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第96話 決着。虚無に叩き落されし古(いにしえ)

「ちっ!」


 シャルハートが手を翳す。

 魔法に介入しようとしたが、一歩遅かった。何か手段を講じなければ手遅れになる。


「さらばだ。『空間跳躍(リープ)』!」


 ゼロガの周囲の空間が歪む!

 告げた魔法はシャルハートも使う転移魔法。転移までの時間はごく僅か。既に魔法は発動され、もはや止められない。

 地上に出したら即、破壊が振りまかれることは明白。

 こうなれば少しでも被害を抑える方向に頭を回そうとしたシャルハート。


「何だ……何かが?」


 ゼロガとシャルハートが違和感に気づいたのは、ほぼ同時。

 瞬間、ゼロガの五方向より巨大な光輪が飛来!

 光輪はそのままゼロガを囲むように停滞する!


「何!? 跳躍が、出来ないだと!?」


 とっくの昔に跳躍しているはずなのに、出来ていない。ゼロガクラスの腕前で、この土壇場において不発というのはあり得ない話だろう。

 その謎は力強く輝く光輪にあった。その光に気づいたシャルハートは理解した。


「まさかあれが干渉しているのか? だけど何故……」


 強烈な魔力干渉能力。いや、それよりもシャルハートは別のことに注目していた。

 ゼロガに干渉している光輪からほんのりと感じる魔力。あれはそう、


「ウルスラ・アドファリーゼの魔力が……?」


 否、点と点が繋がった。

 光輪の数が五つ。あれは以前、ウルスラと一緒にクレゼリア学園中に張った封印魔法の札の数と合致する。

 ゼロガにさえ通用する封印魔法を何故、ただの一生徒が行使できるのか。

 考察は後である。

 兎にも角にも、この瞬間を見逃すシャルハートではなかった。


 シャルハートは左手掌から純粋な魔力の竜巻を発生させる。竜巻は一瞬でゼロガを飲み込み、彼の動きを封じた。

 それを確認しながら、シャルハートは右腕全体に魔力を込める。この奥の手状態だからこそ可能とする潤沢な魔力のチャージ。彼女の腕は一種の爆弾と化していた。万が一千切れたらこの一帯を更地にしてしまうほどの大量の魔力。


 竜巻をかき消そうとゼロガが抵抗するが、純粋にシャルハートの魔力圧が強く、何も出来ずにいた。

 もがきながらも、ゼロガは叫ぶ。


「“不道魔王”とやら! 貴様はそれほどの力を持っておいて何故全てを支配しようとしないのだ!? 可能だろう! 貴様なら全てをひっくり返すことくらい! その力を振るえば!」


「出来るさ。けど、私はそんなものには興味はないよ。好きな人達が嫌な目に遭わないだけで、私は良いんだ。……まあ、二人ほど嫌な思いをさせてしまったけどね」


「なんと身勝手な! 力持つ者の責任から逃れるのか!?」


「責任? 誰がそんなものを決めた? 私は私の意思で動いている。ゼロガ、お前はそんな私に滅ぼされるんだよ」


 シャルハートが跳躍した。握った拳を開き、手の指を真っ直ぐに伸ばした。いわゆる貫手(ぬきて)の形である。

 狙うはゼロガの核。それはつまり、グラゼリオの身体を貫く必要がある。

 とうの昔にシャルハートは覚悟を決めていた。彼も同じく覚悟をしているだろう。

 ここでは覚悟をしている者しかいない。シャルハートはそのつもりだった。


 しかし、


「滅ぼされるか! 滅ぼされてたまるか! 私は生きねばならぬ!」


 グラゼリオの身体から黒いモヤのようなものが抜け出た。瞬間、グラゼリオの身体からゼロガの気配が消えた。

 となれば、あれがゼロガの核。

 一瞬で判断したシャルハートは竜巻を消し、人差し指をモヤへ向け、言い放つ。


「『拘束(バインド)』」


 人差し指から伸びた魔力の鎖がモヤを雁字搦めにする。シャルハートの力を以てすれば、非実体となった存在でも拘束することが出来るのだ。

 空中で小さな魔力障壁を出したシャルハートはそれを蹴り、方向転換をする。

 狙いは一つ。滅する力は右手に。


 チェックメイトだ。


「生きる! 生きるぞ私は! せっかく掴んだチャンスなのだ! それを邪魔されてたまるか! 邪魔するなアアアア!!!」


「生き返ったのなら慎ましく生きようとすれば良かったんだ。だから、私に滅ぼされる」


 貫手がモヤに突き刺さる。直後、右手に凝縮された魔力がモヤへ注ぎ込まれる!

 これは攻撃魔法でもなんでもなく、ただ純粋に魔力を流し込んでいるだけ。故に防御魔法や他の方法で抵抗(レジスト)が出来ない。

 それにゼロガが気づいたのは、己の核が許容する量の魔力を注ぎ込まれた後だった。



「ぬわああああああ!!! 弾ける!? 滅する!? 私が!? 死ぬ! 嫌だ! 死にたくない! またあの闇に戻るのだけは嫌だ! 嫌だァァァ!!」



「受け入れろ。それがお前に与えられた最後の尊厳だ」



 シャルハートが左手掌を向け、『指定型防御結界ピンポイント・フィールド』を発動。魔力フィールドがゼロガを包み込む。

 それと同時に、ゼロガはその内側で光に包まれ、爆ぜた。

 しかし、シャルハートの魔法により音は吸収され、徐々に魔力フィールドが縮小していく。やがて、米粒大の大きさにまでなった後、無音でゼロガはこの世界から消失した。


 静かな決着であった。


 地面に倒れるグラゼリオ。彼にはもう何の気配も残っていないと確認し、シャルハートはワイズマンシリーズの一つである『常識喰らいの大杖(おおづえ)』を手に取り、それを粉微塵に破壊した。

 これでもうグラゼリオの手札は潰えた。意識を取り戻しても、何も出来ない。


 そこまでやった後、シャルハートは膝をついた。


 徐々に抜けていく力。『過去、あるいは(パスチャー・)未来からの贈り物(インストール)』で強引に取り込んでいた力が消えていくのだ。

 それに引きずられるように、意識が薄れていく。久々の全力戦闘にこの肉体がついてこれなかったらしい。


 後ろからミラ達の声が聞こえる。


 返事をしようとしたが、声が出ない。

 地面が近くなる。


(勝った。私は、ちゃんと……だから)


 そのままシャルハートの意識はブツリと途切れた。

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