モブNo.214∶「参加してないので関係ない。勝ったと思いたいならご勝手に」
結論から言うと、今回のディレックス・スクラモン伯爵の襲撃は失敗した。
こちら側の迎撃が成功し、伯爵本人とその配下達を捕らえることもできたからだ。
その主な理由として、伯爵の軍は、今回の戦争で当主を亡くしたり、貴族籍を剥奪されたりした元貴族や、雇われた海賊、軍隊の敗残兵の集まりなどで編成されていたこともあり、練度も連携もガタガタな上、伯爵の指揮も酷いものだったからだといえる。
そのおかげで、ウィリアム・マードック男爵側の被害は最小限に抑えられた。
男爵の指揮も正直褒められたものでは無かったが、伯爵軍のお粗末具合に加え、警備隊や領地軍の士気の高さと、彼等をフォローするように動いた傭兵達のおかげで、勝利をもぎ取ることが出来たというところだろう。
ちなみにあの姉弟が勝手に始めた撃墜スコア勝負だけど。
どうやら姉弟では姉の方が勝ったらしく、弟がやたら僕にスコアを聞いてきた。
なので、
「参加してないので関係ない。勝ったと思いたいならご勝手に」
と言っておいた。
伯爵を撃退した後は、契約終了まで警備の仕事をこなすだけだが、数日の間は実に平穏で、トラブルもなく、あの姉弟も絡んで来ることなく過ごすことができた。
しかし、担当分の最終のシフトが終了し、契約終了までの拘束時間が16時間を切ったときに、またあの庶務統括マネージャーという女性が、部下を伴って傭兵達が集まっている休憩室にやってきた。
「皆様ご注目を。大切なお話があります」
彼女は良く通る声で全員に呼びかけた。
その言葉に、傭兵達はマネージャーに視線を向ける。
そして注目された状態で、彼女はとんでもないことを言い放った。
「それではただいまから、皆様に宇宙港の施設使用の料金のお支払いをしていただきます! 内訳は、駐艇場の使用料、燃料代、宿泊施設の料金、食事代、食堂とこの休憩室の設置費・維持費・使用料、トイレや浴室などの使用料、施設内の清掃費など含めまして、1人50万クレジットになります。現金、データマネーのどちらでも大丈夫ですので今すぐお支払いを」
その言葉に、傭兵全員が、目を見開いて固まってしまった。
今回の警備の依頼の条件に、『ノイヒス宇宙港内にある警備隊基地内にある宿泊施設の無料使用・食事の無料支給。宇宙船の燃料支給』というものがある。
リアルな話として、駐艇場の使用料、燃料代・食事代・宿泊費・燃料代などその他を支払ってるなら、20〜30万くらいはかかってはいるだろう。
しかしそれは依頼主である男爵がまとめて支払うというのが、雇用契約の条件であり、傭兵側に請求するべきものではない。
そもそも、依頼の報酬の倍の50万なんて利用料金も法外な気がする。
「貴方達が施設を使用していたのは紛れもない事実です。もしお支払いいただけないなら警察を呼ぶことになりますよ?」
傭兵達が戸惑っていると、マネージャーは勝ち誇ったようにこちらを見つめ、支払いを促した。
傭兵全員が、この頭のおかしい女をどうしてやろうかと考え始めたとき、
「随分とおかしな要求をしているようですね。ファルナ・エリフィパス、惑星ノイヒス宇宙港、庶務統括マネージャー殿」
傭兵達の依頼主であるウィリアム・マードック男爵が、スーツ姿の人物と、警官隊を引き連れて休憩室に姿を現した。
「彼等傭兵の諸費用は全て私が支払い済み。不足分があったとしても私に請求がくるはずだ」
男爵はにっこりしながら、マネージャーに支払い義務は自分にあると通達した。
「しかし! こちらには入金の形跡が無かったのでてっきり利用者に請求するものだとばかり……」
「そんなはずがないだろうが!」
マネージャーは自分の行動が正当であると説明しようとしたが、男爵の横にいたスーツ姿の人物が声をあげてそれを邪魔してきた。
「港長……」
どうやらスーツの人は、惑星ノイヒス宇宙港で一番偉い人である港長だったらしい。
その港長さんを、マネージャーは物凄い形相で睨みつけた。
「こっ……今回の警備の依頼にかかる全ての費用は、依頼を発注した時に全て支払っていただいているんだ! それを依頼を受けてくれた傭兵に支払わせようなどと……何を考えている! 他にも、傭兵達にデブリ除去をさせようとしたらしいな。さらには男爵様に伯爵追撃まで要求したそうじゃないか!」
港長さんはその迫力に押されながらも、指摘するべきことを指摘した。
「私はこの宇宙港の為に利益をだそうと…!」
「残念だが」
言い訳を始めるマネージャーの言葉を遮り、厳しい顔つきになった男爵が、彼女に最後通告を言い放った。
「ファルナ・エリフィパス嬢。君が伯爵の部下と繋がっていたことには既に調べがついている。ここが伯爵のものになったあかつきには、君を港長として迎え入れるという約束があったそうだね。伯爵の部下本人から聞いたから間違いはない。ここの使用料の徴収は逃走資金にでもするつもりだったのかな?」
男爵の指摘に、マネージャーは絶望の表情を浮かべながらがっくりと床に崩れ落ちた。
そして港長さんを睨みつけ、
「あの無能じゃなく、私が港長になっていたらこんな事しなかったわよ! どうしてあんな無能な奴が港長に選ばれたのよ!? だいたい……」
恨み言と罵詈雑言を吐きながら、警官隊に引きずられていった。
後に分かったことだが、あのマネージャー、ファルナ・エリフィパス嬢は、エリフィパス商事という会社社長の娘で、父親に反発してコネなしで宇宙港に就職し、初めは人当たりも良い優秀な職員だったらしい。
しかし、実家のライバル会社の令嬢で、コネ入社した無能な女性の後輩に先に出世され、色々と理不尽な仕打ちや嫌がらせをされたうえに、彼氏も奪われてしまったという。
さらには後輩の実家のせいでエリフィパス嬢の実家まで潰されてしまったのだそうだ。
それがきっかけで権力志向に取り憑かれ、それからはあっという間に出世し、後輩の地位を追い抜いて今の地位につくと、後輩の不正行為を暴いて退職させたという。
そして、先の戦争の直後に前任の港長が退職する事になり、自分こそが次の港長だと思っていたのに、自分より能力が劣っていると思っていた男が港長になった事に納得が出来ず、成果を上げ、自分の方が優秀だとアピールするために色々やらかしたそうだ。
傭兵達にデブリ除去を無償でさせようとしたのもその一例らしい。
権力志向になっちゃった原因は同情しなくはないけど、そのせいで目が曇ってしまった。
後輩にお仕置きしたあとに、目が覚めればよかったのにねえ。
まあそのへんは自業自得かな。
そうして最後のシフトの連中が帰ってくると、男爵は、
「今回ディレックス・スクラモン伯爵の襲撃をしりぞけられたのは、領地軍・警備隊・傭兵の諸君らの力のおかげだ! ありがとう! 心から感謝する! 私はこれからも、この惑星ノイヒスを守れる自信がついた! 諸君らへの報酬は期待して欲しい!」
そう、全員の前で頭を下げて感謝の言葉を告げた。
マネージャーが支払いを請求した時の傭兵達の表情は、宇宙猫をご参考ください
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