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モブNo.28:『それは困る!今回の新製品発表会は我が社の社運がかかってるんだ!遅れるのはダメだ!』

レーダーの有効距離について再度ご指摘をいただきましたので、改訂いたしました。

 依頼開始の当日。

 さすがに全員遅刻することはなく、出発地であるギルドの駐艇場(ちゅうていじょう)に揃っていた。

「初めまして。私が責任者のリーガス・バンドルバンです。今回の新製品発表会は我が社にとって大切な発表会です。迅速かつ安全にお願いしますよ」

 生まれつきらしい(こわ)ばった顔で挨拶をしてきたのが、今回の依頼の責任者である、ネイマ商会営業部部長のリーガス・バンドルバン氏だ。

 その後ろでは、中型の輸送船『ランオイタン号』に、社員さん達が商品や食料などを運び入れている。

 なんでもこの輸送船は自社のもので、船を動かす乗組員も社員さんらしい。

 僕たちの仕事は、この中型の輸送船一隻を惑星ガライフまで無事に届けることだ。

 現在時間は午前6時55分。

 出発時間は午前7時。

 24時間かけて惑星ガライフ行きのゲートに移動する。(到着予想・翌日午前7時)

 夜間時(午後10時から翌朝午前6時まで)は、自動航行装置(オートドライブ)に移行しての3人づつの4時間交代制の仮眠時間。

 ゲートを通過したら、惑星ガライフまで14時間の移動。(到着予想・当日午後9時)

 特に問題がなければ38時間で到着・終了となる。

 そのうちに、積み込みが終了し、出発とあいなった。


 出発してからは実に順調だった。

 機械のトラブルもなく。

 元警官のバーナードのおっさんのくだらない話に多少うんざりし。

 モリーゼさんのいじりにセイラ嬢が真っ赤になったりと。

 和を乱すような馬鹿もおらず。

 実に平和な時間が過ぎていった。

 しかし、8時間ほど経過した頃にレーダーに反応があった。

 僕はチェックをした後にアーサー君に報告をいれた。

「あーちょっといいかな?」

『なんですか?』

「2時と3時の間の方向16億㎞の所に、船籍不明の船団を発見。多分海賊じゃないかな」

『こちらも確認しました。このままのコースだと接触する可能性があります。コースを変更するなり、一旦停止してやり過ごすなりした方がよろしいかと』

 セイラ嬢の方も船籍不明の船団を捉えたらしく、アーサー君に報告を入れていた。

『アタシは異論はないよ』

『面倒は少ねえ方がいいやな』

『判断はまかせる』

 残りの3人もセイラ嬢の意見に賛成する。

 安全を優先し、迅速に移動するためには最適だろう。

『わかった。依頼人に許可をもらおう。バンドルバンさん。ちょっとよろしいですか?』

『なんでしょう?』

『実は海賊らしい船団を発見しました。向こうはこちらに気がついていないようですが、このままだと接触する可能性があります。なので、コースを変更するなり、速度を落としてやり過ごすなりしようと思うのですが』

『それは困る!今回の新製品発表会は我が社の社運がかかってるんだ!遅れるのはダメだ!』

 アーサー君が、海賊の発見とそれの回避方法を提案するが、部長さんは(けわ)しい顔でアーサー君の提案を拒否する。

 元々強面なためかなかなかの迫力だ。

『しかし、海賊と接触した場合、戦闘になって余計に時間がかかりますし、場合によっては、ご自身と社員の方に危険が伴いますよ?』

 だがアーサー君はその迫力に負けずに、提案を実行しなかった場合のデメリットを提示する。

 事実、戦闘は時間もかかれば依頼人自身の身も危なくなる。

『部長!安全のためにもプロの指示に従いましょう!』

 ノストゥさんを始めとした社員さん達が、後ろから部長さんに思いとどまるように説得を試みているが、

『ダメだ!少しでも早く会場に到着しないとダメなんだ!』

 部長さんは何をそんなに切羽詰まっているのか分からないが、これはなかなかに面倒だ。

『仕方ない。セイラはそのまま海賊の監視を。ウーゾスさんは引き続き周囲のチェックを』

 アーサー君が仕方なくその指示に従おうとした時、『ランオイタン号』の通信の方から、バチッという音が響き、部長さんが画面から消え、

『申し訳ありません。コースを変更する方法をお願いしてよろしいですか?』

 その代わりにノストゥさんが現れ、美しい笑顔でアーサー君の提案を受け入れた。

 意外に怖いなこの人…。


 そして提案どおりコースを変更して進んでいると、セイラ嬢から通信が入った。

『ちょっとよろしいですか?』

「はいはい。何事です?」

 何か見つかったのかと思い慌てレーダーを見直すが、変わったところはなかった。

 するとセイラ嬢は意外なことを言ってきた。

『まずは、先日睨み付けてしまってすみませんでした。貴方の船が本当に20億㎞の探査が出来るとは思ってなかったものですから』

 セイラ嬢が真剣な表情で謝罪をしてきたのだ。

「あー。あの時の。別に気にしてないから」

 特に気にはしていなかったのだが、彼女は気にしていたらしい。

『以前、20億㎞の探査ができるといったのに、実際は5億㎞しか出来なかった人がいて、その人のせいで色々不幸なことがあったので…』

 なるほど、あの時の視線は疑いの視線というわけか。

 いるよね。出来もしないのに大口叩いて結局迷惑かける奴が…。

『そのあたりは見抜けるようにならねえとな。彼氏の尻ばっか追っかけんなよ?』

『なっ!なにをいってるんですかっ!』

 そこにモリーゼさんがちゃちゃをいれてくると、セイラ嬢は真っ赤になって反応する。

 完全におもちゃにされてるなあれは…。

 雰囲気を変えてくれたのはありがたいけどね。


 それから3時間後。

 幸いにも、海賊とおぼしき船籍不明の船団がこちらの進路とはまったくの逆方向に進路を変更をし、姿を消していった。

 海賊だとしたら、近くに別の獲物を見つけたからということだから厳密には喜んで良いことではない。


 それからさらに4時間が経過し、夜間の交代仮眠の時間がきた。

 最初の仮眠はアーサー君・セイラ嬢・バーナードのおっさんの3人だ。

 強力なレーダー持ちの僕とセイラ嬢が同時に休憩は出来ないし、セイラ嬢の希望を叶えてやろうとすればこういう形になるのは必然だ。

『ランオイタン号』の方も交代睡眠の時間になったらしく、当直らしい人が軽くあいさつをしてきたりした。

 実際のところ、護衛の仕事で一番辛いのはなにもない時間だ。

 何も起こらない方がいいが、何もないと退屈になり、眠くなってくる。

 さらには、僕やセイラ嬢のように強力な探査装置(レーダー)をもっている場合、レーダーの変化を見逃すわけにもいかないから、どんな退屈で眠くなっても眠ってはいけない。

 そういう時にありがたいのは無駄におしゃべりをしてくる奴なのだが、一番しゃべりそうなモリーゼさん。いや、モリーゼはしっかりと眠りこけていやがった。

 いびきもしっかり聞こえるので間違いない。

 とりあえずあいつの回線だけに繋いで、大音量の警告音(アラート)でも流してやろうと思っていたところ、

『よう。ちょっといいか?』

 レビン君が話しかけてきた。

 彼から僕に話しかける話題は無いように思えるが、いったいなんなのだろう?

『あんた、情報屋のパットソンとは長いのか?』

 すると会話に出てきたのは情報屋の友人(パットソン)の話だった。

「高校からの友人だからね」

 それを聞くとレビン君はちょっとだけ驚き、

『だったら、好きなものとか知らないか?食べ物でもアクセサリーでもなんでも良いからさ!』

 熱のこもった質問を投げ掛けてきた。

 なんだろう?これはあれか?

 もしかしてレビン君はゴンザレスに惚れてるってやつなのか!?

 それを考えるとゴンザレスは正体を話してないのだろう。

 まあ、聞かれない限り答えないとおもうけどね。あいつの性格からすると。

 だとすると、早めに真実を話してあげた方がいいのか?

 それとも、『自分ではないが恋人がいるはずだよ』と、真実を知らないうちに失恋させてやり、前を向かせた方がいいのか?

「こ…高校の時はアニメやラノベが好きだったし、今でも好きだと思うよ…」

 僕はどちらも告げる勇気がないので逃げに走った。

 ちなみにゴンザレスは僕のオタク仲間でもあるので、アニメやラノベが好きなのは真実だ。

『そ、そうなのか…』

 微妙な顔をするレビン君。

 まあ、いまのゴンザレスのキャリアウーマンみたいな外見からは想像しづらいよな。

 それから彼は、なんかの、まあ間違いなくその手のサイトだろう。を、交代の時間になるまで検索していた。


 なおモリーゼがずっと寝ていたことは報告させてもらい、彼女を起こす時は大音量の警告音(アラート)をリクエストしていたと連絡しておいた。

平穏な仕事風景です、


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[一言] いくらでも作れる義体女の外見に惚れてもねぇ。 しかし問題なさすぎるぞ。どうなっているんだ。
[良い点] レビン君がパットソンの正体を知ったら悲劇ですね(^^) レビン「今さら何を。とっくに知ってるよ。だかれいいんじゃないか!」
[良い点] 平和だなぁ〜(うん、何も来ないよ。多分…) [一言] モブの、レビンくんに気を回しつつ、逃げに走る様が彼らしいですね。 真実を知ったレビンくんがいつ気がつくのか気にしつつ、次回をマターリ…
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