モブNo.73:「動くな侵入者。動けば殺す」
まずは奥にいってみよう。
リストコムのライトを点灯し、洞窟内を見回す。
洞窟の幅は約2.5m。高さは約3m。緩い傾斜で、奥に向けて下りになっている。
天井近くの壁に光源と噴出口のあるパイプラインがあり、地面にも同じ様なパイプラインがあった。
多分洞窟内の空気循環用のパイプで、天井側が酸素供給用、地面側が二酸化炭素排出用だろう。
外にデカイ電源装置とエアポンプがあったから間違いはないはずだ。
まあ、動いてないけどね。
しかも天井のパイプラインの下には、入り口からの距離を示したプレートが10m毎に設置してあった。
そして最悪な事に、洞窟にヒビ割れが入っているのを見つけてしまった。
おそらくさっきの砲撃でダメージが入ったのだろう。
脱出は急いだ方がよさそうだ。
そうして入り口から50mのところまでやってくると道が2つに分かれており、パイプラインも左右に別れていた。
右の道は入り口から真っ直ぐ伸びていて、左の道は45度程曲がっていた。
なのでまずは右の道から行ってみる事にした。
右の道は、高さや幅は入り口からここまでといっしょだが、所々に短い横穴があり、そこが発掘場所なのがわかった。
教授たちのチームの人達はかなり几帳面らしく、道具を放り出すようなことはしていなかった。
そんな道を入り口から換算して1800m、時間にして30分近くも進むと、緩い傾斜とはいえかなり深いところまで下がってきたのを感じ取れ、かなり息苦しさも感じるようになってきた。
途中1850mのところでパイプラインと光源がとぎれ、そこから20mほど歩いてたどり着いたのは、発掘の最前線らしい行き止まりだった。
仕方なく引き返していくと、少しずつ息苦しさが和らいできた。
とはいえ早くなんとかしないといけない。
砲撃のダメージでいつ崩れるかわからないのだ。
そうしているうちにさっきの分かれ道に戻ってきたので、今度は左の道を進む。
この左の道には横穴はなく、20mほど歩いたところにちょっとした空間が広がっていた。
内部を見渡すと、どうやらここは発掘のための基地らしく、光源の他に、発掘品を入れるためのボックス・緊急時のための酸素マスク・土を運び出すための反重力ホバー式の手押し車・掘削機・大小のバッテリー・スコップ・遺跡発掘用の小型の鶴嘴・簡易トイレ・休憩用の椅子とテーブル・外部との連絡用の無線・ウォーターサーバー等が置いてあったので、どうやら脱出は出来そうだ。
というかはじめからこっちを選んでればよかったお。
光源はバッテリー内蔵型できちんと機能してくれたのでそちらを点灯したところ、壁の一部にヒビが入っているのが見えた。
教授達がこのヒビ割れを見逃すはずはないだろうから、洞窟内のヒビ割れ同様さっきの砲撃でできたものだろう。
僕は掘削機のバッテリーを確認してから正常に作動するかどうかチェックし、よいしょと担いで入り口に戻り、さらには光源も持って来て、さっそく穴堀を開始した。
最初はすぐに開通すると思っていた。
しかし掘削機で2時間ほど掘り進めても、薄くなった気が全然しないし、空気も段々薄くなってきている筈だから気だけがあせる。
右側の発掘現場の往復に1時間、掘削作業に2時間かけた現在の時間は午後8時過ぎ。
よく洞窟内の空気が持ってくれているものだ。
ともかく、せっかくウォーターサーバーがあるのだからベースキャンプに戻って一回休もう。
そうしてベースキャンプに向かい、休憩用の椅子に座って水を飲んで深呼吸すると、あまり息苦しくないことに気がついた。
この洞窟は傾斜になっているので、入り口近くはともかく少し低い場所になるこの場所は入り口より多少は息苦しいはずだし、洞窟の規模を考えるとそろそろ酸素マスクを着けないといけない筈なのだが、いまだに十分な呼吸ができている。
これはつまり、何処かに空気穴があったりするという事なんだろうか?
考えられるのはあのヒビ割れの何れかが外に繋がってて、空気を補充してくれているのかもしれない。
でもこれで脱出のための穴掘りが心置きなく再開できる。
そういえば掘削した石や土が邪魔になってきたからスコップで取り除いておくことにしよう。
そうして10分ほど休憩してから作業を再開した。
何処からかの酸素提供のおかげもあり、20分程かけて土砂を退かしても息苦しくならず、それからまた2時間ほど穴掘りをつづけたが、まだ開通はしなかった。
「もう10時半か…」
ここに到着したのが午後5時近く。
雨風は2日ほどは続くらしいから、今日はもう寝てしまおう。ベースキャンプの椅子を並べて寝床にすればいい。
そう考えながらベースキャンプに戻ったら、なぜか行き止まりになっていた。
「え…なんで?」
道を間違えるなんてことは絶対に有り得ないし、洞窟が崩れるような震動なんかもなかったはずだ。
その時ふと、ベースキャンプの入り口近くの壁のヒビが目に入った。
「実はあの空間自体が古代遺跡のエレベーターだったりして…。そんなわけはないよね」
そう思いながらヒビの入った部分をかるく叩いたところ、壁の岩がぽろっと剥がれ落ちた。
その剥がれ落ちたところには、エレベーターの昇降ボタンのようなものがあった。
これを見た瞬間に嫌な予感と疑問が同時に湧いた。
おそらく様々な計測機器を使用して調査しているはずなのに、この程度の偽装を見破れないはずはない。
もし教授達が知っていたのなら、最後の最後に調査する予定だったのかもしれない。
もし本当にわからなかったのなら、教授の調査が甘いということになる。
しかしここが古代文明の施設なのを考えると、古代人による偽装が施してあったと考えるのが自然だろう。
それなら、様々な計測機器になんの反応も出ないのもわかる気がする。
これが主人公なら、昇降ボタンを押して古代遺跡の探索と洒落混むところだが、僕はそれを無視して、入り口の方へ引き返す事に決めた。
明らかにヤバい匂いがぷんぷんするのに、誰が好き好んで触るものか!こんなのは主人公に任せるべきだ!
何よりも、あの空間がエレベーターなら、何者かが作動させたという事だ。
僕は発掘現場に身を隠すために、慌てて踵を返したが一歩遅かった。
扉であった行き止まりの壁が音もなく開いた瞬間に、僕の足元にレーザーが何発か着弾した。
「動くな侵入者。動けば殺す」
背後から女性らしい声が聞こえ、僕は動きを止めた。
「何故ここに入って来たのか理由を聞こうか。こちらの指示通りに動け。そうすれば殺さない。理解したらそのスコップを遠くへ投げろ」
僕は言われた通りにスコップを遠くに投げる。
「ゆっくりとこちらを向け」
指示通りに後ろを振り向くと、僕に指示を出していたのは、180㎝はある高身長で、黒目の三白眼で鋭い眼光を放ち、黒い髪を背中まで伸ばしている女性で、その手には銃があった。
「その腰の物も渡してもらおう」
もちろん腰の熱線銃も渡した。
多分彼女には勝てないだろうからね。
「さて改めて質問だ。貴様はなぜここに入ってきた?」
僕は最初から全て話した。
この場所は現在遺跡になっていて、発掘調査が行われていること。
その発掘責任者と忘れ物を取りにきたこと。
その際、責任者の発掘の成果を奪いにきた輩に攻撃されたためにこの洞窟に逃げ込んだこと。
その際、輩が腹いせも兼ねて洞窟を撃ったこと。
自分はその入り口の土砂・岩石を掘って脱出しようとしていることなどを説明した。
「なるほどな。お前がここにいる理由はわかった。では迅速に穴を掘ってでていくといい」
彼女は僕に興味をなくしたらしく、このエレベーターで元の場所に帰ろうとしたので、
「あ、ちょっと質問よろしいですか?」
と、声をかけた。
「なんだ?」
「最初にここを調査した教授たちが、この設備を発見できなかったのはなんでですか?」
様々な調査器具を駆使していたであろう教授達が、どうして見つけることが出来なかったのか?
声をかけた最大の理由はこれだ。
すると彼女は、事も無げに正解を答えてくれた。
「この施設のカムフラージュには『擬装土』と呼ばれる、音の反響や探査装置を阻害するナノマシン混入の土砂が使用されている。今のお前達の道具で暴けるものではない」
おそらく似たようなものは在るのかもしれないが、多分技術力の次元が桁違いなのだろう。
「ついでにもうひとつ。ロスヴァイゼって言葉に聞き覚えはありませんか?」
そしてもう一つの理由はこれだ。
最初に彼女を見た時から、聞かないといけないと思っていた事だ。
「それは私の愚妹の内の1人の名前だな。知ってるのか?」
「はい」
「そうか。私は小型戦闘艇・Wagner・Varukyuria・SistersのLotNo.02・ゲルヒルデだ」
やっぱりそうだったか。
顔かたちや身長なんかはまったく違うけど、雰囲気がなんとなく似ていたからそうじゃないかと思ってたんだ。
出るべき人が出てきました。
無差別攻撃は行わないようですが…?
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします
休憩室=エレベーター内に簡易トイレを追加しました




