そして三年が経ち……
ネタが固まったので、進めていきます!
いよいよ、戦争かな?
ーーあれから何年、経ったのでしょう?
たかだか三年だが、それが何か?
ーーなんてな。
この三年の間に、我がアルブラム領は大きく変わった。
迷宮は帝国の調査隊が入り、最後の部屋に例の女神のレリーフが発見されたことから、
「女神の迷宮」
と名付けられた。
女神の迷宮か……、何とも安直な……
確かに女神はいたぞ。この世界を恐怖のどん底に叩き落とすとか言われている「アネッサ」という美女。
相変わらずトム君に、
「ダーリン❤︎!」
と言って抱き着いているが……
あぁ、因みにトム君は服飾関係に才能があったらしい。
作るわけじゃなく、買い付けてきたものにマージン乗せて売り捌いているんだが、筋がいいんだろうな。
冒険者ギルドが建ってから、その道端に出した露店が始まりだった。
「最果てのくせに、置いてある服は上等だ」
という口コミと。
「あの姉ちゃん! なんつーバディだーーー!」
という口コミ……
アネッサの仕事着と化したビキニアーマーが来る人の話題(視線)を掻っさらい、彼女目当てで客が来るわ来るわ……
結果として、トム君はたった三年でアルブラム領でトップクラスの実業家となった。
どれだけ経済効果があるんだ、あの女神は。
店の屋号は「トムアンドアネッサ」。
これまた短絡的だな……
それにしても俺と出会った頃はただのチンピラだったのに。
酒場で俺に絡んできたクセに、俺にブン殴られたトム君がねぇ。
人は分からんものだな。
因みにあの頃の取り巻きはトム君の店で従業員としてあくせく働いている。
待遇はいいらしい。
一日八時間、早番、遅番のシフト制で週休二日制。
年二回のボーナスに、買い付けイコール出張扱いとなり手当も出る。
年商はグングン右肩上がりで、帝都にも出店の計画があるとか。
どんだけホワイト企業なんだよ、トム君!
俺も就職しようかな?
ちなみに、迷宮のコアは帝国の調査が入る前に動かしといた。
最深部である「翼の間」の奥に隠し通路があって。
そこにバカでかい魔力結晶があるんだが、バイゼルによると、封印されてたアネッサから溢れる魔力を吸収して動いてたらしい。
なもんで、稼働した後が心配だったんだが。
魔物が溢れれば、その魔物たちの魔力を少しずつ吸収して動くらしい。
なるほど、迷宮も魔物と持ちつ持たれつなんだな。
アネッサいなくても大丈夫じゃん。
コアは、稼働のきっかけになる魔力さえ送り込めば動くっていうから早速やってみたら、あっという間に魔物が増えて囲まれた。
バイゼルの瞬間移動で事なきを得たから良かったけど、下手すりゃ死んでたわ!
帝国の調査隊もよく持ちこたえたもんだ。
流石だな。
まぁ、トム君の話はもういいや。
フランの親方も凄かった!
迷宮周辺に建てられたのは……
冒険者ギルド。
ギルド職員の寮。
宿屋に酒場兼食堂。
武器屋に防具屋。
何故か知らんが旅行代理店なんかもある。
そのいずれも、フランの親方とその弟子たちで建てちまった。
親方曰く、
「アルブラム領の木材は密度が高くて締まってる。頑丈だから建物の構造にはうってつけなのよ!」
てことらしい。
ちなみに、その木材はブラムウッドと呼ばれてて、帝都では硬すぎて加工しにくいことから商品価値は超が付くほど低い。
だが、この領地には俺がいる。
硬い?
じゃ、柔らかくすればいいじゃんてノリで、物質変換の魔法を使って柔らかくしてみた。
結果、驚く程に加工がしやすくなった。
削り節作るみたいにシャカシャカ削れるもんだから、製材が捗る捗る♪
気が付けば、俺は木材製材所の所長に就任させられ、ブラムウッドはその品質が見直されて今じゃ帝国中の建築物に使われ始めた。
親方め、領主である俺に製材させるなんて、いい度胸してるよな。
あ、俺は柔らかくしただけなんだけどな。
シャカシャカするのは弟子たちだ。
「領主がいねぇとブラムウッドはハケねぇんだよ、ガッハッハ!」
親方は今日も弟子たちに檄を飛ばしている。
頑張れ、弟子たち。
因みにブラムウッドを削った後に出る削り節は、よく燃えるってんで、焚付け用の火種になっている。
これも、親方が格安で販売したら大当たり。
地産地消って、いいねぇ。
親方たちの建てた家屋だが、その造りの良さや装飾の良さが領地外からやってきた者たちの目を引き、親方の仕事っぷりを取材しに来たり、はたまた仕事の依頼が来たりと、親方は日々忙しそうだ。
人の流れだって凄い。
迷宮を解放するだけで流動的に人が押し寄せるもんだから、いろんな人間が増える。
当然、治安だって悪くなる。
帝都の方からも警備隊が来るんだが、手に負えない事案だって発生する。
だから結成しましたよ自警団。
あの石切場で変な掛け声出しながら石を斬りまくってた七人がそれだ。
小早川五右衛門殿を筆頭に悪を裁く世直し七人衆。
「星屑の七星」
こいつらが出張ってきたら、まぁ凄いよ。
騒動は一瞬で沈黙するもんね。
元々戦闘能力は高かったみたい。
話を聞いたら、どいつもこいつも流れの騎士だったり傭兵だったり、潰れた国の近衛師団長とか、よりどりみどりだ。
解決、撲滅、迅速、いずれもマッハ!
がポリシーらしい。
うん、絶対敵には回したくねぇなぁ……
よく喧嘩が起きるのは酒場なんだが、あそこは何故かすぐに騒動が鎮火するんだよなぁ。
どうやら、店主とその嫁(結婚したんかよ!?)であるアンジェリーナが丸く収めるらしい。
あのババァ。
何かと俺に引っ付こうてしてきたクセに……
いや、別に惜しくはないんだよ。
ちょっとしつこかったから……
その、まぁ、なんだ。
……
正直、惜しかったよ……
しっかしまぁ、思い返してみればよくあんな提案が通ったもんだ。
お陰で、我が領地は凄まじい勢いで発展してるけど。
ユリシーズに感謝だね。
ところで、バイゼル曰く、我が領地の食料生産、需給率はほぼ一〇〇パーセントらしい。
そりゃそうかもな。
収穫した作物は、領民が食べるだけじゃなくて、ギルドの食堂とかにも卸してるんだよね。
収穫期過ぎて暇を持て余してるおばちゃんたちが何かするってギャースカうるさいから、
「じゃ、ギルドの食堂で飯でも作れば?」
なんて言ったら、食堂で郷土料理作ってさ。それがまた美味いってんで看板メニューになるし。
そうなると、少ない人材は地元からってんで、ギルドは地元優先で職員採用したでしょ。
その結果、帝都の人間だけじゃなく、うちの領地の人間もギルドで働いてるし。
若い世代が、働きたくても子ども預ける場所がないって言うから託児所作ったら繁盛しちゃったし。
何なのこれ?
お陰で昨年度の予算書で予定してた税収を上回っちまったぞ。
こりゃ、来年度の予算計上はやり直しかもなー。
そんなこんなで納める分は納めて、余った分は特別会計に回した。
これは未来への投資だ。
それにしたって上手く行きすぎだなぁ。
領民は喜んでくれてるけどな。
領民が粋で、良くしてくれるからって帝都の人間も住み心地がいいんだそうな。
家族で引っ越してきた奴もいるし。
良かったよアルブラム領。
うん、俺は頑張った!
良くやった!
あの時俺を解雇した宮廷魔導師長に感謝したいね!
ーーそう思ってたんだ。
あれが来るまでは……。
ある日、俺は執務室で一枚の薄っぺらい書類を、震える手で握り締めていた。
「ーーで、何だよこの通知は?」
「……どうやら美味い汁を吸いたい連中が現れたようですな」
「にしてもだぜ、バイゼル。こりゃないだろ」
「えぇ、これは納得いきませんな。由々しき事態です。なにせ、我々は第三皇子であるユリシーズ様と条件を合致させて締結したのですから」
「それを無視するってことは……何かあったな」
俺は机にその書面を置いた。
そこには、こう書かれてある。
アルブラム領に対して、増税を課すと。
さらに、締結の条件を、以前帝国が掲示した条件にすると。
そして、それを決裁したのは……
「で、第一皇子がサインしてるってわけだな」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ……
普通なら、こう言ったことはユリシーズの承認がなければならないはず。
それを通り越してきたってことは、帝都で何かがあったんだろう。
俺の背中がゾクリとした。
何か、とてつもなく嫌な予感がする……,
「そしてご当主。こんなものも……」
とバイゼルが机の上に置いたのは……。
……各方面から寄せられるお見合いの紹介状だ。
「……今、これ出すの?」
「ご決断はお早い方がよろしいかと」
「……これはいらん」
俺はそっと、手でそれを押し返した。
そして、数日後。
その嫌な予感は当たった……。
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