モブNo.82:「病床にある国王陛下ってフレーズだけで、演説してるこいつが死ぬ程胡散臭い」
傭兵ギルドを後にした僕は、真っ直ぐ家には帰らず、
ちょっと知りたい情報を得るべく、ゴンザレスのところに向かった。
そこまでの道中、街中はかなりの騒ぎになっていた。食料品や医薬品を扱っている店には客が殺到し、飲食店や衣料品、会社や旅行代理店なんかは早々と店じまいをしていた。何しろ4時間後には戒厳令で外に出られなくなるからみんな必死だ。
中には事態を理解していなさそうな連中が、路上で騒いでいたりもした。
闇市商店街でも、次々と店じまいをしていたのだけれど、食料品を売っている店だけはギリギリまで開けているつもりらしい。
そして例の肉屋には、『辛酸たる黒粘に抱擁されし、油泥に溺れし真球の肉塊』の幟が立てられ、戒厳令前の一儲けとばかりに、大いに売り出していた。
その光景を尻目に、僕はパットソン調剤薬局に到着した。
「よう」
軽く手を上げてながら局内に入ると、薬を処方して貰うのに医師の処方箋が必要な調剤薬局なのもあってか、客は1人もいなかった。
ゴンザレス自身にも慌てた様子はなく、のんびりと本を読んでいた。
「よう。例のクーデター関係か?」
「まあね。食料とか薬の材料とか大丈夫なの?」
「少し前から多めに仕入れてあったから大丈夫だし、蓄電池も栄養液も備蓄があるから大丈夫だ。普通の食事もかなり買ったしな」
「もしかして事前に知ってたの?」
「一部の貴族が1ヵ所に集まってる情報があったのと、電脳空間に決定的なのがあってな」
そこまでいうと、手のひらをこちらに向けてきた。
普段は情報一つに5万クレジットくらいが相場なので、最初に聞きたくて用意していた10万クレジットに5万クレジットを足して手渡した。
その金額に満足したのか、ゴンザレスは動画を再生した。
「ネキレルマ星王国内のネットにあったやつだ。多分クーデターが起こる寸前ぐらいだと思う」
画面には、いわゆる演説台が設置され、豪華な服を着た濃い感じの男が画面に映っていた。
『諸君! ついに我々に好機が訪れた!銀河の様々な国家を侵略し、植民地としてきた帝国に陰りが見え始めたのだ! 現皇帝のアーミリア・フランノードル・オーヴォールスは求心力に著しく欠け、国民の半数以上が支持をしていない状況だ! それを証明するべく、帝国の国民が我々に庇護を求めてきた! 彼等は現皇帝を淘汰した暁には、新たなる国家運営を我が国に先導をして欲しいと懇願してきた! その懇願を受け入れ、その為の資金と兵器を我々は提供してやった! 病床にある国王陛下も、今回の作戦には期待をしておられる! 彼等の戦いが勝利に終れば、我々が銀河の覇者となるための華々しい道が用意される! 奮起せよ!我々が銀河の全てを手にする為に!』
濃い男が、やりきったという感じの笑みを浮かべているシーンで動画は終了した。
見終わった僕は思わず頭を抱えてしまった。
ネキレルマ星王国が後ろにいること自体は予想の範囲内だ。
だが問題は演説の内容だ。
「色々突っ込み所がありすぎる気がするんだけど……。現皇帝が求心力に著しく欠け、国民の半数以上が支持をしていないって……いまの皇帝陛下の支持率って75%だったよね?」
「多分演説してる奴にとっては国民=貴族なんだろ。貴族だけで見れば反抗している奴が大勢いるようにみえるんだろうな」
「現皇帝を淘汰した暁には、新たなる国家運営を我が国に先導をして欲しいと懇願って……帝国の貴族が本気で頼むわけないお! そのまま隙をうかがって攻撃するの丸解りじゃん! まあ、わざとそう言ってるんだろうけどさ……」
「帝国の貴族が見ているから油断させるためってのは当然だな。あと、戦闘の直後なら相手は疲弊しているから勝てる! ぐらい考えてるなあれは」
「病床にある国王陛下ってフレーズだけで、演説してるこいつが死ぬ程胡散臭い」
「確か宰相で侯爵のカイエセ・ドーウィンだったか。国王陛下からの絶大な信頼を寄せられている超敏腕宰相って触れ込みだ」
「全部自称に間違いないお」
他にも突っ込み所はあるけど、最大級の突っ込み所はこんな感じだろう。
ともかく、頭の痛くなるおまけはこのくらいにして、本来するはずだった質問をすることにした。
「で、向こうの戦力って、今どれくらいなわけ?」
ゴンザレスの情報網でも正解な数はでないだろうけど、判断材料は多い方がいい。
「多分、貴族達の戦力だけなら、無人機やリモート式の無人砲撃艦なんかを含めれば全体で40万だな。それに加えてネキレルマ星王国からどれぐらい戦力が渡されたかは不明だけど、最低でも50万以上は確実だろう。でも、同じように無人機やリモート式の無人砲撃艦なんかを含めても1万程の第7艦隊が睨んでいるだけで動く様子がないから、今のところ動く気は無いんだろうな」
ゴンザレスが集めた資料なら、間違いは少ないだろうが、貴族達の動向についてだけは間違っていた。
「いや。多分9割以上の貴族が、『何が『鬼神』だ! 平民腹から産まれた落ちこぼれた似非貴族風情が無能な平民共を集めて名将を気取りおって!私は振るう機会がなかっただけで、あやつの実力はこの私の足元にも及ばん!なので、あれを叩きのめした所でなんの歯ごたえもないので、あれを撃つ機会は貴殿に譲ろう』とか仲間内で言い合い・押し付け合いをしつつ、トーンチード准将にビビリちらかしてるだけだね」
言葉の仔細は違うかも知れないけど、間違いなくこうなってるはずだお。
そしてそれ以上貴族達に興味はないので、さっさともうひとつの用件をお願いした。
「それと、現場宙域の『詳細な地図』はある?」
「ああ。ちょっとまってくれ」
地図くらいなら普通の本屋やコンビニでも手に入るが、この場合の『詳細な地図』はクーデターを起こした貴族達の配置や現場惑星周辺の軍・警察関係の構造物や小惑星なんかの位置や、それらの内部情報を詳細に記したものの事だ。
ゴンザレスが地図を準備している間、さっきまでこいつが読んでいた本が気になったので、ふと表紙を見たところ『暴風の大陸』という、古いラノベだった。
そうして現場宙域の『詳細な地図』を受けとると、戒厳令が発動する前に家に帰れるように、パットソン調剤薬局を後にした。
なお気になっていた『辛酸たる黒粘に抱擁されし、油泥に溺れし真球の肉塊』はしっかり買って帰った。
そうして家に帰って掃除やら洗濯やらを済ませ、買ってきた『辛酸たる黒粘に抱擁されし、油泥に溺れし真球の肉塊』をおかずに遅めの昼食を済ませてから、たまっていたアニメを見ながらくつろいでいると、やっぱり傭兵ギルドから召集がかかった。
戒厳令も発動してるわけだしこのままブッチしてやろうかなとも思ったけど、そういうわけにもいかない。
仕方なく準備をして外に出ると、戒厳令が敷かれている街中は、がらんとしていてまるでゴーストタウンのようだった。
公共交通も止まっているので、管理人さんにお願いして共用バイクを借り、傭兵ギルドへ向かった。
その途中、定番のように警察に止められたが、傭兵ギルドからの通知を見せるとすんなりと通してくれた。
そうして到着した傭兵ギルドには、呼び出しで集められた傭兵達で溢れかえっていた。
ここしばらくの暑さでバテ気味です…
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