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モブNo.56:「700クレジット。現金オンリーな」

 出発してから半日で、依頼にあったショボい海賊が出現する宙域に到着した。

 奴らはこの宙域からあまり離れずに仕事をしているため、近辺にアジトがあるのは明白だ。

 辺りを軽く流してから近くのサービスエリアに聞き込みにいってみよう。

 そう思っていたのだけど。

 なんと、2時間ほど流したところでアジトらしい小惑星を発見してしまった。

 取り敢えず呼び掛けてみるが反応がない。

 どうやら仕事にでもでているらしい。

 小惑星の近くには隠れることのできる場所がないので、小惑星にマーカーを取り付けてからサービスエリアに向かってみる。

 もしかしたらそこで祝杯でも上げているかもしれない。

 ここから一番近いサービスエリアは、惑星ルゴにあるサービスエリア群だ。

 惑星ルゴは、綺麗なピンク色をしたガス惑星で、見た目は綺麗だけど、惑星内の大気温度は摂氏240度を越え、さらには酸のようなものが含まれているため大気内に突入すると大変危険だ。

 しかし、いわゆる『映えスポット』なためサービスエリアが大量に存在している。

 その中で海賊が祝杯をあげられそうなのは、一番の老舗である『サービスエリア・コンカ』だけだ。

 塗装も所々剥げ、年期が入っているのがよくわかる。

 エネルギースタンド・トイレ・レストラン兼バーだけというシンプルなもので、観光客は寄り付かず、荒くれ者の輸送業者や傭兵がよく利用している。

 そのため海賊も混ざりやすいわけだ。

 さらには、普通の人間なら賑わいのあるサービスエリア群のすぐ側なんかには海賊は居ないだろうと考えてしまうというのも一種のカムフラージュになっている。

 そうして中にはいると、輸送業者や傭兵と思われる連中が食事や酒、仲間内での下らない話を楽しんでいた。

 僕は隅っこの空いていた席に座る。

 すると、人工皮膚と機械の部分が継ぎ接ぎ(パッチワーク)になった女性型のアンドロイドが注文を取りにきた。

「注文は?」

「いらっしゃいませ」もなければ、愛想もまったくないが、手付きだけは丁寧にメニューを渡してくる。

 その内容は、バーガー・ホットドッグ・サンドイッチ・フライドポテト・フライドチキン・ボイルドソーセージ・マッシュポテト・ミックスナッツ・ジャーキー・ピクルスといったジャンクフードか酒のつまみばっかりで、飲み物もコーラと水以外は全てアルコールという、荒くれ者御用達な内容だった。

 もちろんサイズなんて選べない。

 まあこのラインナップじゃ一般の人は来ないよね。

「バーガーとフライドポテトとコーラを下さい」

「酒は?」

「あとからもらいます。食事の時は飲まない主義なんで」

 一切飲まないっていうと周りの連中に絡まれそうだったから、とっさにそう答えた。

 彼女は僕の注文を聞くと、「かしこまりました」も言わずにさっさと引っ込んでいった。

 料理がくるまでに店内を見回してみる。

 祝杯をあげてるらしい人達はいたがターゲットはいなかった。

 しばらくして、「お待たせしました」の言葉もなく注文したものがテーブルにおかれ、

「700クレジット。現金オンリーな」

 愛想のない口調で代金を請求してきた。

 客質的(きゃくしつてき)に、食べた後にお出口で精算するなんてのをしていたら、食い逃げしてくれといっている様なものだからこういうシステムになっているのだろう。

 僕が1000クレジット硬貨を渡すと、彼女は腰につけていた革製のポシェットから現金を取り出し、

「ツリの300クレジット」

 そういって僕に差し出したので、受け取ろうと手を差し出したのだけれど、彼女は僕の手に落とそうとはせず、ちらちらと視線を合わせてきた。

 ああ、なるほどね。

「お釣りはどうぞ…」

「あらーいいんですかーありがとー♪」

 彼女の意図を理解してお釣りを差し上げると、いままで見せなかった笑顔を浮かべ、可愛らしい声をだして釣り銭を自分のポケットにネジ込み、僕のテーブルを後にした。

 最初、彼女をアンドロイドだと思ったのだけれど、実は身体をサイバー義肢にした人間なのかも知れない。

 とにかく注文したバーガーを食べることにする。

 意外にもバーガーもポテトもなかなかの品質(クオリティ)で、店や客や店員の雰囲気が苦手じゃないならここを選んで食べに来てもいいかもしれない。

 そうやってバーガーとポテトとコーラを堪能していると、明らかにガラの悪そうな、しかし小物感満載な2人組が店に入ってきた。

 1人は背が高く、もう1人は背の低い、いわゆるデコボココンビというやつだ。

 そして彼らが、僕の探しているショボい海賊に間違いなかった。

 なにしろ彼等は、通信画面で堂々と顔を晒し、『ハンズ・ブラザーズ』と称して自分達の恐ろしさを喧伝していた。

 そのためギルドの資料にバッチリと顔写真が載っていたのだ。

 もちろん、この顔をわざと晒してから、顔を変えている可能性もあったが、しっかりとそのままの顔だった。

『ハンズ・ブラザーズ』は、僕の2つとなりのテーブルに座り、

「ビールとソーセージとチキンを2つずつだ!いそげよ!姉ちゃん!(おせ)えようなら、その尻をひっぱたいてやるからな!」

「俺達『ハンズ・ブラザーズ』に気に入られりゃあいい思いさせてやるぜ!金はたんまりあるからよぉ!」

 と、例の無愛想な彼女(ウエイトレス)に、無礼極まりない言葉を投げ付けながら注文をした。

 会話の内容を聞くに、どうやら一仕事終えてきたところらしい。

 連中が僕に気がつくわけはなく、呑気に成果を自慢しあっている。

 ここで襲撃して捕獲してもよさそうだけど店に迷惑がかかるし、あの彼女(ウエイトレス)がなんとなくおっかない感じもするので、止めておくことにする。

 すると例の彼女(ウエイトレス)が、連中の所に料理をもってきた。

「12900クレジット。現金オンリーな」

 しかしその料金が法外だった。

 ビール中ジョッキ1杯500クレジット。

 フライドチキン1皿6個900クレジット。

 ボイルドソーセージ1皿5本750クレジットで、

 合計2150クレジットの2人分で4300クレジットだから、12900クレジットだときっちり3倍だ。

 多分色々と無礼千万なセリフを吐かれたのが癪に触ったのは間違いなく、その表情は不機嫌そのものだった。

 その彼女(ウエイトレス)の態度に『ハンズ・ブラザーズ』の2人が黙ってるわけがない。

「ビールとソーセージとチキンが2人分でそんなにするわけねえだろうが!?」

「ざけんなよこのアマ!わからせられてえのか!」

『ハンズ・ブラザーズ』の2人はそれなりに強面(こわもて)ではあるものの、最初に言ったように小物感満載なため荒事になれた人ならさして恐ろしくはない。

「アタシへの慰謝料込みなんだよ!さっさと払いな!」

 なので、荒事に慣れ親しんでいる感じで拳を鳴らす動作をしている彼女(ウエイトレス)は、まったく恐れていなかった。

 むしろその迫力に押されていた。

 その迫力はかなりのもので、周りの客までもが恐れ(おのの)いていた。

 もしかしたら彼女は用心棒も兼ねているのかもしれない。

「くっ…くそっ!こんな店で祝杯を挙げようとしたのが間違いだったぜ!帰るぞ!」

「残念だったな!死ぬほど儲けられたのによ!」

 偉そうな捨て台詞をはきながらも、彼女(ウエイトレス)の迫力にビビりながら、『ハンズ・ブラザーズ』は逃げるように店からでていった。

 僕はすぐに、残っていたバーガーとコーラを平らげると、頼むはずだったアルコール代の1000クレジット硬貨をバーガーの皿の下に置いてから店をでると、『ハンズ・ブラザーズ』の後を付けることにした。

 さっきの小惑星が本当に連中のものか確認するためと、捕獲時に他者の邪魔が入らないようにするためだ。

勉強不足と設定ミスと誤字にへこむ毎日


誤字報告誠に有り難うございます。


しかし…

初見の誤字報告な上に、箇所を見たら未修正のままなのに、

『修正されています』

と、表示されているミステリー…((( ;゜Д゜)))


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[一言] なんて怖いミステリー…
[良い点] わからせられてえのか! このセリフチョイスのセンスよ
[一言] せやな!こんな裏側荒くれ者ばっかの店でウェイトレスなんてやってるんやったら、保身足りえるナニか持ってなかったら身が持たないよな!お店の用心棒が「ゆらり…」と出て来るんでもいいですけど。 とこ…
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