モブNo.215∶「医学はどれだけ発達しても、死人を生き返らせる事だけはできないからねえ……」
惑星ノイヒスでの警備の仕事が終わり、無事にイッツに帰り着き、ローンズのおっちゃんから報酬を受け取り、2、3日ゆっくりして、明日くらいからはそろそろ仕事にと思った日の朝。
とんでもないニュースが飛び込んできた。
『……訃報です。現皇帝陛下の大叔父であるアルティシュルト・ビンギル・オーヴォールス公爵閣下が、昨日心臓発作のため、ご逝去なされました……』
このニュースには帝国中が驚きの声を上げ、それはすぐに悲しみの声に変わった。
その日の夜にあった緊急のテレビ特番では、公爵閣下の生い立ちだの功績などが紹介されていた。
葬儀は、本人の希望で国葬にはせず、領地の惑星ギールフォートにて近親者と領民だけで厳かに行われるらしい。
それに伴い、各惑星の星都では、献花台が設けられる事になったそうだ。
正直この情勢で公爵閣下が亡くなったのは非常にまずい。
先だっての皇帝陛下を庇った傷はすでに完治しており、心臓発作の原因ではないらしい。
いままで、公爵閣下がいたから皇帝陛下に従っていた。なんて日和見貴族もいるだろうし、皇都に攻め寄せた連中をロクな戦闘もせずに無力化した公爵閣下を恐れていた、反皇帝派の連中も動き出すかも知れない。
なので当然、陰謀論はそれこそ数え切れないほど上がってきた。
いくら科学が進んでも、死んだ人間を生前のままに生き返らせることはできない。
クローンに記憶を転写してというやり方なら不老不死に近いようなことになるが、これには重大な問題があるというし、厳密には死者蘇生ではない。
しかしそんなことを考えてしまうほど、公爵閣下が亡くなったのは大きな損失だ。
できれば何事も無いといいけれども。
☆ ☆ ☆
【サイド∶第三者視点】
惑星ギールフォート。
この惑星は今、哀しみに包まれていた。
この惑星の主人であった、アルティシュルト・ビンギル・オーヴォールスが永遠の眠りについたからである。
葬儀の喪主は、息子のテリー・ランゲイス・オーヴォールス侯爵が勤め上げ、娘であるオリミア・ミリク・ギルブールと、銀河大帝国第38代皇帝、アーミリア・フランノードル・オーヴォールスは、近親者だけということもあり、声を上げて泣いていた。
屋敷の外では、領民たちが公爵の死を悼み、献花と嗚咽と感謝の声は夜遅くまで止むことはなかった。
公爵の遺体は翌日には火葬され、生前の希望どおり、彼の妻であるアメリア・マイニ・オーヴォールスの墓所の隣に埋葬される予定だ。
そしてその葬儀の日の夜。
生前のアルティシュルト公爵が愛していた温室で、植物達に如雨露で水をやっている人物がいた。
それを発見した使用人が声をかける。
「オリバー様。そのようなことは私達がいたしますので、お部屋にお戻りください」
そこにいたのは、アルティシュルト公爵の孫であるオリバー・レイミス・オーヴォールスであった。
「僕がやりたいんだ。お祖父様はここの管理や水やりはご自分でなさってたんでしょう?」
オリバーは水やりの手を止めず、にっこりと微笑みながら、メイドに質問を投げかける。
「は……はい。日を跨いだお出かけの時や、名誉のご負傷をなされて入院なさったとき以外は、ご自身で毎日水やりやお手入れをなさっていました」
メイドはオリバーの美貌に押されつつも、しっかりと質問に答えた。
「だから、ここにいるとお祖父様と一緒にいるような気がしてくるんだ。僕は病弱でなかなかお会いできなかったから、余計にね」
オリバーは哀しそうに笑みを浮かべる。
「それは……公爵閣下もお喜びになるでしょう。ですがあまり無理をなさらないように」
「わかったよ」
メイドの気遣いを無下にすることなく、オリバーは如雨露をしまい、メイドの後をついていく。
そしてふと振り返ると、仄かな笑みを浮かべた。
★ ★ ★
その日は朝から、惑星イッツの星都であるイツィスにやってきた。
僕たちウーゾス一家は、父さんに掛けられた冤罪の名誉回復、違法に支払わされた借金の返金、同じ相手に再度被せられかけた濡れ衣の消滅と、間接的とはいえ、公爵閣下に助けられた形になるので、その恩義に報いるために献花にやってきたのだ。
惑星イッツの献花台は星庁舎の前に設置してあり、そこにはすでに大量の花束が献花してあり、何人もの人達が黙祷を捧げていた。
現皇帝であるアーミリア陛下の父上である第37代銀河大帝国皇帝、ルバナウス・エードル・オーヴォールス陛下が実行した『帝域改善法』を支持し、多くの反発する貴族達を抑えたのが公爵閣下であるため、民衆からは先帝・現皇帝の次くらいに感謝されている人物だったりする。
噂だと、密かに全国行脚して悪徳貴族を成敗してたなんてものもある。
僕は、近くの花屋で買った花束を献花台に置き、冥福を祈った。
そうして僕は献花を終えると、傭兵ギルドがあるパルベア市に戻ってきた。
傭兵ギルドなら、星都にあってもよさそうだけど、星都だと広大な駐艇場を確保する事ができないため、土地のあったパルベアに建設したらしい。
星都やパルベア市の街中は公爵閣下の喪に服している感じで、沈んでいる雰囲気だったが、傭兵ギルド内部は、何故か熱気に包まれていた。
その理由をローンズのおっちゃんに聞いたところ、
「そりゃ当然だろ。今まで公爵閣下がいたおかげで抑えられてた連中がどうでるかわからないんだ。警備に戦闘準備、治安維持のための海賊退治の依頼が殺到してるんだよ」
とのこと。
ある程度は予測していたけど、ここまで反応が早いのは思ってもみなかった。
なので僕は小規模な海賊退治の依頼を受けてから、傭兵ギルドを後にした。
ギルドを出た後、僕は闇市商店街に向かった。
いつもなら賑やかなここも、公爵閣下の訃報で静かに……なっていなかった。
亡くなったことを哀しんではいるのだろうが、
『我等が公爵閣下を讃えて! 構え筒! 撃てぇ!』
と、博物館行き確実の火薬式ライフルを何丁も揃えて弔銃を鳴らしたり。
『偉大なる御方の魂に安寧の歌を!』
と、シスターの服を着た人達が、街中で福音音楽の合唱をしていたり。
『亡くなったのは悲しいが、いつまでも泣いてちゃあ公爵様が安心して成仏できねえ! こんな時こそ仲間と一緒に騒いで飲め! 食え! 今なら1人1杯! 生ビール大ジョッキ無料だよ!』
と、呼び込みをしている『冒険者ギルド風居酒屋』の大将など、よりやかましくなっていた。
例の肉屋も、『本日全品30%OFF!』とだけ張り紙をしているだけだったが、お客さんはいっぱいだった。
僕は、ちょうど揚げたてだった『地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』=コロッケ
を6個と炭酸飲料2本を買って、ゴンザレスのところに向かった。
「よう」
「おう。言っとくけど公爵の心臓発作に裏はないぞ」
薬局内に入るやいなや、そんなセリフが飛んできた。
「早速調べたのか」
「情報屋なら誰でも調べるさ」
僕は、コロッケと炭酸飲料をカウンターに置き、同時に調べてほしい事を書いたメモと、現金の入った封筒もカウンターに置く。
「これを頼む」
「わかった。人来たら対処頼むわ」
ゴンザレスはコネクターをうなじに差し込むと、目を閉じて動かなくなった。
ちなみにこの時に人が来た場合、僕が『お客さんだよ』と、声をかける事で、儀体に仕掛けたプログラムが反応し、本人の意識が戻ってくるようになっている。
幸いお客さんは来ず、30分ほどで調査は終わった。
「特に裏も無さそうだな。変な横槍がはいらなきゃスムーズに終わるだろう」
そう言ってコネクターを外しながら、データチップを渡してくれた。
そうしてコロッケを手に持つと、
「俺はあんな重体でも何とか助かったのに、心臓発作であっという間かあ……」
と、つぶやきながらコロッケに齧りついた。
「医学はどれだけ発達しても、死人を生き返らせる事だけはできないからねえ。せめてご冥福を祈ろうか」
僕は炭酸飲料のプラボトルを開けると、軽く掲げた。
「そうだな」
それに合わせて、ゴンザレスもプラボトルを掲げた。
弔銃(ちょうじゅう、英語:Three-volley salute 、「斉射3回敬礼」の意)
∶公的な葬儀の際、弔意を表すためにライフル銃を用いて発射される空砲である。大砲で行うものは弔砲と呼ばれる。
大好きな公爵閣下ですが……病には勝てず…
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




