モブNo.211∶「ねえ。ちょっといいかな?」
庶務統括マネージャーさんとやらが居なくなったので、ようやく待機休憩に入ることが出来た。
なのでまずは、警備隊基地内にある宿泊施設に向かう。
そこは完全にカプセルホテル状態で、明らかに急造したのが丸わかりだった。
とはいえ、食事が無料なのと、コインランドリーや風呂は宇宙港のものだけに広くて設備がよいので、これなら食事と風呂とコインランドリーだけ借りて、寝るのは自分の船の方がいい。
トイレはタイミングかな。
ともかく先ずは、着替えを持って風呂に入り汗を流す。
その後はコインランドリーで脱いだ服を洗濯する。
風呂に入っている間に洗濯をしてもいいのだけど、僕は現場で見ている派だ。
なによりこの時間に漫画を読むのがなかなかに楽しみだったりする。
そこにさっき見た、黒髪ショートヘアに小柄な体格ながらも、かなり立派なものをお持ちの姉と、女性の傭兵に似た顔立ちだが、身長が高く、髪型もワイルドなイケメン弟の姉弟が現れた。
それぞれに機械に服を入れて回し始めると、姉弟でボソボソと何かを話し始めた。
僕が彼等を気にすることなく漫画を読んでいると、
「ねえ。ちょっといいかな?」
「え? なっ……なんですか?」
姉の方がいきなり僕に話しかけてきた。
こういう場合、大抵はろくなことではないのだけれど、返答しないほうが印象が悪くなるので、しっかりと返事をする。
「あなた、所属はどこなの?」
「ああ……イッツ支部だけど……」
「そうなんだ。私達も最近イッツ支部に移籍したばっかりなんだよね」
彼女は、自分達が移籍組だと告白する。
傭兵の移籍は割と簡単だ。
『移動申請書』に移籍したい支部の名前を書き、今現在所属している支部と、移籍したい惑星の支部の両方に提出するだけだ。
しかしその傭兵が有能だったりする場合は、元の支部から『まった』がかかり、支部間で色々もめたりする。
僕の表情からそのあたりを察したのか、
「私達、以前は惑星ダイート支部にいたのよ」
姉の方が以前の所属を晒した。
それを聞いた瞬間、なるほどと納得した。
少し前に傭兵ギルド全体に綱紀粛正の命令が下り、各支部の色々な膿が排出されていった。
そのなかでダイート支部はかなりすごかったらしく、全ての職員が、何らかの不正に関わっていたというのだ。
それでよく組織が回っていたものだと感心する一方、あまりの堕落っぷりに呆れてものが言えなくもなった。
しかしダイート支部の職員達は平然としていたという。
自分達がいなくなると、支部が機能しなくなると理解しており、それ故に処分は軽いものになると高を括っていた。
しかし、ゼイストール氏の祖父である総ギルドマスターは、大胆な手を打った。
職員全員を懲戒解雇、場合によっては警察への通報を実行し、ダイート支部の機能を完全停止してしまったのだ!
傭兵達に対しては『他の支部にいって稼ぐも、支部が再建されるまで待つも、自由にして構わない』という宣言があったという。
まあ事情はわかった。
しかし、僕に話しかけてきた理由は謎のままだ。
「あの……それで私に何か用ですか?」
「イッツに所属してる『羽兜』とか『白騎士』を知ってるでしょ?」
「まあ、名前くらいは」
「私達が聞きたいのは彼等の評判なの」
「まあ、人気があるのは知ってますが」
ロスヴァイゼさんの事は絶対に話せないのは当然だけど、ランベルト君やアーサー君のことは本当によくは知らない。
一緒に仕事をした、嫌な方向に絡んでこない人と言うだけだ。
後はランベルト君の失禁の話を知っているけど、それは言ってはいけないだろう。
「それを聞いてどうするんですか? えっと……」
ある程度の情報なら簡単に手にはいるだろうに、なんで僕に聞いてくるのかを尋ねたところ、
「失礼。自己紹介がまだだったわ。私はシーラ・ショフルゲート。こっちは弟のボージェス」
「ボージェス・ショフルゲートだ。姉弟そろって司教階級だ!」
向こうが自己紹介をしてきたので、
「どうも。ジョン・ウーゾスです。階級は騎士階級」
と、挨拶と自己紹介を返した。
「それで。なにか情報はないかしら?」
シーラ嬢が獲物を狙うような目つきで睨んでくるけど、本当にロクな情報は持ってないんだよね……。
「アーサー君は、女性にモテるのと、許婚者がいるのと。ランベルト君はパートナーのロスヴァイゼさんと仲がいい。くらいですかね」
実際僕がもっている情報はこれぐらいだ。
「なんだよ。ロクな情報がねえな。旋回の時のクセとか、苦手な戦闘とかねえのかよ?」
「知りませんよそんなの」
そもそもそんなのが話題になっているなら、即座に弱点の克服をしているだろう。
「イッツ支部はほかにも色々粒揃いだっていうからさ、そこでトップをとれたら最高でしょ」
そういうと、姉弟そろってニヤリとした笑みを浮かべた。
「まあ貴方も努力してランクをあげることね」
「いつになるかはわかんねえけどな」
そういうと姉弟はどこかに行ってしまった。
どうやら彼等は、コインランドリーの待ち時間は別の場所に行くタイプらしい。
口調から察するに、ほのかに馬鹿にされたみたいだけど、気にするほどのことじゃない。
昔の貴族傭兵のほうがよっぽど酷い罵声を浴びせてきたからね。
そんなおり、丁度洗濯が終わったらしい。
僕は洗濯物を取り出すと、きちんと畳んでから、コインランドリーを後にした。
☆ ☆ ☆
【サイド∶シーラ・ショフルゲート】
やっぱりあまりいい情報は取れなかったなー。
とはいえ、『羽兜』や『白騎士』『人喰薔薇』がかなりの実力者なのは察することができたわ。
それに、綱紀粛正で膿を出したあとのイッツ支部は基本的に質が良くなってきてて、騎士階級でも実力者が多いって聞いてたから実戦になった時が楽しみね。
まあ、さっきの人は覇気もなんにもなかったけど……。
真面目そうではあったから、警備や護衛には役に立つってところかな。
ああいった人も組織には必要ではあるわよね。
それにしても、あの庶務統括マネージャーはなんなのかなあ?
本当に偉い人なんだよねえ?
ネキレルマの責任者ってみんなああなのかなあ?
だとしたら今後は面倒くさいことになりそうだなあ……。
★ ★ ★
書籍用のSSの締め切りがヤバいので、完成するまで更新が止まります……
申し訳ありません。
あと、庶務統括マネージャーの外見イメージですが、本編では某家元にはしましたが、虚弱体質な某理事長代理も考えてました
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




