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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第四部 「Q」
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第140話 恐怖!魂を入れ替える者っ!(前編)

 改心したトータスから人間に協力的なメタルノイドの存在を伝えられたさやか達は、雪山で氷漬けにされていたフェニキスを救出する。だがそこに彼を氷漬けにした張本人である悪しきメタルノイド、ドゥームズデイ・ビホルダーが姿を現し、装甲少女を亡き者にせんと息巻いて襲いかかってきた。

 さやか達は激闘の末に見事ビホルダーを撃破し、フェニキスは晴れて自由の身となるのであった。



 フェニキスを約束通り村へと連れて行って、トータスの怪我が完治するまで数日間滞在すると、一行は再び村を離れて旅立つ。

 トータスと会う前に乗り捨ててあったキャンピングカーを回収すると、フェニキスから教えられた目的地を目指して走り出す。


「すすめーー、すすめー、ものどーーもーー」


 さやかは楽しそうに歌をうたいながら、座席シートに座ったまま体を左右に揺らしている。顔はやたらニコニコしていて、お小遣いをもらった小学生のように上機嫌だ。今ならゴリラ呼ばわりしても怒らなそうな雰囲気すら漂わせている。


「さやか、ずいぶん楽しそうだな。何か良い事でもあったのか?」


 やけに嬉しそうな仲間を見て、ミサキが首を傾げた。


「そらそうよっ! バリアの外に出てからここまで、順調に旅が進んでるんだものっ! 順調すぎて怖いくらいだわっ! そこそこ苦戦もしたし、悲しい事もあったけど、それでもトータスとフェニキスを仲間に出来たのは大収穫っ! おかげで本州の残る三体の敵の居場所も分かった! これが喜ばずにいられますかっ! ふおおおおおおっ!」


 さやかは座席シートから立ち上がると早口で力説しだす。興奮気味に鼻息を荒くして、口からは大量のつばが飛び、ミサキの顔に数滴ほど掛かる。何か変なものでも吐き出しそうな勢いでりきんでいる。


「……」


 ミサキは仲間のあまりのテンションの上がりっぷりにドン引きして、顔に掛かった唾をハンカチで拭きながら、あえて声には出さず心の中で「おちつけ」と言った。


「オラァッ! バロウズども、どっからでも掛かって来いやぁっ! どんな敵が襲ってきても、ワンパンで蹴散らしてやるわっ!」


 さやかは男みたいな口調になってガニまたになりながら、シュシュシュッと拳を何度も突き出す。完全に漫画やアニメの最強主人公のような気分にひたる。


 だがその時車が急ブレーキを掛けてまり、彼女はバランスを崩した拍子に頭を強く打ち付けてしまう。


「へぶるぁっ!」


 みぞ落ちに蹴りでも食らったような声が口から飛び出す。

 頭には石ころのように大きなたんこぶが出来上がり、じんわりと広がる痛みに思わず泣きそうになる。


「ううっ……ひどいよお」


 恨みぶしを吐きながら、乱暴な運転をした博士の方をジト目で睨む。最高潮に達していたテンションはだだ下がりになり、なんて酷い事をするんだと文句の一つでも言いたくなった。


 だが少女の反応を気にかける余裕は無いと言わんばかりに、博士が血相を変えながら大きな声で叫んだ。


「センサーに反応があったッ! 車から半径二十メートルの範囲内に、メタルノイドが潜んでいるぞッ! 気を付けろッ!」


 敵が近くにいる事を伝えて、警戒するよううながした。車に搭載されたメタルノイド探知センサーによって、相手の待ち伏せをあばいたのだ。


「わかったわ!」


 一刻の猶予ゆうよもならない事を知り、さやかは頭の痛みを忘れる勢いで博士の言葉にうなずく。仲間と一緒に車から降りると、すぐに変身の構えを取る。


覚醒トランスッ! アームド・ギア、ウェイクアップ!! 装甲少女アームド・ガール……その赤き力の戦士、エア・グレイブ!」

「青き知性の騎士、エア・ナイト!」

「白き鋼の刃、エア・エッジ!」

「未来を照らす星の光、エア・ライズ!」


 光に包まれて戦士ヒーローの姿へと変わると、四人の少女は一斉に名乗りを上げた。

 少女たちが変身を終えた時、少し離れた場所にあった岩の陰から、巨大な何かが姿を現す。


『チッ……いきなり姿を見せてビックリさせてやろうとしたのに、バレちまったか……残念だぜ』


 不意打ちが未遂に終わった事を、声に出して悔しがった。


 その者は背丈6mほどの、丸みを帯びた人型ロボットだった。全身は血のように赤く染まっており、体のあちこちに稲妻をモチーフにしたような黄色い線が走っている。

 頭部はモヒカンのようなトサカになっていて、瞳はサングラスのような形になっている。肩やひざひじにはトゲが付いていたが、武装というよりただのファッションに見える。

 特徴的な外見はロックミュージシャンか、もしくは暴走族のような雰囲気を漂わせていた。


『俺はNo.023 コードネーム:アルター・Cシー・ガズエル……ある目的のためにここまでやってきた、バロウズの刺客よッ!!』


 男は宣戦布告するように自己紹介を行う。


「ガズエルとやらッ! どんな目的があるか知らないけど、どうせロクなものじゃないでしょ! 貴方の野望は、私がブッ潰してやるッ!!」


 さやかは勇ましくえると、有無を言わさず敵に向かって走り出す。


「待て、さやかッ! 迂闊うかつに飛び込むのは危険だッ!!」


 ミサキが慌てて少女の行動にくぎを刺した。敵には何かしらの策があるのではないかという考えが頭をよぎり、妙な胸騒ぎがしたのだ。


 だがさやかは仲間の忠告を聞き入れようとはしない。車に乗った時の高いテンションが復活しており、どんな敵だろうと恐れはしないと血気盛んに意気込んでいた。これまで順調に事が運んだあまり、油断したと言っても差し支えは無い。


『フフフッ……』


 ミサキの予感を裏付けるように、ガズエルがニヤリと口元をゆがませる。


『意識とはすなわち、脳というスポンジを流れる電気信号……であるならば、電気信号を入れ替えれば、魂そのものを入れ替える事が出来るッ! こんな風になぁっ!!』


 突然意識の定義について語りだすと、両手のひらから七色に輝く光線のようなものを放つ。さやかはそれを避ける間もなく食らってしまう。


「うぁぁぁあああああっ!」


 光線をまともに受けた少女が思わず悲鳴を上げる。七色の光に包まれた後、立ったままガクッとうなだれて、ピクリとも動かなくなる。

 その直後、光線を放ったがわであるはずのガズエルも同じようにうなだれて動かなくなった。


「何だ……一体何が起こった!?」


 敵も味方も共に動かなくなったのを前にして、ミサキがにわかに動揺する。他の仲間たちもどうすれば良いか分からずに、ただ茫然ぼうぜんと立ち尽くす。


 一体のロボットと、一人の少女が立ったままうなだれるのを、その場にいた者が何もせずに見守るという奇妙な光景が数秒、あるいは数十秒ほど続いた後……。


「やった! 成功したっ! ついに赤城さやかの体を、手に入れたぞぉぉぉぉおおおおおおおおっ! ヒャッホーーーーーーイッ!!」


 さやかが突然大声で叫びながら、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回る。そしてそのまま何処かに行こうとする。


『ええっ! あれぇっ!? これ、どういう事なのっ!? 私……メタルノイドになっちゃってるぅぅぅぅううううううううっっ!?』


 一方ガズエルも、キョロキョロと辺りを見回した後に自分の手を見て、パニックに陥ったようにわめき散らす。


 二人のおかしな反応を目にして、ミサキ達はまるで訳が分からず、ポカンと口を開けたまま突っ立っていたが……。


「これは……間違いないッ! 入れ替わっているッ! にわかに信じがたい話だが……さやか君とガズエルの人格が入れ替わっているんだッ! つまり今さやか君の体に入っているのはガズエルで、ガズエルの体にさやか君が入っているんだッ!!」


 車から降りていた博士が、合点がてんが行ったように叫ぶ。技を放つ直前のガズエルの言葉、技が放たれた後の両者の反応、それらの状況から冷静に判断した。


 普通に考えればありえない、実に馬鹿げた話だと一蹴する事も出来た。だが博士は実現可能かどうかではなく、現実問題として『それ』が目の前で起こっている事を直視した。


「ええっ!?」


 博士の言葉を聞いて、ゆりか達は思わず目ん玉が飛び出そうになる勢いで驚いた。


『えっ……えええええっ!? 私、メタルノイドになっちゃったの!? そんなのやだぁぁぁぁぁああああああああっ! うわぁぁぁぁああああああんっ!!』


 ガズエルと入れ替わったさやかも、むべきメタルノイドに自分がなった事実を突き付けられて、ショックのあまり子供のようにだだをこねる。仰向けに地面に寝っ転がると、ロボットの巨体で手足をジタバタさせて激しく暴れた。


「フハハハハッ! この女の体は頂いたッ! これでここに来た目的は果たせたという訳だッ! さて、そうと決まったらこんな所に長居は無用ッ! スタコラサッサだぜーーーーーーーーッ! フッフフフーーーーーーンッ!!」


 一方のガズエルは少女の体を手に入れられた喜びに胸をおどらせる。嬉しそうに鼻歌を鳴らしながらスキップすると、その場から早足で立ち去ろうとする。


「待てッ! 男が女の体を手に入れて、一体ナニを……何をしようと言うんだッ! この変態ッ! ムッツリスケベめッ! さやかの体を返せッ! この体ドロボウ! さやかの処女が失われたら、承知しないぞッ!」


 ミサキは相手の行為をののしりながら、慌てて引き止めようとする。仲間の体がどんないやらしい事に使われるか想像して、内心ドキドキしながら、それが実現されてはなるまいと必死になる。


 だがミサキが彼女……もとい彼の後を追おうとした時、ヘリコプターのローターが高速で回転するような音が鳴り響く。音が聞こえた方角に一行が振り返ると、遥か遠くにあった山の陰から、黒い物体が姿を現す。


「……ブラックフライッ!!」


 ゆりかがその名を口にしながら、思わず後ずさった。

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