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第49話 楽しい組分けの時間

 アリスとエルレイの頭も冷えた所で、どうして二人がここにいるか尋ねてみると、


「今日は合同で授業なので、私とエルレイの所も来たということです」


 実に単純な理由だった。

 ここでシャルハートはあまり話を聞いていなかったことを自覚し、すぐに話を切り上げた。会話を続ければ続けるほど、自分が話を聞いていない愚者ということをひけらかすだけなのだから。


「皆さん、注目!」


 遠くから声がした。だが、その声量はしっかりとしており、腹の底まで響くものであった。

 まるで万の軍勢を統制する将の声だ、とシャルハートは見受ける。

 声のする方へ顔を向けると、そこにはクールな雰囲気を漂わせる赤紫色の長い髪を持つ女性が立っていた。

 彼女は見覚えがある。近くにいるミラに聞くまでもない。入学試験の時に立ち会っていた者の一人なのだから。


「今日の授業は私、ルクレツィア・ノーティラスとグラゼリオ・ベガファリア先生が監督を務めます。よろしくお願いします」


 呼応するように生徒たちは返事をする。何やら自然と気持ちを引き締めなければならないという見事な立ち姿だったのだから。

 それに比べると、隣のグラゼリオは何だか覇気が無いように見えてしまうのは、少々酷な話だろう。


「早速今日の目的を説明します。今日はこの『チュリアの迷宮』に潜ってもらい、危険に対する察知能力と対処能力の向上が狙いとなっています。決して遊びではありません。油断すればそれ相応の代償を払ってもらうことになります。そして――」


 ルクレツィアの話に耳を傾ける生徒たちを横目に、シャルハートは時折頭を前後させていた。


(はっ! 寝てた)


 余りにも当然な話すぎて、ついつい眠りの世界に入りかけていた彼女。だが、別に軽んじている訳ではない。

 常に鉄火場にいた彼女にとって、ルクレツィアが述べる心構えは呼吸の仕方を説いているのと同義なのだ。


「以上です! それではまず組を作ってください! 二人以上であれば何人でも構いません。ただし、ちゃんと協力していってくださいね」


 ルクレツィアの話が終わった後、すぐに行動を開始する生徒たちを見やりながら、シャルハートはぼんやりと言葉を吐く。


「組分けかー。誰と組もうか悩むなー」


「シャルハートさん? それ、私の肩に手を置きながら言う台詞なのかな?」


「ミラは当然確定だからね。だから後は誰と組もうかなって」


「当然確定、か。えへへ……何だかすごく嬉しいな」


 小さく笑うミラを“天使”と心のなかで褒めちぎりながら、シャルハートは再び顔を動かす。すると、目が合った。

 とてつもないイケメン王子と。


「えっと……シャルハートさん。その、僕も仲間に入れてもらえないだろうか?」


「リィファス様なら引く手数多でしょうに。何かあったんですか?」


 その言葉を受け、リィファスは目を逸らし、頬を指で掻く。


「いや、その……僕を巡って女の子達が険悪な雰囲気になっているのを見てしまってね。どちらかに肩入れしてしまったらそれこそ火に油を注ぐようなものだし、悩んでいたらいつの間にか君達の近くに来ていたんだ」


「いやぁすごいですね。世が世なら殺されそうなくらいに羨ましい発言ですよ、それ」


 酷く申し訳なさそうにするリィファスを見つめるシャルハートは時々、彼がこの国の王子だということを忘れてしまいそうになっていた。

 しかし、それは口に出さず、代わりに了承の二文字をあげた。


「まあ、そういうことならもちろん良いですよー。どちらかに肩入れしてしまったら、どちらかが滅ぶまでやり合わなければならないかもしれないですしね」


「べ、別にそこまで大げさなものでもないだろうけどね」


「いーえ。だから、今私がこうしているんですよー」


 片目を閉じながらそう言うシャルハート。対するリィファスは彼女の言葉を飲み込めず、首を傾げた。


「? 君は時々難しい事を言うね」


「私も今、まどろっこしい事言った自覚はありますのでご勘弁を。とりあえずこれで三人ですね。後は……」


「私も入れて欲しい」


「おわっ、サレーナいつの間に」


 いつの間にか近くに居たサレーナが相変わらずの無表情でそう言った。

 シャルハートはリィファスを見る。記憶が正しければ、リィファスとサレーナが絡むのは初めてであったため、一応確認である。


「僕は大丈夫だよ。同じクラスのサレーナさんだよね。僕はリィファス・デル・クレゼリアです、よろしくね」


「……よろしく」


 人見知りするかと思えば、案外あっさりと仲良くなったのを見て、シャルハートは謎の敗北感を感じた。


「……あれ? 私、もしかして友達作るの下手なの?」


「だ、大丈夫ですよシャルハートさん! シャルハートさんなら沢山出来ます!」


「うぅ……ミラのフォローが痛い」


「あ、あれあれ!? 私、そういうつもりじゃないですよー!」


 なんとか話題を切り替えようと、ミラは顔を動かすと、アリスとエルレイが目に入った。


「あ、アリスさん! エルレイさん! 一緒に行きませんか!?」


「私とエルレイと?」


「はい! 絶対! 楽しいです! ね、シャルハートさん!」


「うん、私も二人と組んでみたいな!」


「しゅ、集団行動……! そ、そういう事なら――」


 心なしか目を輝かせるアリスは最後まで言葉を言い切ることが出来なかった。手をぷらぷらさせていたエルレイが口を挟んだからだ。


「ごめんねシャルハート。アリス、ボクと二人で最速で迷宮クリアするんだー! って言ってたんだよね」


「なー!? 何を言い出すんですかエルレイ!?」


「うぇぇ!? 何でボクが怒られるの!?」


「貴方は少し人の気持ちを考えるということを……!」


「だってだって! アリスが言ったじゃんよ~!」


「う……!」


 そこでアリスは言葉を止めざるを得なかった。涙目になりそうだったが、我慢した。

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