モブNo.89:「しばらくは仕事はやらねえからいいんだよ。傭兵の分際(ぶんざい)でと思うかもしれねえが、『戦闘』や『退治』は疲れるからな。お前さんもそうだろ」
色々御指摘を受けた部分を修正しました
惑星イッツに帰還したその日。
ゴンザレスとささやかな慰労会をした後は、直ぐに家に帰った。
仕事の後は疲れるものだけど、貴族同士の争い、国外勢力や造反者の討伐といった勢力争いである『戦闘』の時は特に疲れるから、もちろん即爆睡だ。
そうして翌朝目が覚めると、既に午前10時になっていたので、昼食は外で食べることにして、まずは洗濯物をやっつけることにした。
といっても、色柄ものを分けて全自動の洗濯乾燥機に放り込むだけだけどね。
その間に部屋の掃除。まあこの掃除も、たまったホコリを掃除機で吸い込んで、水拭き乾拭きをするだけだけど。
洗濯が終われば、畳んでからクローゼットに放り込む。
それらが終了すると、着替えてから昼食に向かうわけだけど、僕がいく店はファーストフードか安い定食屋ぐらいで、お洒落な店には行くつもりはない。
それに、取り敢えず5~6日はゆっくりするつもりだから、その間の食料の買い出しもしておこう。
そうして初日は、昼食も買い出しも無事に終了した。
そして2日目からは、とにかく夜から朝までアニメ・ゲーム・ラノベ・ネット三昧だった。
『クリーチャーハンターブレス・スターブレイカー』の素材狩り&ランキング上げや、『どこか神秘の召還指輪』のアニメ第4期の連続視聴。積ん読状態だった『乙女戦史』のノベライズ版を読んだりと、充実した日々を過ごしていた。
そして5日目の朝。
この日は『Assassin×Family』の新刊の発売日だった。
前日は0時前には寝てしまい、今目を覚ました時間は午前5時30分だった。
書店なり『アニメンバー』なりが開店する時間近くまで二度寝しても良いのだけれど、身体がべたっとしてるし、たまには広い風呂に入りたいと思ったので直ぐに支度して、24時間営業の入浴施設に行く事にした。
この大規模な入浴施設の『リラクゼーションヘルスランド』は、入浴施設の他にも、エステ・レストラン・各種娯楽施設に宿泊施設まであるところで、これで24時間営業とは、なかなかすごい所だ。
僕はデカ目のバッグに着替えやバスタオルを入れ、それとは別に新刊をいれるためのバックパックも用意して、『リラクゼーションヘルスランド』へと向かった。
この『リラクゼーションヘルスランド』の玄関とも言えるメインホールはかなり広く、天井も高いため解放感がなかなかすごい。
建物内は明るく清潔で、朝早いのもあり、爺さん婆さんの姿が多いが、家族連れの姿もちらほら見える。
僕は入浴施設のチケットを購入してカウンターにもっていく。
ちなみにこのチケットはわざわざプラペーパーで作っていて、月ごとに印刷している図柄が変わるらしく、コレクションしている人もいるらしい。
カウンターでチケットをチェックしてもらい、シューズボックスの鍵をもらい、
その鍵の番号のシューズボックスに靴を入れたら、ようやく脱衣場に入れる。
荷物と脱いだ服をナンバーのついているボックスに仕舞って鍵をかけ、タオルだけで浴室に入るとかけ湯をして身体を洗ってから広い湯船につかる。
「あ~……」
家にも風呂はあるし、船のシャワーもさっぱりするけど、この解放感だけは真似できないんだよね。
そんな幸せな時間を満喫していると、
「おう。兄ちゃんじゃねえか」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あんたか……って気分悪そうだけど大丈夫?」
「昨日はちょいと飲み過ぎてな。しっかり二日酔いだ。だもんで酒を抜きに来た」
「風呂でアルコールは抜けないでしょ……」
それは同業者で歳上の元警官のバーナード・ザグだった。
元警官だけあって、なかなかがっちりしていて、年齢よりは少し若くみえる。
「あ~いい湯だ。風呂上がりのビールはさぞ旨いだろうな~♪」
「昨日飲み過ぎたんじゃないの?」
「しばらくは仕事はやらねえからいいんだよ。傭兵の分際でと思うかもしれねえが、『戦闘』や『退治』は疲れるからな。お前さんもそうだろ」
「まあね。『護衛』や『警備』のほうが、報酬は安いけど気楽だしね」
余程金に困っているか、余程の戦闘狂か、戦場で全く戦闘をしていないか、戦場をゲーム感覚で飛び回っているか、そういう奴でない限り、大抵の傭兵は『戦闘』や『退治』の仕事を受けたあとは数日は休みをとる。
それくらい、戦場に立つのは疲れることなんだよね。
「しばらくは海賊が増えるなあ……」
「反乱者の小飼いや子息が落ちぶれるからねえ……」
「戦争よりは気分は楽だがな。ところでお前さんはこの後どうするんだ?俺は朝から飲める店があるからそこに行くつもりだがよ」
「僕は買い物の予定があるからね。ここで朝食を済ませてから行く予定かな」
会話はこれで終了した。
バーナードのおっさんと話すことは基本あまりないが、これぐらいがちょうどいい関係だ。
それから5分ぐらい黙って湯につかった後、
「じゃあ先に失礼しますね」
「おう。また仕事場でな」
軽く挨拶をしてから、僕は浴室を後にした。
風呂から上がって、施設内のレストランで朝食を済ますと、『アニメンバー』のある繁華街の65ブロックのメインストリートに向かった。
このブロックには、お洒落カフェ・お洒落書店・お洒落飲食店・ブティック・コスメ・ジュエリーなんかがならぶ通りでもあり、かなり雑多な人の流れがある。
それをすり抜けて『アニメンバー』のあるマシトモビルに入って書籍の売り場に到着すると、まずは『Assassin×Family』の新刊を手に入れ、他にも買い忘れていた『コリンナさんは口下手』の新刊や『親切な死神』の新刊も購入した。
それからは目的もなく色々と物色を始める。
するとなぜか視線を感じた。
その視線の主を探してみたところ、それは直ぐにみつかった。
高校生ぐらいの女の子が2人、こっちを睨み付けていたからだ。
正直見覚えはないし、彼女達に接近して失礼をした記憶もない。
もしかすると新人の傭兵で、主人公属性の連中に色々吹き込まれたのかもしれない。
だとしたら、絶対に関わってはいけない。
下手をしたら、目があっただけで犯罪者にされてしまう!
なので僕は早々に会計を済ませて店を出た。
さすがにそれ以上は追いかけては来なかった。
☆ ☆ ☆
【サイド:ルビナ・ラドゥーム】
私はその日、妹と一緒に惑星イッツに来ていた。
その理由は、ソーシャル育成シミュレーションゲーム『鬼神演義』の私の推しキャラ『鬼塚温羅』のフィギュアが残っていたので店に取り置きをしてもらい、わざわざ取りに来たからだ。
そしてそのフィギュアを手に入れて最高の気分だったのに、私達の視界にあいつが現れた。
以前私達を撃墜した土埃の戦闘艇のパイロットだ。
妹のエリサが言った通り、やり取りの画像を見れば直ぐに相手が判明し、それが小太りのオタクだと知った時、私は凄まじい怒りを覚えた。
なんで爽やかなイケメンやダンディなイケオジや可愛い男の娘じゃなくてあんな小太りオタクなのよ!
直ぐにでも探しだして殺してやりたかったけど、公爵様からのお仕事があったからできなかった。
それがこんなところで出くわすなんて、私は運がいい。
早速殺してやろうと銃に手を伸ばした。
「ダメよ姉さん。面倒を起こすなって公爵様にも言われてるでしょう?」
するとその手を、妹のエリサが掴んで止めた。
「でも! あんただって悔しいでしょう?」
「次に勝つために、きっちり腕を磨くんじゃなかったの?」
「でもあんなキモオタとは思わなかったんだもの!」
私達姉妹をあっさりと倒した強敵が、あんなのだなんて納得がいかない!
でも、私達を倒した実力は本物だ。それは間違いない。
「それは姉さんの勝手な都合でしょ? もう一度言いますが、こんなところで殺人をしたら公爵様に迷惑がかかります。それに、痩せたら案外イケメンになったりするんじゃないですかあの人」
「あんなのがイケメンになるはずないでしょ!」
エリサが私を諭しながらあの男を見つめる。
そのやり取りに、向こうはこっちに気が付くと、焦った様子でそそくさとアニメンバーを後にした。
向こうはこっちの顔は知らないだろうから、不審者と思われたのかもしれない。
だが普通不審者に見られるのは向こうだろうけれど。
まあ、今回は見逃してやるわ。いずれ格闘戦で撃墜してやるんだから!
「それよりそっちの買い物は終わったの?」
まああのキモオタのことは置いておいて、さっきまで別行動してたからエリサに目的は達成したのか尋ねると、
「はい! バッチリです!」
エリサは大きな紙袋を2つも抱えて満面の笑みを浮かべていた。
あの子が購入しているものを見たことがないけど、時々怖い含み笑いをしながら読みふけっているのは見たことがある。
少し前は『タイタンズトルーパーのレンへたれ攻✕アミ誘い受けは神!』とか独り言ってたわよね……。
本当にいったいなに買ったのかしら……?
こんどこっそり読ませてもらいますか。
★ ★ ★
姉妹の名前がやっと決まりました
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