モブNo.44:『まずは取り決めした陣形になるんだ!そうすれば海賊など怖くはない!これで引き寄せてから一斉射撃すれば、海賊共をある程度は撃退できる!』
翌朝。
集まった船団を見て驚いてしまった。
何処から集まったのか知らないが、なんと150隻近い貨物船や民間船が、惑星タッシアのサービスエリアの近くにひしめいていたからだ。
おそらく傭兵も少しは混じっている。
たしかにこれなら下手な連中でも手出しをためらうかもしれない。
でもやっぱりプロで大規模な海賊団には通用はしないだろう。
彼等は戦闘と略奪のプロであり、装備もこちらとは段違い。
さらに指揮官が優秀なら、下手な軍隊より恐ろしいことになる。
以前の依頼のように傭兵がきちんと連携しているならともかく、間違いなく集まっただけの状態ではあまり戦力にはならないだろう。
傭兵ギルドに依頼すれば良かったのに…
まあ多分思いつきだろうし、配達期日の関係もあってそんな時間は無いってところだろう。
そのうちに船団の発案者から声がかかった。
『今回、我々の呼び掛けに賛同し、集まってくれてありがとう!これだけの船が揃えば、簡単には襲ってこれないと思うが、海賊共はいつ襲ってくるかわからない!十分に注意し、迅速に目的地の惑星ナチレマまで移動しよう!では、先頭から出発だ!』
こうしてキャラバンは出発した。
目的地の惑星ナチレマまでは約2日間。
僕はできるだけ船団の上部に陣取り、レーダーを起動させていた。
しばらく、というか1日目は何事もなく進んだ。
銀河標準時間における夜間は、大きな船の人間が交代で見張りにつく。
その時になにかあるかとも思ったがそれもなかった。
その翌朝もなにもなく。
船団は順調に進んでいた。
だけど、異変はその日の正午を少し過ぎた時に起こった。
船団から、2機の小型艇がいきなり隊列から飛び出したのだ。
僕はその瞬間、飛び出したのが大小どちらかの海賊だろうと判断した。
あるいは両方かもしれない。
船団の人達は困惑しているのか反応がない。
向こうもそれは理解しているだろうから、多少の油断はしているだろう。
あの2機の小型艇に奇襲をかけるなら、いいタイミングだ。
とはいえ、あの2機が本当に海賊かはまだ判断がつかない。
しかしその時、僕の船のレーダーに、多数の船の反応があった。
もちろん船籍不明のものばかりだ。
「大規模な船団が接近!多分海賊だ!」
普通の船は船籍を隠したりしない。
そしてその船団の全部の船が、船籍を隠しているとなれば間違いなく海賊だ。
『おい!本当か?』
「間違いないと思いますよ」
『こっちもレーダーで確認!間違いない!海賊だ!距離18億㎞!』
大型の船の通信士が追加の情報をいれてくる。
そうなると、船団の人達はパニックになった。
するとそこに若い男の声が響いてきた。
『落ち着け!まずは落ち着いて、警察と軍に通報するんだ!落ち着いて対処すれば必ず生き残れる!』
明らかにパニックを抑えるためのテンプレートなセリフだったが、それによってかなりパニックがおさまった。
『まずは取り決めした陣形になるんだ!そうすれば海賊など怖くはない!これで引き寄せてから一斉射撃すれば、海賊共をある程度は撃退できる!』
そして男の言葉をきっかけに、船団が責任者の船を中心に傘のように綺麗に並んだ。
どうやら僕が知らないうちになにかの取り決めがあったらしい。
『流石は司教階級の傭兵だ!頼りになる!』
どうやら船団の発案者が雇い主らしく、顔を見たことがないのでちがう支部の人だろう。
僕の本音をいえば、直ぐにでも逃げた方がいいと思うのだけれど、海賊のほうが足が早いし、多少でも抵抗をしたほうが救援がくるまでの時間がかせげるのは間違いない。
それを考えると、この男の提案らしい迎撃もそんな悪い手ではないはずだ。
男はさらにこう続ける。
『とはいえ俺だけではどうしようもない。
今この船団にいる傭兵や戦闘ができるものは協力してくれ。先に迎撃に出ようとしたあの2機の位置まででてくれ』
そうして出てきたのは6機。
これで、僕と、先に迎撃にでようとした2機・司教階級の男を入れて10機となった。
そのメンバーを見る限り、僕が海賊と睨んだ2機のパイロットは両方とも女性だった。
その理由としては、その2人が同じような服を着ていて、顔もよく似ていたからだ。
多分姉妹なんだと思う。
あぶなかった。
あそこで大規模海賊団が来ず、僕があの2人を襲撃したら、あの2人が海賊と判明しても僕が悪人になるところだった。
世間は常に美人の味方だからね。
すると急遽、その10機だけの秘匿回線が、司教階級の男から回ってきた。
『ここからは俺たちだけの内緒話だ。多分あの船団の中に海賊の連絡役がいる。そいつに作戦を聞かせるわけにはいかない』
傭兵は全員が事態を理解しているかもしれないが、海賊推定姉妹の方はどうなのだろう?
海賊同士なのだから、獲物を分け合うという提案をして向こう側に付きそうだけど。
『自己紹介といきたいが時間がない。俺に作戦があるのでしたがってくれ。船団の船からの砲撃で幕を作れば連中は別れるはずだ。そこを応戦する。さらに2機程が連中の背後に回り込んで挟み込む。この辺りが定番な作戦だと考える』
まさに教科書通り、僕でも思い付く作戦であり、効果的な手だ。
まあ海賊もそれぐらいはわかっているだろうけど。
そして問題は、
『それで敵の背後に回る役目だが…』
敵の背後に回る役目だ。
敵が慌てている間に背後にまわる訳だが、もし見つかったら間違いなく撃沈の危険がある。
『そこの薄茶色の船のあんたに頼みたい。あんた多分、騎士階級だろう?』
僕は傭兵と名乗ってないのに、勝手に傭兵だと決めつけて役目を押し付けてきた。
その時の司教階級の男の顔は、学生時代のクソ陽キャと同じだった。
「ああ。了解したよ」
だが、誰かがその役目をやらないといけないのだから断る理由はない。
それに僕が騎士階級なのは間違いないからね。
『…そうか。じゃあよろしく頼む。後は…バト。頼めるか?』
『まかせな!俺が確実に仕留めてやるぜ!』
司教階級の男は、僕があっさり返事をしたのが気に入らないらしい。
多分僕がごねたところに、『ここにいる全員の命がかかっているのに、我が儘を言うな!』とか罵るつもりだったのだろう。
そして自己紹介をしていないのに、他のメンバーを名前で呼んだところをみると、後の6人は司教階級の仲間なのかもしれない。
『じゃあその2人は、こっちの砲撃と同時に向かってくれ。残ったメンバーは、海賊が分かれた方向に半々に分かれて迎撃だ!』
こうして、帝国軍と警察が来るまでの時間稼ぎが開始されることになった。
確定するまでは、犯罪者扱いはできませんよね
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