達にもグループアイドルの文脈を当てはめているみたいで、「推しメン」ならぬ「推し撃士」を決めて後援活動を行っているみたいなの。
ガーディアン特報は、「推し撃士」の活躍を大画面で観たいというファンのニーズに応えるのも兼ねて、映画館で上映するニュース映画という体裁を取っているんだって。
支局近隣の映画館では、ニュース映画で活躍する特命遊撃士をゲストに招いては、コメンタリー付き上映やフォトセッションといったイベントも行っていて、人気の高い特命遊撃士が来館する時は混雑するんだよ。
先日の「吸血チュパカブラ駆除作戦」の再現フィルムの、マリナちゃんによるコメンタリー付き上映をした時には、マリナちゃんを慕う民間人の子達が詰めかけて凄かったな。マリナちゃんは女の子人気が高いからね。
それで今回は、京花ちゃんによるガーディアン特報のコメンタリー付き上映と、「アルティメマンアース&アルティメゼクス 甦る超古代魔獣」のリバイバル上映、そして京花ちゃんと雪村志帆さんによるトークセッションとサイン会というプログラムになっているんだ。
京花ちゃんがゲストの大役を任されたのは、京花ちゃんが熱心な「アルティメマン」シリーズの熱心なファンだからという事もあるだろうね。
トークセッションは京花ちゃんと雪村志帆さんの対談方式になったけど、これは現役の特命遊撃士と特命遊撃士OGという意味合いがあるのかもね。何しろ雪村志帆さんは、特命遊撃士OGの肩書きを持つアクション女優だからね。




