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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第三部 「新」
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第104話 新たなる旅立ち(前編)

 エルミナを無力化し、圧倒的な力の差を見せ付けたサンダースであったが、さしもの彼もさやか達の連携による必殺技の威力に耐えられず、その命を散らす事となった。


 敵の死を見届けながら、少女たちがたたずんでいると、扇風機を回すような音が何処からか鳴りだす。音の聞こえた方角へとさやか達が振り向くと、一機の小型ドローンが彼女たちに向かって飛んできていた。

 少女たちは敵の攻撃かと一瞬身構えたが、それには無線機のような小さめのスピーカーが積まれただけで、銃や爆弾を搭載したらしき様子は見当たらなかった。


 ドローンはさやか達から2mほど離れた場所まで来ると、宙に浮いたまま、それ以上進むのをやめる。


「赤城さやか……その仲間たちよ。よくぞサンダースに打ち勝ち、西日本侵攻隊を壊滅させた。ここまで戦い抜いた事、褒めて遣わそう」


 ドローンに積まれたスピーカーから突如声が発せられる。それは少女たちには聞き覚えのある声だった。


「……バエルッ!!」


 さやかが腹立たしげにその名を叫んだ。そして心の底からいきどおるように強く歯ぎしりした。

 スピーカーから発せられた声は、紛れもなくバロウズ総統バエルのものだった。

 彼女たちからすれば吐き気をもよおすほど不快な害悪であり、さやかは声を聞いただけで脳の血管がブチ切れて、目の前のドローンを叩き壊したい衝動に駆られた。


 そんな少女の怒りなど気にも止めず、バエルはあくまでもマイペースに語りだす。


「十四の将からなる西日本侵攻隊、その全てに打ち勝った事……まずはおめでとうと言わせて頂こう。彼らを一日一体ずつバリアの中に送り込み、西日本を侵攻する計画は頓挫した……君たちは戦いに勝ったのだ」


 敵であるはずの少女たちに対し、健闘ぶりをたたえる言葉を送る。その口ぶりからは計画が失敗した悲しみや部下を失った喪失感は微塵も感じられず、宿敵と見なした相手が生き残った事を、喜んでいる風ですらあった。


 さやかはバエルが少しも悔しそうにしないのを見ていら立ちを覚えたが、怒った姿を見せればそれはそれで相手の思うツボになりそうなので、必死に自分を抑えた。


「フフンッ! そ……そうよっ! 私たちは、アンタの計画をつぶしてやったのよっ! どうっ! これでもう、いくら部下を送り込んでもムダだって分かったでしょっ! 分かったら、とっとと観念して諦めなさいっ!」


 腰に手を当てて胸を前面に突き出しながら、ドヤ顔を浮かべて、ゴリラのように鼻息をフンフン吹かせた。少しでも相手を悔しがらせようと、精一杯強がって挑発してみせたのだ。


「そうだ、バエルッ! お前の負けだッ! 貴様も戦士なら、いさぎよく敗北を受け入れろッ! 全裸で土下座して、百回ゴメンナサイと言って、もう二度と他の星を侵略しないと約束しろッ! そして家に帰って、ポテトチップス食べながらテレビでも見て寝てろッ!」


 後に続くようにミサキが威勢の良い言葉を吐く。相手が本当にそうする訳が無いと分かっていながら、これまで溜め込んだ不満をぶつけるように、ここぞとばかりに激しくののしった。


「馬鹿どもが……調子に乗るな。あまりふざけた事を抜かすと、その首じ切って、馬のケツに乗せてやるぞッ」


 さすがに気分を害したのか、バエルが不快感をにじませた口調で言い返した。


「確かに西日本を侵攻する作戦は失敗に終わった……計画の見直しを迫られた事は事実だ。その事は素直に認めよう。だがこれで全てが終わった訳では無いぞ? 我と共に日本を侵攻しにやって来たメタルノイドは、私を除けば全部で三十体……その残り十六体はバリアの外にいて、日本各地を自分たちの領土としている。人間どもはその下で、虫ケラのように扱われているのだ……」


 言われた通りに敗北を受け入れつつも、バリアの外がいまだ自らの支配下に置かれている事を明確に伝えた。これまで一切明かされなかった『外』の状況が、他ならぬ黒幕本人の口から語られた瞬間だった。


「赤城さやかよ……今度はお前たちが、バリアの外に攻め入る番だ。各地を支配する幹部連中を倒さぬ限り、真の平和を取り戻せたとは言えまい。もし貴様らが一時の安寧にあぐらをかいて引きこもったならば、二ヶ月後ボディを修復した私が再び侵攻するだろう……その時京都は火の海と化し、数十万の人間が死ぬハメになる」


 少女たちに、外に出ていくように要求する。もしそれが受け入れられなければ、無辜むこの民の命が失われる事実を、脅迫じみた言葉によって突き付けた。


「バロウズ基地は北海道の中心、旭川あさひかわにある……そこでお前たちが来るのを、首を長くして待っているぞ……ファッハハハハハァッ!!」


 本拠地の場所を告げると、来られるものなら来てみろと言わんばかりに、楽しそうに高笑いした。あえて包み隠さずに教える辺りは、まさに挑戦状を叩き付けているかのようだ。


 そこまで言い終えると、用済みになったかのようにドローンがボンッと音を立てて爆発し、火を噴いたまま墜落する。


「やってやろうじゃないッ! 取り戻してやるわよ……日本の領土を……真の平和をッ!」


 さやかは拳を握り締めて勇ましくえると、足元に転がったドローンの残骸を、八つ当たりするように力任せに踏み潰した。


  ◇    ◇    ◇


 戦いを終えると、さやかは変身を解いてゼル博士に携帯電話で連絡を取る。ナオが搬送された病院の場所を聞き出すと、すぐにそこへ向かった。


 市内の比較的大きな総合病院……彼女はそこに救急搬送されていた。さやかもこれまで何度か搬送された病院であり、院長は博士や国防大臣の平八と繋がりがあるのだという。


 さやかは受付の係員に話しかけてナオがいる病室の番号を聞き出すと、足早に向かう。

 少女は内心深く焦った。かけがえのない友が、もし自分をかばって命を落としたりしたら、とても耐えられない思いがあった。不安に胸を押し潰されそうになったあまり、周りの言葉も耳に入らなかった。


「……ナオっ!」


 さやかが大声で名を呼びながら病室へと駆け込む。室内のベッドを仕切るカーテンを開けると、ベッドに横たわったまま上半身だけを起こしたナオが、はかなげに窓の外を眺めていた。


「……さやか」


 少女がゆっくりと振り返る。その表情は何処かうれいを帯びている。負傷した左肩には包帯が巻かれ、腕には点滴の針が刺さっていたが、命に別状は無さそうに見えた。

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