第10章 「トークショー完遂せり!そして、危機の予兆…」
「それでは、客席のお友達!大きな声で、『志帆さん』って叫んでね!さん、はい!せ~の、志帆さ~ん!」
「志帆さ~ん!」
完全にヒーローショーのお姉さんと化した京花ちゃんの音頭取りに従って、客席の私達が声を揃えて叫ぶの。お腹から声を出すよう心掛けてね。
そんな私達の声に合わせて、劇場内に「アルティメマンアース」の勇壮な主題歌が流れ、開放された入口から、それに合図にして雪村志帆さんが場内に現れたんだ。
「凄い!本物だよ!」
葵ちゃん、そっくりさんや偽者をこの状況でブッキングしていたら大問題になるよ。葵ちゃんが興奮する気持ちは、私もよく分かるけどね。
「皆さん、お越し頂きまして誠にありがとうございます!『アルティメマンアース』で、科学攻撃隊SAT隊員のサトナカ・ユミを演じさせて頂きました、雪村志帆です。」
程よく引き締まった細身の長身に艶やかな黒髪、そして元気そうな童顔と、何から何まで、テレビで慣れ親しんだサトナカ・ユミ隊員そのものだね。
放送から何年か経っているはずだけど、志帆さんは当時と全く変わらないね。
「はじめまして、雪村志帆さん!自分は、本日司会を務めさせて頂きます、堺県第2支局所属の特命遊撃士、枚方京花少佐であります!志帆さんは、芸能界に入る前は特命遊撃士だったそうですね?」
戦闘シューズの踵を鳴らして最敬礼の姿勢を取る京花ちゃんに、志帆さんも微笑みながら答礼の姿勢で応じた。
「まあ、可愛い後輩さんね!私も第2支局所属だったから、本当の意味で後輩さんになるね!確か、私が除隊した時の最終階級は上級大佐だったよ。」
上級大佐と聞いて、思わず私の身も引き締まる。
「そうなると志帆さんも、現役時代にはつつじ祭りに参加されていたという事になりますよね?」
「ええ、もちろん!一番印象に残っているのは、高2の時のミスコンかしら?その時は残念ながら選外だったけど。」
「選外!?ひどいなあ…今の志帆さんなら、絶対優勝間違いなしなのに!」
京花ちゃんの気持ちは分かるけど、プロの芸能人を支局のミスコンに参加させるのは間違っているよ。
「ありがとう、京花さん。でも、演舞の時の貴女も素敵だったわ。桜柄の赤い着物と青い袴が、目にも鮮やかで…」
「私の演舞、見て頂けたんですか?!ありがとうございます!それに、着物の事まで!でも、今着ている遊撃服の方が可愛いですよね?ねっ、志帆さん?」
それ、志帆さんにも聞いちゃうかな、京花ちゃん?
「あいつ…前言撤回だ、お京の奴!」
私の左側でマリナちゃんが呆れ返っているよ。後で詰問ぐらいはされると覚悟しといた方がいいんじゃないかな、京花ちゃん。
「良く似合っていてよ、枚方京花少佐。その遊撃服を見ると、現役時代を思い出しちゃうね。特命遊撃士時代の経験を買われた私は、『アルティメマンアース』ではミリタリー指導も担当させて頂きました。隊員服は、特命遊撃士OGの私には何ともありませんでしたが、他の出演者からは、『夏は暑くて冬は寒い。』と、不満の声が出ていましたね。」
志帆さん、ナイス!
いささか暴走気味の京花ちゃんの発言を汲み取りながらも、ちゃんと「アルティメマンアース」に話を繋げたね。
そんな具合に志帆さんのフォローもあって、トークショーにサイン会、そしてリバイバル上映会も恙無く終わったんだ。
リアルタイムに見たっきりのマリナちゃんは、参加チケットに付いてきたA4サイズのブロマイド。
テレビシリーズの復習はレンタルDVDで済ませてきた私は、劇場版のプレミアムDVDボックス。レンタルに入っていない特典ディスクを手元に置こうと思って買ったんだ。
そして、熱心なアルティメマンアース信者の京花ちゃんと葵ちゃんは、テレビシリーズのブルーレイボックス。
こんな具合に、各々の熱狂具合や個性に応じて、サインを頂く物品が変わるのも面白いよね。
さて、上映会は無事に終わったけれども、私達4人は雪村志帆さんを囲む懇親会にも参加を予約していたのであった。
私達4人は志帆さんと一緒に、会場である堺銀座商店街にあるイタリアンバルまで、ブラブラと歩を進めていたの。
時間を空けて再集合をかけるらしいから、他のお客さんは別行動をしているみたい。今頃は近所のアニメシアにでも行ってるんじゃないかな。
「お京…質問に答えたプレゼントって、お京の私物のガチャポンじゃないかよ?」
堺電気館から出た所で、ガチャポンのカプセルを手のひらに乗せたマリナちゃんが、京花ちゃんに食ってかかっている。
マリナちゃんが不平を漏らす原因は、京花ちゃんがサイン会の時にくれた、クイズコーナーの景品だったの。
100円のガチャポンで売っているアルティメマンシリーズの指人形なんだけど、どれもこれも上映作品とは無関係の、初期シリーズのキャラクターで、オマケにお世辞にも人気のない敵のエイリアンと怪獣ばかりだった。
ちなみに私に与えられたのは、シリーズ第2作「アルティメゼクス」の第1話「まほろばの光」に登場した幻影宇宙人ユフラテ星人の指人形。
確かに「アルティメゼクス」は人気作品だし、第1話は重要な話なんだけど、ユフラテ星人はそんなに人気がないんだよね。
「だって、扱いに困っていたんだもん…日本橋のホビーショップで6体まとめて100円買い取りじゃ、情けないしさ…」
「持て余していたダブりのガチャポンを、プレゼントと称して体良く押し付けたのかよ、お京…深海人類ギルマンなんて、今回の映画に出ていなかっただろ!」
「京花ちゃん!私、溶岩怪獣マグマスの指人形持っていなかったから、ちょうど良かったよ!」
のらりくらりとした態度を取る京花ちゃんに、呆れ顔のマリナちゃん。そして、フォローのつもりなのか、満更でもなさそうな声を上げる葵ちゃん。
何とも平和な土曜日の夕方だけど、それも長くは続かないんだよね。




