モブNo.58:「完膚なきまでに叩きのめすのが当然でしょう?!」
ピンク頭の口調を変更しました。
小惑星と戦闘艇を買い取ってもらった後は、家に帰って即爆睡だった。
それにしても、警告に逆らわずさっさと引き返したし、なんにも見たりしてないのになんで襲撃してきたんだろう?
なんかヤバイものでもあるのかねえ。
とはいえ、僕みたいなのが下手に首を突っ込むとろくなことにならないだろうから、再度襲われない限りは放置がいいかな。
主人公なら勇猛果敢に公爵に挑むんだろうけど、僕みたいなモブが突貫したら瞬殺だからね。
とにかく明日には査定ができてるだろうから、受け取ったら『アニメンバー』にいって新刊と同人誌でも買いに行こう。
翌日。
疲れがまだ抜けきってない感じがしながらも、なんとかギルドにやってきた。
「お疲れだな」
「理由もわからず襲撃されたらこうなるよ」
いつも通りローンズのおっちゃんに手続きをお願いする。
「ともかく依頼は無効。確保した小惑星を改造した建築物と、グラントロス社製G-22『バステス』2機の買い取りはこんなもんだ」
おっちゃんが詳細を見せてくれる。
小惑星を改造した建築物は341万クレジット。
『バステス』は、帝国軍の主力機では無くなったもののかなり人気の機体なのもあって1機で407万クレジット。
合計1155万クレジットにもなった。
取り敢えず現金は流石に怖いし、全額情報で貰おうかな。
「じゃあ、全額情報で」
「わかった。しかし今回は随分大台に乗ったな」
「その分疲れたけどね…」
そんな話をしていると、
「ちょっと!なんで海賊退治に失敗した奴があんなに報酬をもらってるのよ!?」
隣の席から大声が響いてきた。
そちらに顔を向けると、ピンクの長い髪をポニーテールにした僕よりは年齢が少し下ぐらいの美人が、パーテーション越しにこっちを見つめていた。
「隣の人は海賊本人は捕獲できなかったものの、アジトだった小惑星を改造した建築物と、その帰り道に襲撃してきた『バステス』2機を鹵獲して売り払ったんです。だから報酬というよりは買い取り額なんですよ。
それに、依頼は失敗ではなく無効。海賊はオーヴォールス公爵の私設警備艦隊が撃沈。遺体も回収したと警察と傭兵ギルドに報告がありました。それより席に付いてください。それと、今の貴女の行為は完全にマナー違反ですよ」
そしてさらに、隣からはアルフォンス・ゼイストール氏の怒っている感じの声が聞こえてきた。
しかしピンクの女性は席には座らず、そのままゼイストール氏に抗議を続けた。
「依頼の事情はわかったわ。しかし私が海賊をきちんと退治した時には、海賊の船を買い取ってくれなかったじゃない!」
あ。今『きちんと退治した』って所を強調したお。
「貴女の場合は、毎回完全なスクラップ状態なので買い取りが出来ないんですよ」
「完膚なきまでに叩きのめすのが当然でしょう?!」
「それじゃあ買い取りは無理ですね」
「ぐぬぬ…」
しかしゼイストール氏の説明に、ピンクの女性は悔しそうな表情を浮かべる。
するといきなりこちらを睨み付け、
「あんたみたいな、海賊退治なんかろくにできそうにないクズが高額な報酬を受け取るんじゃないわよ!
『バステス』もどうせ海賊のアジトに置いてあっただけでしょう!」
と、罵声を浴びせてきた。
他人の書類を覗いた上に、初対面の僕をクズ呼ばわりしてきた。
はっきりいって失礼極まりない人だ。
そして絶対面倒臭い人にまちがいない!
「そうだ!ちょっとクズ!『バステス』を私によこしなさい!帝国軍の元・主力機なら私が乗るのにふさわしいもの!」
案の定、どっちがクズなんだといいたくなるセリフをたたきつけてきた。
「悪いがそれは無理だな。すでにギルドが買い取ってるからこいつの手元にはない。それに破損箇所の修復をしないと使用は出来んぞ」
ピンクの女性の言葉に、ローンズのおっちゃんが呆れながら答えたところ、
「だったらあんたが買い戻せ!そして完璧に修理して私に寄越せ!」
頭がおかしいとしか思えないセリフを僕に向かって言いはなった。
「アコ・シャンデラさん。それは明らかな恐喝行為です。今すぐ止めないなら、警察への通報からの逮捕。後に傭兵資格の剥奪と実刑への直滑降になりますが?」
そこに、ゼイストール氏の穏やかだけど間違いなく怒っている声が聞こえてきた。
アルフォンス・ゼイストール氏は、最初は有能な美少女受付嬢として人気がでた。
しかし格闘技の実力に加え、不真面目だったり問題を起こしたりする傭兵に対して容赦がないため、『秩序の姫』なんてあだ名がついているらしい。
その迫力に戦いたのか、理不尽を押し付けてきたピンクの彼女はおとなしく席に座った。
「とっとにかく報酬を寄越しなさい!それから昇級試験の申込書も!」
ゼイストール氏の迫力に怯えつつも必要なものを受け取ると、僕を睨み付けた後、そそくさとその場を後にした。
僕・ローンズのおっちゃん・ゼイストール氏は大きくため息をついた。
「お前。なんで反論しなかったんだ?『バステス』は間違いなくお前が撃墜したのに」
「あの人、ユーリィ・プリリエラとおんなじタイプだから話なんか聞かないでしょ。いきなり殴り付けて来ないだけマシですけど」
「思考はそれ以上だったがな」
僕とローンズのおっちゃんがピンクの人に驚愕していると、ゼイストール氏が話に入ってきた。
「それに。あの人ちょっと問題児なんですよ…」
「なんかあったのか?」
「あの態度や言動もそうなんですが、さっき昇級試験の申込書を持っていったじゃないですか。でもあの人、昇級資格に達してないんですよ」
傭兵ギルドの昇級試験。
つまり司教階級に上がるための試験を受けるには二つの条件がある。
①騎士階級であること。
まあこれは当たり前のことかな。
②『戦闘』『退治』『護衛』『警備』それぞれの依頼を、最低10件づつ完了させていること。
失敗・無効はノーカウント。
『戦闘』は、いわゆる貴族同士の争いなんかの戦争のことで、『退治』は、海賊や先だってのテロリストを捕縛撃退させるとかのことだ。
もし戦争や海賊退治の依頼が発生しなかったり少なかった場合は、傭兵ギルドの規定の一つにある、
『傭兵ギルドの傭兵は、1年の間に最低4回は、確実に戦闘が伴う(勢力同士の武力衝突・海賊退治など)依頼を受けなければならない。
突発的に発生した場合も換算する。
ただし、確実に戦闘が伴う依頼(勢力同士の武力衝突・海賊退治など)・突発的な戦闘が発生しなかった場合はこの限りではない』
という規定の条件を適用し、『護衛』や『警備』の依頼を多くこなす必要がでてくる。
「十分満たしてそうな感じでしたけど?」
「階級はそうです。でもあの人、『護衛』や『警備』の仕事を「そんなものは低能な連中のする事だ!」っていって1つもこなしていないんですよ。だから受験資格が無いっていってるのに何度も申請してくるんです」
ゼイストール氏はさらに深くため息をついた。
ランベルト・リアグラズ=イキリ君みたいにとんでもない成果をあげて、上からの推薦がある場合ならともかく、普通はそれを満たしていない場合は受験すらさせてもらえない。
司教階級からは、むしろ『護衛』や『警備』の依頼のほうが頻繁なのに、どうやらあのアコ・シャンデラという人はその辺りを理解していないらしい。
「困った人ですねえ…。じゃあ僕はそろそろ失礼します」
しかしはっきりいって僕にはどうしようもない、そして関係のない話だ。
彼女が金銭や物品を要求してきたら、即座に警察に通報だな。
「おう。気いつけてな」
「大変失礼しました」
ローンズのおっちゃんとゼイストール氏に見送られ、ピンクの人に見つからないように傭兵ギルドを後にした。
さて、『アニメンバー』に行って嫌な気分を吹き飛ばすかな!
ピンク髪女の襲来です!
主人公のヒロインのライバル枠です!
モブは使い捨てにする存在です!(私見)
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