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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第四部 「Q」
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第110話 村人救出作戦

 山中にある村へと案内されたさやか達は、村が直面する危機について村長から聞かされる。それは村から数キロ離れた場所に工場が建てられた事、何十人もの若い男が労働力としてさらわれた事、更に工場で作られた量産型ロボが、性能テストと称して村に襲いかかった事などであった。

 さらわれた村人には首輪型の爆弾が付けられており、簡単には逃げ出せないのだという。問題を解決する手段はゼル博士にゆだねられる事となった。



 博士は量産型ロボと戦った若い男数人を連れて、電波塔や工場周辺の下見を、敵にバレないように慎重に行う。それを数度行った後、今度は小型ドローンを使って偵察するようにした。

 昼間はもっぱら敵地の視察に費やし、男たちから機械の部品らしきものを受け取ると、夜は村長の屋敷に篭って研究に没頭した。


 それを数日行っている間、量産ロボ五体から七体程度の群れが村を三度襲ったものの、変身したさやか達によって、いともたやすく蹴散らされた。

 装甲少女が目の前で戦う姿を見た村人達は、彼女たちこそウワサ通りの救世主だと確信を得るに至り、喜びのあまり我も我もとこぞって手料理を振舞ったという。



 さやか達が村を訪れてから、七日目を迎えた朝……。


「でっ……出来たぞぉぉぉおおおおおーーーーーーーーっっ!!」


 突然そんな大声が村長の屋敷中に響き渡った。その声のあまりの大きさに、布団の中でウトウト目覚めかけていたさやかは心臓が飛び出そうになるほど驚いて、思わずビクンッとジャンプするように起き上がって、部屋の壁に勢いよく頭をぶつけてしまう。


「いたぁっ!」


 後頭部にじわぁっと痛みが広がり、まどろんだ意識が瞬時に覚醒する。ぶつけた箇所を手で押さえて、ジト目で泣きべそをかきながら、内股でたたみにへたり込んだ。

 彼女は一瞬何が起こったのか、全く理解できなかった。頭の中に響いた声が、夢の出来事じゃないかと錯覚した。


 だが声の主がゼル博士だという思考に辿り着くと、タンクトップとホットパンツの寝起き姿のまま、急いで彼の部屋へと駆け込んだ。


「博士っ! ついに出来たんですかっ!」


 さやかがそう叫びながらふすまを開けると、博士は机の方を向いて、立ったままガッツポーズを取っていた。机の上にはロケットの砲弾と、金属の棒のようなものが数本、そしてネジやラジオペンチなどの工具が置かれている。


「おおさやか君、ついに出来たんだよ……ん? どうしたのかね、その頭は。誰かに殴られでもしたか」


 博士は興奮気味に振り返ると、真っ先に少女の頭に目をやる。彼女の後頭部には石ころのように大きなたんこぶが出来ており、心配せずにはいられなかった。その原因が自分自身にあるなどとは、考えも及ばない。


「アハハ……な、何でもありません。どうかお気になさらず……」


 さやかは慌ててたんこぶを手で隠すと、恥ずかしそうに赤面しながら苦笑いする。博士の声でビックリして飛び起きて頭をぶつけた、などとはとても言い出せなかった。


  ◇    ◇    ◇


 朝食をると、さやか達は村長の屋敷の外にある原っぱに集まる。村長にアコ、そして博士と何度か下見に出かけた若い男数人もいた。

 少女の頭に出来た大きなたんこぶには絆創膏ばんそうこうが貼られており、皆それをジロジロと見たが、何となく指摘してはいけない空気があり、誰も言い出せなかった。

 さやかは頭に視線が注がれている事に気付きもせずに、ニコニコと微笑み返す。


「……ゴホンッ! では、始めるとしよう」


 博士はたんこぶをチラ見した後、仕切り直すようにせきをする。研究用に使った机を地面に置くと、さらにその上に図面のようなものが書かれた紙と、いくつかの道具を広げる。


「まずは……これだッ!」


 そう口にすると、広げた道具の中からロケットの砲弾を手に取る。


「これは対戦車ロケット砲RPG―7に装填そうてんして使うのだが……ただの弾頭ではないッ! 液状化した特殊なゴムを、圧縮して詰め込んであるッ! 空気に触れれば、わずか数秒で固まる仕組みになっているッ! そしてこのゴムは、どんな微弱な電波だろうと通さないように出来ているのだッ!」


 高々と天に向かって掲げると、その性能について誇らしげに解説する。彼のはしゃぎっぷりからは、開発にかなり手間を掛けた事と、相当の自信作である事がうかがい知れた。


「ハハーーン、なるほど……それを塔にぶつけて電波を遮断しゃだんする事で、メタルノイドがボタンを押しても、首輪が爆発しないようにすると、そういう訳だな?」


 ミサキが、合点がてんが行ったように言う。博士の発明に素直に感心したように笑顔のままうなずいた。


「その通りッ! さすがミサキ君……さて、次はこれだッ!」


 博士は少女の理解の早さをたたえると、今度は別の何かを手に取る。それはチャッカマンと呼ばれるガスライターのような見た目をしていた。手で握るグリップの部分にはボタンがあり、先端には金属の棒が付いている。


「博士、これは何ですか?」


 さやかはそれを手に取ってカチカチとボタンを押すものの、棒からは何も出ない。少なくともガスライターとして使用する訳ではない事は確かだった。他の者も試しに手に取ってみるものの、使い道が全く分からない。数人が首をかしげながら正体不明の器具をカチカチ鳴らし続ける光景は、さながら発明品かオモチャか何かの体験コーナーのようだった。


「フフンッ……何を隠そう、これは首輪を外すための道具だッ!」


 博士は得意げにドヤ顔で鼻息を吹かす。これも村人救出に必要なものだというのだ。


「村長が、最初の犠牲者が出たと言ったのを覚えてるかね? 彼が付けた首輪の残骸が、工場の近くに回収されずに落ちていたのだよ。私はそれを、ヤツらに見つからないように持って帰った。中の回路は焼き切れていたが、私の手に掛かれば修復するなど造作も無い事だ」


 爆死した一人目の村人が装着していた首輪型爆弾を、ひそかに回収した事を明かす。


「首輪の中身を解析した事によって出来上がったのが、これという訳だ。ガスライターのような見た目をしたこの道具は、グリップに付いたボタンを押すと、先端の金属部分から、首輪のロックを解除する指令が送られるようになっている。電波が微弱なため、首輪に直接触れた状態で押さなければ効果が出ないが……手に持って歩けるサイズでは、これが限界だった」


 そう口にすると、博士自身も手に取って何度もボタンを押す。この一見使い道の分からない珍妙な道具こそが、村人を救うために欠かせない要素である事を、事細かに説明した。


「作戦はこうだ……私は液状化ゴム入りのロケット弾を装填そうてんしたRPG―7で、電波塔を爆破しに向かう。さやか君たちには、私と別行動を取ってもらう。さらわれた村人が働かされてる現場に向かって、敵に見つからないように隠れていて欲しい。私が塔を爆破したら、音や振動が鳴り響くだろう。そしたらすぐに金属の棒を使って、村人全員の首輪を外してもらいたい。さらわれた村人のリストは村長が作成したので、君たちに渡しておく。何度か工場を偵察して人数を調べたが、最初の犠牲者以外は無事のようだ」


 これから取るべき具体的な行動について語りだす。博士の話は非常に長かったが、さやか達は一言一句聞き漏らさないように真剣に聞き入る。ゆりかはさやかが覚えきれなくても後で困らないように、スマホアプリを使って録音していた。


「作戦の成否は、我々の手にゆだねられた……一人の犠牲者も出してはならない。皆を必ず無事に連れて帰る事によって、作戦成功とする……説明は以上だッ!!」


 話を終えると、博士は決意を指し示すように、強く握った拳を天に向かって突き上げた。理系の科学者には似つかわしくないほど熱の篭った言葉は、決して新たな悲しみを繰り返してはならないとするはがねの意思が感じられた。


「博士っ! 私たちも力を尽くしますっ! 絶対に村人を全員救出しましょうっ!」


 ゆりかが彼の言葉に賛同するように言う。


「メタルノイドが現れたら、ブチのめしてやるわっ!」

「首輪のロック解除は、私たちに任せてくれ」

「博士は安心して、電波塔を無力化して下さい!」


 さやか、ミサキ、アミカも後に続くように言葉を発する。さやかは腰を落とし込んで男らしくガニまたになると、自身にかつを入れるように、握った両拳をガンガン突き合わせた。

 失敗の許されぬ作戦ではあったが、その事に対する恐れは全く無く、何としても村人を助けるのだという気迫に満ちていた。


「よっしゃ! それじゃ、早速工場に向かいましょう!」


 少女がそう言いながら歩き出そうとした時……。


「お姉ちゃんっ!」


 アコが彼女を呼び止めた。スカートのすそを掴んで、下を向いたまましゅんっとなる。父親が無事に帰って来られるかどうか不安になったようにも、これから戦いの場におもむく彼女を心配したようにも見える。


「……」


 何か言おうと口をモゴモゴ動かしたものの、胸が苦しくて、思うように言葉が出ない。目をつむって辛そうな表情を浮かべたまま、おびえた猫のように小さく体を震わせる事しか出来ない。

 肝心な時に伝えたい言葉を伝えられない自分にもどかしさを感じたあまり、悔し涙が出そうになる。


「大丈夫、アコちゃん……心配しないで。私が必ずパパを取り戻すから。約束よ」


 心情を察すると、さやかは優しく微笑みながら、アコの頭をそっと撫でる。少しでも彼女の不安を取り除こうと、指切りげんまんを交わした。


「それじゃ……行くとしますかっ!」


 再び工場のある方角へと振り返ると、決意の篭った言葉と共に、力強く前に一歩踏み出す。そのまま三人の仲間と一緒に歩きだした。


(お願い、お姉ちゃん……どうかパパを助けて……)


 アコは声には出せずとも、心の中でそう強く願う。

 空を飛ぶカラスの群れは、そんな彼女たちのすえを、ただ静かに見届けた。

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