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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
161/227

第159話 戦慄っ!地獄将軍ロスヴァルト(前編)

 囚人を救出すべく刑務所へと潜入した一行だったが、ファットマンの非道な行いを許せず、さやかが敵の前に姿を現す。量産ロボの相手を仲間に任せ、さやかは一人ファットマンに戦いを挑む。激闘の末勝利をつかんだものの、戦勝ムードに水を差すように新たな敵が彼女たちの前に現れる。


『私はNo.027 コードネーム:ゼネラル・Uユー・ロスヴァルト……バエル様よりこの地を任されし、バロウズの将軍よッ! ファットマンは私の無能な部下に過ぎん! ヤツを倒した程度で刑務所を解放したなどと、勘違いもはなはだしい! 私を倒さぬ限り、虫ケラどもに自由が戻ってくる事など無いと思えッ!!』


 漆黒の鎧を着た狼男ウェアウルフの騎士のような姿をした男は、自分こそが監獄の支配者なのだと高らかに宣言する。


「バロウズの将軍……だと」


 敵の名乗りを聞いて、ミサキが思わず後ずさる。監獄を統治していたのはファットマンだと思い込んでいたために、不意を突かれた。


「ふん……バロウズの将軍だから、何だって言うのよ。ボスバトルだかチーズタルトだか知らないけど、アンタなんか怖くも何とも無いんだから。ピザまんよりちょっと強いからって、いい気にならないでよね」


 さやかが負けん気な台詞セリフを口にする。ファットマンより強い敵が現れてもおくしたりしない。


「私は……私たちは、どんな強敵が現れようと、絶対に負けないっ!」


 メンバーの先頭に立つように一歩前に踏み出すと、人差し指を相手に向けながら、力強く戦う宣言を突き付けた。


『良かろう……ならば何処からでも掛かってくるがいい。貴様らはすぐに力の差を思い知る事になるのだからな……フフフッ』


 ロスヴァルトが相手をめたように腕組みしたまま、仁王立ちしながら含み笑いする。


「ゆりちゃん、ミサキちゃん、アミちゃんっ! 敵を四方から取りかこんで、同時攻撃を仕掛けるよっ!」


 さやかがテキパキと仲間に指示を送る。目標が分散すれば、敵も必殺の一撃を放てないだろうという計算があった。


「わかった!」


 少女の言葉に従い、他の三人がクモの子を散らすように散開する。

 四人は正方形を描くように等間隔に距離を開けて、ロスヴァルトを中心にとらえる。互いに合図を送るように目くばせすると、同時に敵に飛びかかった。


「やぁぁああああっ!」

「どりゃぁぁああああーーーーっ!」

「でぇぇやぁぁああああっ!」


 さやかはキックを、アミカはパンチを繰り出し、ゆりかとミサキは槍と刀をそれぞれ手にして相手に斬りかかる。

 攻撃が目前に迫っているにも関わらず、ロスヴァルトは防御する素振りすら見せず、腕組みしたまま平然と立っている。


 やがて四人の繰り出した攻撃が狼男の体に触れて、鈍い金属音が鳴る。振動が辺り一帯に響き渡り、場ににわかに静寂が訪れる。

 攻撃を放った少女たち、それに囲まれた男の計五人は、数秒間全く動かない。


 囚人たちは少女が敵を仕留めたのだろうと確信を抱く。

 だが……。


「う……そ……」


 男の装甲ははがねのように硬く、少女たちが放った攻撃はかすり傷一つ負わせられなかった。


 彼女たちは一瞬何が起こったのか全く理解できなかった。

 ロスヴァルトは鎧騎士であったものの、外見はブリッツやファットマンら重装甲タイプほど硬そうには見えない。バリアを張った訳でもなければ、防御の構えを取った訳でもない。

 にも関わらず、彼は腕組みして仁王立ちしたまま、少女たちの渾身の一撃を無傷でしのいだのだ。その事実が到底受け入れられなかった。


『フフフフフッ……フハハハハハハッ! 馬鹿めッ! 馬鹿めッ! 大馬鹿者めッ! このうすらトンチキの、大マヌケめッ! だから言ったではないか、力の差を思い知る事になるとッ!!』


 ロスヴァルトが少女の浅はかさを侮辱する。最初からこうなる事が分かっていたと言わんばかりに笑いが止まらなくなる。


『ムゥンッ!!』


 直後肩に止まったハエを振り払おうとするように、拳を強く握った右腕で横一閃いっせんぎ払う。


「うっ……ぐわぁぁぁあああああーーーーーっ!」

「ああああぁぁーーーーーーっ!」


 ショックのあまり茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた四人は、男の一撃を避け切れずに殴り飛ばされてしまう。ほこりのようにあっけなく飛んだ少女の体は地面に激突して、全身を強く叩き付けられた。


「ううっ……くそおっ!」


 少女たちの中でさやかが一早く立ち上がる。攻撃が効かなかった悔しさで頭に血がのぼって冷静さを失う。


「こんのぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーっっ!!」


 大声で叫びながら敵に向かって猪突ちょとつ猛進し、全力で殴りかかろうとする。

 だがさやかが繰り出したパンチが触れようとした瞬間、ロスヴァルトの姿がフッとワープしたように消える。


『馬鹿め、何処を見ている?』


 そんな言葉が背後から放たれて、少女の全身が巨大な影で覆われる。相手が一瞬にして背後に回り込んだ事は疑いない状況だ。

 さやかが後ろを振り返ろうとした時、巨人のように大きな手が、彼女の頭をワシづかみにする。


「うああああああっ!!」


 頭をプレス機で挟まれたようにギリギリ締め付けられ、少女が悲痛な声で叫ぶ。掴まれた頭ごと空中に持ち上げられたまま、苦しそうに手足をジタバタさせてもがく。骨がメリメリ砕ける音が鳴り、男が腕に力を込めたら、少女の頭がザクロのように砕けてしまいそうだ。


「さやかを離せぇぇぇぇええええええーーーーーーーーーっっ!!」


 ミサキが刀を手にして猛然と斬りかかる。


『返して欲しければ、望み通り返してやるッ! ほらよッ!!』


 ロスヴァルトはそう言うや否や、それまで手で掴んでいたさやかを、相手に向かって力任せに投げ付けた。


「何っ!? しまっ……のわぁぁぁぁああああああっ!」


 ミサキは予想外の行動に反応できず、飛んできたさやかに巻き込まれて、一緒に吹き飛ばされてしまう。まさか敵があっさりさやかを手放すと思わなかった事が、一瞬の判断の遅れに繋がった。


「ううっ……」


 最後は二人仲良く地面に倒れ込む。仰向けに大の字に寝転がるミサキの上に、さやかがうつ伏せに折り重なる形となる。


(……なんて恐ろしい敵なの)


 それまで戦いを眺めていたアミカが、ロスヴァルトの強さに戦慄した。頼もしい先輩二人を子供のようにあしらった敵の底知れぬ実力に、力を出し惜しみして勝てる相手ではないと覚悟を抱く。


「エア・ライズ……ファイナルモードッ!!」


 全てを出し切る決意を固めると、右腕にある三つのボタンを全て同時に押す。金色の光に包まれて全能力が百倍に跳ね上がると、アミカはすぐさま敵に向かって駆け出す。


「……シャイン・ナックル!!」


 大声で技名を叫びながら、相手の腹に全力の拳を叩き込んだ。ドォォーーーーンッと天地を揺るがさんばかりの爆発音が鳴り、その衝撃で周囲の砂塵が一気に舞い上がる。


 当のロスヴァルトはその場から一歩も動いていない。並みのメタルノイドなら確実に倒せる威力の一撃を受けたにも関わらず、痛みを受けた様子が全く無い。


「シャイン・ナックル……ガトリング・ショット!!」


 それでもアミカはひるむ事なく、今度は両拳を駆使した高速の連打を放つ。


「うららららららららぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーっっ!!」


 勇ましい雄叫びと共に、ロケットの砲弾のごとき剛拳が、秒間何十発という速さで繰り出される。それが狼男の腹に触れるたびにドガガガガッという音が鳴り響く。まさにガトリング砲をフルオートで発射したような爆音がこだまする。


 そして五秒が経過した――――。


「ハア……ハア……ハア……」


 百倍モードが解除されて力を出し尽くしたアミカが、ぐったりとうなだれる。表情に疲労の色が浮かび、全身から汗が滝のように流れ出し、激しく息が上がる。足がガクガク震えて力が入らず、まともに立つのさえ困難になる。


『それがお前の実力か……残念だったな。その程度の力では、私は殺せん』


 ロスヴァルトが少女の努力をあざけるように見下ろす。オメガ・ストライクと同威力のパンチを百発以上叩き込まれたにも関わらず、狼男は全くの無傷だった。


『クククッ……はかないものだな。無駄な努力というのは、実に儚い。ツルツルのガラスびんに閉じ込められた虫が、必死にい上がっても抜け出せないのを見るようで、実に哀れだ……』


 必死のあがきを、無意味な抵抗だとあざける。


『フンッ!』


 力の篭った掛け声を口にすると、すきだらけになった少女の腹を、足のつま先で思いっきり蹴飛ばした。


「うぼぁぁぁぁああああああっ!」


 アミカが奇声を発しながら後ろに弾き飛ばされる。地面に落下すると、その勢いのままローラーのようにゴロゴロ転がっていく。最後は蹴られた腹をいたわるように両手で押さえたまま、ゲホゲホッと苦しそうにき込んだ。


「アミちゃんっ!」


 ゆりかが負傷した仲間の元へと慌てて駆け寄る。青い光を注ぎ込んで、すぐに治療しようとする。


(このままだと……私たちは勝てないッ!)


 治療を行うと同時に、敵のあまりの強さに心の中で恐怖した。


 かつて一行が戦ったサヤカも確かに強かった。ゆりかの中では、彼女は特別な存在だと認識していた。普通の敵ならば、アミカの高速ラッシュを叩き込まれたら生きてはいないはずなのだ。


 だが今戦っているロスヴァルトという男もまた、まぎれもなく強敵だった。間違いなく普通のメタルノイドより格上だと思わずにいられなかった。


「フハハハハッ! 見たかぁっ! ロスヴァルト様は、バロウズの地獄将軍と呼ばれ恐れられたお方だぞっ! バエル様以外に勝てる者などはせんのだぁっ! ヒャッホーーーーーーイッ!」


 戦いを眺めていた見張りの兵士が、主君が優勢である嬉しさのあまり、大はしゃぎしてぴょんぴょん飛び跳ねた。


「何だとコラァッ! もういっぺん言ってみやがれ、コノヤロウ! お嬢ちゃん達はどんな相手だろうと、絶対負けねえんだよっ! コンチキショウ! おととい来やがれ、べらんめえ!」


 兵士の言葉に反発した囚人たちが食ってかかる。


「やんのか、コラァ!」

「うるせえ! このスットコドッコイ!」


 兵士と囚人は互いに中指を立てたりブーイングしたりしてののしり合う。兵士が銃を持っていようとお構いなしだった。


(くだらん事でケンカしてる場合かっ! まったく……)


 物陰に隠れて見ていたゼル博士が、思わずため息をつく。


(とにかく敵の強さの秘密をあばかん事には、どうにもならん)


 ポケットから機械が付いた眼鏡のような装置を取り出すと、それを顔に掛けて、敵の能力を解析し出す。少しでも勝利の可能性に繋がるようにと一縷いちるの望みを託しながら……。

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