第34話 シャルハートの新たな興味
「やっほーシャルハート、ミラ! 久しぶりだね! ボク、嬉しいよ!」
「一人ですか? アリスさんは?」
エルレイとアリスはいつもセットだと思っていたので、エルレイ単品は珍しかった。
アリスの話題になった瞬間、彼女は頬を膨らませる。
「聞いてよーアリスってば、学園内の探検に付き合ってくれないんだよー酷くない? だからボク一人なんだ」
「探検ですか。良いですね」
興味を示したのはグラゼリオであった。眼鏡をクイと上げる。
「恥ずかしながら私も子供の頃からそういう探検みたいな事は好きでして……。何か、面白い物は発見できましたか?」
「う~ん……この学園広いからな~。まだまだ全部は探検出来てない……」
「そうでしたか。この学園には何やら秘密の地下室があると聞きます。いつか、そういうのが見つかると良いですね」
「地下室!? 何それすっごい面白そう! グラゼリオ先生ありがとう! じゃあボク、また探検してくるねー!」
一礼し、再び去っていったエルレイを見送りながら、シャルハートは今のやり取りで気になった所があったので、つい聞いてみた。
「グラゼリオ先生、さっきの地下室の話って本当なんですか?」
「はい、そうみたいです。……私も実際に見た訳ではありませんが、いつか探し当てたいと思っています」
「先生はどうして探検の話が好きなんですか?」
「ミラさんは難しいことを聞きますね。そうですね……強いて言うならば、昔から隠されたものとか、そういうのを暴くのが好きというか……まあ、そんなところです」
話をしている内に、職員室までやってきたので、グラゼリオは早速教材を色々と持ってきた。
一人一人に手渡していくと、グラゼリオも両手に教材を抱え、再び歩き出す。
「今更ですが、皆さんありがとうございます。それにリィファス王子も私の雑用に付き合ってくださって……」
「気にしないでください。僕もここの生徒なのですから」
「そう言ってくれると、ありがたいですね。……っと」
足をもつれさせ、またバランスを崩すグラゼリオ。だが今回は転ばず、危なっかしいながらも何とか踏み止まった。
「グラゼリオ先生って良く転びますよね」
「やはり気づかれてしまいましたか。恥ずかしながら、何も無いはずの所で良く躓いてしまいます」
「そうなんですか……結構苦労したんじゃないんですか?」
「お陰で他の先生方からはからかわれています」
教室までもう少しと言った所で、グラゼリオは三人にこう聞いた。
「皆さん、平和は好きですか?」
シャルハート含め、皆頷いた。
ミラは平和が一番と言う。リィファスも平和を続けていきたいからこそ日々勉強していると言う。
特にシャルハートはその平和な世界に持っていくために、命を懸けたので、嫌いなはずがなかった。
三者三様の答えを聞いたグラゼリオ、こう返した。
「平和が一番です。だからこそ、それを守っていくため、皆さんも努力していかなければなりませんね。例え、それを崩そうとする者が現れても、立ち向かっていってください」
そう締めくくり、グラゼリオは役目の終了を告げた。
まるで狙いすましたかのようなタイミングで鐘が鳴る。次の授業の始まりを告げる音色だ。
「……もちろん、全力で立ち向かいます」
誰にも聞こえないように、シャルハートは小さく、だがはっきりとそう呟いた。
◆ ◆ ◆
「授業が、終わった……」
「シャルハートさん魂抜けてるよ」
今日一日の授業が終わり、白目を剥いていたシャルハート。
楽しい時間というのは一瞬で終わってしまう。
ミラが慰めて、ようやくここまで回復できた。とはいえ、まだまだ魂が抜けているのだが。
この学園生活に対する凄まじいモチベーションは何なのだろうか、と一瞬考え、すぐにミラは止めた。
「シャルハートさんは今日、このまま帰るの?」
「そのつもりだったけど、何かあるの?」
「うん、この学園って放課後にも活動があるみたいで、ちょっと見学に行こうかなって」
「放課後にも……」
「興味出てきた?」
「とっても」
共通の興味を持つ者たちが集まり、研究を深めたり、特定の物事に打ち込んでいく。
『研究会』というらしい集まりの活動をどこでやっているのかは分からない二人は、とりあえず学園内を練り歩くことにした。
適当に歩いていれば、きっと何かかしらに引っかかるだろう。それくらいの緩い計算である。
「うーん、見つからないね」
「そうだね、今日はやってないのかな?」
そこでシャルハートはピンと来た。
そもそも人の行き来が少ない。放課後に何か活動しているなら、何かしらの声が聞こえてきてもおかしくない。
となれば、なんとなく導き出せる。
「もしかして、この建物ではやっていないんじゃないのかな?」
クレゼリア学園は広く、建物がいくつもある。
となれば、そういう研究会用の建物があると睨むのが、自然な流れになるのではないだろうか。
一通りシャルハートが考えを述べると、ミラは感心したように手を叩いた。
「シャルハートさん……頭いいね!」
「うへへへへ!! もっと褒めて! ミラから褒められるのほんと好き!」
「なるほど、シャルハートとミラと言うのですね。実に私のお友達に相応しいお名前ですね」
幸せを噛み締めていた刹那、後ろからそんな声が聞こえてきた。
その声色に強烈な拒否反応が出てきたシャルハート。そんな声と喋り方は、今の所一人しか思い当たらなかった。
振り向きたくなかったが、適当にあしらえばまたしつこくなるのが目に見えているので、ため息とともに彼女は振り向いた。
「どうもウルスラ先輩です。お久しぶりです。って、ちょっと待ってください。無視しやがらないでくださいよ~。魔法ぶっ放して転ばせますよ?」
「それ世間では“通り魔”って言うんですが?」
両手を腰に当て、大きな胸をそらしながら、賑やかなウルスラ・アドファリーゼが見参した。




