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第12話 そして冒頭に至る

 そこで、シャルハートは失敗を犯したことに気づく。


(しまったぁ! アルザとディノラスの娘だからと思って、普通に戦気飛ばしてしまったよ! だ、大丈夫だよね? ちょろっとしか飛ばしてないから……)


 別に勇者の娘とはいえ、こういった戦気に慣れているとは限らない。

 そんな当たり前のことに気づけなかった彼女は顔から火が出そうになった。

 どう誤魔化そうか考えていると、アリスとエルレイは互いに一歩下がってくれていた。


「シャルハートさん。ありがとう、仲裁に入ってくれて。おかげで頭が冷えたわ」


「うん……ボクも冷静になったよ。ありがとねシャルハート!」


 そこで他の受験生から感嘆の声が上がる。

 あの勇者の娘二人に毅然とした態度で仲裁に入れるその姿へ称賛が送られる。

 何とか事態を丸く収められたことに安堵していたシャルハートは、自分が想像以上に目立っていることに気づけないまま、こんな馬鹿げたことを考えていた。


(ふぅ……まあ、子供の喧嘩を仲裁した程度だから、そこまで目立ってないよね? それにしても今度からは気をつけないとな。まあ、立場的にありえないことだけど、もし私のことがアルザとディノラスの耳にでも入れば、相当に面倒くさいことになりそうだからね)


 シャルハートは気づいていなかったし、知らなかった。

 まず知らなかったこととは、今の今までアリスとエルレイが喧嘩になる寸前に誰かの手によって止められた事がなかったこと。

 そして、気づいていなかったこととは、出会った最初から今この瞬間まで、アリスはシャルハートに興味津々だということだ。


「自分で言うのもなんだけど、今まで誰もあそこまで頭に血が上った私とエルレイの言い争いを止められる人が居なかったから正直、驚いているわ」


「え、そうなんですか? 誰も止めないなんてそりゃ酷い」


「シャルハート! 多分また喧嘩するからその時はまた止めてね~!」


 エルレイのどこか抜けている発言に、ついおかしくなってしまった。

 平和だな、とシャルハートは本当にそう感じていた。

 この世界ではアルザとディノラスはどう生きているのか。

 叶うものならば、一度で良い。一度だけ会って、語らってみたい。


「シャルハート・グリルラーズさん。貴方で今日は最後です」


 並行して試験が行われていたのか、まさかのトリにシャルハート、緊張が走る。


「シャルハートさん! 頑張ってください~!」


 ミラの応援の声が聞こえる。これだけでも何でもやれそうな気がする。

 ルクレツィアの指示でシャルハートは木人の前に立つ。

 最後ということもあり、受験生や先生の視線が注がれる。

 これほどまでに注目されたのは久しぶりであった。

 具体的には人間界と魔界の軍に挟み撃ちに遭ってしまい、全方向から視線の集中砲火を食らった以来である。もちろん、その時は全ての敵だったので殺意と敵意と言う名のトッピングがたっぷりと乗せられていた。

 そんな前世に思いを馳せていたところ、ルクレツィアに肩を叩かれた。

 そして、クールな表情を少しだけ緩ませながら、彼女はこう言う。


「大丈夫ですよ。皆、思い切りやっています。だから貴方も思い切りやってください」


「……はい! ありがとうございます」


 緊張で動けなくなったと思ってくれたのか、そんな優しい言葉を掛けてくれたのだ。

 表情が一ミリも動かない、本当のクールビューティーなのかと思えば、案外とそうではないらしい。

 ともあれ、シャルハートは右手を前へと突き出す。

 ありとあらゆる魔法を行使することが出来るシャルハート。

 確かに今、ルクレツィアは“思い切りやれ”と言ったが、それを真に受けて本気を出してしまったら恐らく一秒未満の速度で世界を滅亡させてしまう。

 それだけの魔力と、手札が、彼女にはあるからだ。


 そんな中で、シャルハートが選択した魔法は『火炎(フレア)』。


 初歩中の初歩の初歩である炎の魔法。

 小さな火の玉を勢いよく飛ばす、その程度の魔法である。

 これならば木人を無難に燃やして『はい試験終了!』という流れに持っていけることが出来る。

 右手を突き出し、シャルハートは魔力を込める。

 既に『火炎(フレア)』を放つまでの術式は完成済み。

 後は、引き金を引くだけ。


(ん?)


 初歩の魔法なだけに、何だかいつもより魔力のノリが良い気がする。

 だが、これくらいならばちょっと強い魔法ということでお茶を濁せるだろう。

 何だか自分のことを買ってくれているアリスとエルレイには悪いが、この魔法を以て、幻滅してもらおう。

 そして、自分はごく普通で、ミラと楽しく学校生活を送る。



「『火炎(フレア)』」



 十二分に込められた彼女の手のひらから、紅い閃光が飛び出した。

 ヒョロヒョロと頼りなく、木人へと飛んでいく。

 そこでシャルハート、強烈な違和感を覚える。

 そして、気づいた。


「ん!?」


 魔法を極めたシャルハートの瞳は確かに捉えていた。

 あの今、頼りなく飛んでいる『火炎(フレア)』には自分が込めたと思った量より遥かに莫大な魔力が凝縮されている、と。

 そこから推測される威力は――即刻、シャルハートは左手の平を木人へと向けた!


「『指定型防御結界(ピンポイント・フィールド)』!」


 彼女が魔法を発動したのと完全に同時、頼りない『火炎(フレア)』が木人へと到達し――そしてこの大陸全てを飲み込まんと膨れ上がろうとしていた!




 爆 発 が 起 こ る ッ ッ ッ ッ ! ! !

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