『かがやくかみのむすめ』(リンス・リンシィース)
「リンス」「なNI?」
明後日の方向を向く銀色の髪の美人さん。
なんだかなぁ。この子、すっごい美人なのに心はファルちゃんより幼い気がする。
彼女のお気に入りは英語の辞書と和英辞典。
昔、私が休日に裁断して自炊、電子書籍にした学研の『I SEE ALL』を楽しそうに読んでいる。
へんなの?!
「ベンキョウ、タノシイ」「リンスさんってうちの世界に来たら主席とれるよね」
何故電源が切れているのに動くのだろう。
ファルちゃんたちにはそういった力があるらしい。
喜んで家に電話してもらった。
「違う。そこ、そのボタンをおして?!」「牡丹?」
「牡丹じゃない! 飴なんかいらない!」
異世界人にスマートフォンの扱いを説明するのは大変すぎた。
私が触れると電源切れで動かないのだ。
「動かない」その冷たい画面にうかぶ『圏外』の文字。
残念だったなぁ。その日の夜は夜泣きしていたらしい。
リンスの歳は私と同じくらい。実際の歳もそうらしい。
というより、エルフさんって何百歳も生きているのかと思ったのだけど。
「りんす。小さいか?」「意味わからない」「そうか。努力する」
彼女はかなり流暢な『日本語』を操る。
一度聞いた言葉を完全に記憶することができるらしい。
ひょっとしなくても私が知っている異世界人の中で最も心が幼くても一番賢いのかもしれない。
時々ロー・アースさんが蔵書を返せと文句を言いにくる以外は実に平和な猟師小屋。
家主のご厚意で住まわせていただいているこのおうちには、家主の娘であるチアことチーアと居候仲間のリンス。私。
あと、チアのお母さんがたまに来てくれる。
「……」
微妙な空気なのはリンスさんがこのお母さんにしゃべりかけないから。
ニンゲンと交わったエルフは呪われて寿命を得る。
不吉だから話しかけあってはいけないらしいけどよくわからない。
ちなみにチアことチーアはとってもお母さんに愛されていると思う。
「離れろ。おふくろ」「……」ガッチリ抱っこされているチーアはとってもかわいい。
リンスとお互い話しあわないけど、二人の仲は悪いわけではなく、『呪い』をかけないための配慮。らしい。
迷信だと思う。本当に。
「この家はいい家。精霊がよく歌い笑う」
お母さん含めて三人ともとっても変なことを言う。
なんでも小さな小人さんみたいな生き物が竈とか窓、暖炉などで踊っているらしいのだ。
ちなみに、『感情の精霊』なるものもいて、人間の感情に応じて踊るらしい。
見てみたいのだけど。私は精霊の力を操れるのに直接見ることができないらしい。
「『語り掛け』なしで魔法使えるって便利だよなぁ」「根性です」力こぶをつくる私の真似をして不思議そうに腕を動かすリンス。
ペタンという音がして彼女の手首と肩が密着した。綺麗な腕だなぁ。
地球には存在しない銀色に輝く髪。深いブルーの瞳。
ほのかに発光していていい香りがする。
なんでもエルフはこの世界では『神族』ともいうらしい。
「ニンゲンオモシロイ」
リンスさんが言うには感情が主で精霊が従な人間はとても興味深いらしい。
彼女たちが感情を表すのはある種の術らしいのだ。へんなの?!
私の頭の上でくるくる踊る小人さんたちってどんな姿なんだろう。
私に見えるように具現化し、美男美女になって大暴れする『精霊異常』という魔物化現象は彼女たちの瞳に見える本来の精霊と別物らしい。
「『疑問』とかは混乱とか悪戯心の精霊が頭抱えて踊ってたりするな」
「『愛情』『親しみ』、『恥ずかしがりや』。メッタに顔、見セナイ」いつもそっぽ向いているそうです。
精霊って何でしょう。
「ヨクシッテイル。でもシラナイ」「友達かなぁ……まぁ見えない友達だから人に言うとバカにされっから俺は親父にしか言わなかったけど」
リンスさんもわからないことがあるんだ。意外。
「ただ」「?」「竜族は一部の精霊と融合し、その精霊の力を自在に操りさらにその精霊を起源とする術は基本として一切無効だ。例として火竜ならば核攻撃すら効かない」
妙に流暢な日本語で彼女は呟きます。
どうしてそのようなことを言うのかちょっと不明。
「ね。リンス」「なに?」「昨日教えた歌うたってよ」「わかった」
彼女の歌って教えた私より上手なんだけど、どうしてなのかなぁ。
「魂の声。精霊の声。こう歌ってほしいと聞こえる」そうなんだ。神様ってすごいな。
懐かしいテレビの歌とか、お父さんが好きな古い歌謡曲とか、お母さんが好きな歌とか。
今度カラオケで歌うつもりだった歌とか。
彼女は正確で綺麗な発音で歌えるのだ。そこに範奏が加わる。
「チーア。楽器とか気が利いてるじゃん」「ばっか」恥ずかしそうに真っ赤な顔。
歌うのは大好きだけど恥ずかしがって人前では彼女は歌わない。
「月しか見ていないよ」「?」「ば・か」
不思議そうな顔にちょっとむかつく。
「『月が綺麗ですね』は、チーア」横やりが入った。
「うっさい黙れ! この耳長!」「耳ドシマだ。リンス覚えた」
冗談だからね?! そんな趣味はないから?!
「リンス、オマエの気持ちよくわかる。チアをいくらでも泣くって良い」「殴ってよい?! なんでてめえらに殴られなきゃいけないんだ?!」
リンスさんもチーアを男性と勘違いしていた時期があったそうです。
「無粋だなぁ。精霊が文句言ってるぞ。さっさと歌えってさ」
そういって綺麗な声でコーラスを合わせながら竪琴をひいてくれるチーア。
鈴を鳴らすリンスさん。笛はチーアさんのお母さんですね。
本当、きれいなつきだなぁ。お父さんたちは元気かな。
『天使の羽根』があれば元の世界に戻れた。
リンスさんの研究ではチーアが命のお礼としてかつての友人にあげちゃったそれはとても貴重な代物だったらしい。
「いやほんとごめん。
てかアレがあれば今日の塩スープがシチューになったのに!」
実は高価だったと知って悔しがるチーア。
あはは。気にしていないよ。
タブン。




