オサラバしましょ!
これで、コンドルのくだりは一旦終了です!
「いやー、いやいや。あなたが悪名……、じゃなくて確実に依頼をこなすことで高名なコンドルでしたか」
(こいつ、涼しい顔して喧嘩売ってんのか?)
ユリシーズはコンドルが思ったとおり、涼しい顔してイラッとくることを口にすると、コンドルに抱き起こされ、立ち上がった。
その身なりと言えば、皇族のものではなく、一般人の服装そのもの。
身を隠すために変装でもしていたのだろう。そして、軽く会釈をするとそのまま牢屋へと入り込んだ。
後ろで控えていた者たちも一緒である。
「それにしてもこんなところでお会いするとは。これも神の思し召しでしょうか? あ、さっきはガチで神の元へ送られそうになりましたけど」
(……実は根に持つタイプか? 俺、やばくね?)
殺されかけたのに、まるで笑い話のように話すユリシーズの調子に、コンドルは全くついていけなかった。
「ユ、ユリシーズ様!」
「おぉ、カレン! 無事だったか!」
と、まだ手枷が付いている囚われの女性ーーカレンは、ユリシーズの名を呼び、駆け寄って抱き着いた!
ユリシーズも、彼女の無事を喜ぶように抱き締めている。
「ユリシーズ様! よく、よくご無事で……!」
「カレン、君には辛い思いをさせてしまったな。すまない、不甲斐ないこの私を恨んでくれ」
「そんな……私はただユリシーズ様のことを思えばこそ……」
「いいんだ、カレン。みなまで言うな。私は、私は……!」
「……なんなんだ、この茶番は!」
再開を喜び合う二人だが、ここは牢屋である。
考えようによっては敵陣の中なのだが、二人はそんなことお構い無しにイチャつき始めた。
それを見ていたコンドルは、今すぐこの場をほっぽり出して帰りたい気分になってきていた。
「ちっ! 全くもぅ!」
「コンドル様……ですね」
すると、彼にそう話しかけながら膝をつく者がいた。
「あんたは?」
「近衛師団第三小隊の隊長を仰せつかっております。クラウドと申します」
「近衛師団? 身辺警護の連中か?」
「現状でいえば、お恥ずかしい限りですが……」
「詳しい話を聞きたいな」
そう言ってコンドルはユリシーズとカレンに視線を戻す。
人目もはばからず、二人は身を寄せ合い、腕を絡めたり、見つめ合ったりとイチャイチャしている……
それを見て、急に体から力が抜けるのを感じたコンドルだった。
その場に座り込み、ぼやく。
「俺は何のためにここまで来たんだ?」
「いやいやいや、コンドル殿。とても助かりましたよ。私たちはカレンを探していたんですが、場所までは突き止めることができても、その先へ進むことができなかった」
「は?」
ユリシーズの「ちょっとおかしな発言」を聞いたコンドルは顔を上げ、ユリシーズの方を見た。
「あなたが情報屋から受け取った内容は、我々が流したものです」
今度は膝をついたままのクラウドが口を開いた。
「は?」
ユリシーズ(とカレン)、クラウドを交互に見やって、コンドルは顔を見てヒクつかせていた。
「俺、嵌められたのか?」
「まさかそのような。しかし、あなたがこんなに早く行動に移すとは思わず……」
クラウドの話をまとめると……
情報屋から嘘の情報を受け取ったコンドルだが、まさかその日のうちに行動するとは、ユリシーズたちも考えていなかった。
慌てて後を追い掛けたが、城の兵士の方が一足早く牢屋に駆け付けており、コンドルを狙っていた。
あの時彼を襲った弓は、この城の兵士が放ったものだったのだ。
コンドルは素早い動作でこの牢屋の中へ逃げ込んだ。
彼を見失った兵士は暗がりの中を探し回っていたが、そこをユリシーズたちに不意打ち同然で襲われたらしい。
あのドヤドヤした気配はユリシーズたちだったのだ。
「はっ、そういうことだったのかよ」
「どうかご理解下さい。我々としましても、あなたを振り回すようなことは……」
「事情は後で聞かせて貰うぜ。まずは脱出だ」
「し、しかし、ここはハズレとはいえ城の地下。恐らく兵もこぞってやってくるでしょう。脱出に関しては策をしっかりと講じなければ……」
「ノンノン。問題ナッスィングだ」
クラウドの心配をよそに、コンドルは懐から一枚の紙を取り出した。
「それは?」
「魔法の経路が書かれた魔法符だよ。転移魔法の経路が書かれてる。あとはちっとばっかし魔力を流すだけだ」
「行き先はどちらになるのでしょう?」
「心配すんな、危ねぇところじゃねえ」
コンドルは返事をしつつ、魔法符を床に広げると、ドヤ顔でユリシーズたちを見上げた。
「さぁ、行くぜ。行き先は……」
魔法符に描かれた経路が白い光を浴び始めた。
「アルブラム領だ!」
コンドルがそう口にした時。
その場にいた者たちは光に包まれた。




