モブNo.210∶「ほっとけよ姉貴。そのババアに説明するだけ時間の無駄だぜ」
惑星イッツを出発し、ゲートを使用して3日間の移動を経て、旧ネキレルマ星王国内にある資源惑星の一つ・惑星ノイヒスの軌道衛星上にあるノイヒス宇宙港に到着した。
宇宙港内にある警備隊基地内は、人手不足なためか人影はまばらだった。が、異様な緊張感が漂っていた。
この警備隊の責任者であり、惑星ノイヒスの開発責任者に抜擢された、旧ネキレルマ星王国の男爵、ウィリアム・マードック氏の話によると、
「資源管理に関して、帝国は管理を地元民であり信頼のおける私に任せると発表し、実際に私が管理・統治しているけど、それを信じてない連中がいて、施設を奪還しにくる可能性がある」
とのことだ。
そして、男爵に管理を任せているという事実を信用していない連中は、2つの集団に分かれているらしい。
片方は市民団体の集まりで、帝国が本当に管理権を男爵に渡してくれるのか不安だという連中。
こいつらは穏健派で奪還というよりは抗議をしてくるタイプらしく、ゴンザレスの情報網にも引っかからなかったらしい。
どうやら、帝国の軍隊が撤収してもなお信じられないうえ、僕達帝国から来た傭兵も疑っているらしい。
が、正規の警備隊がネキレルマ出身の人達だけで構成されれば落ち着くだろうと、男爵は考えている。
そしてもう一つが、旧ネキレルマ星王国時代にこの惑星ノイヒスの領主だった、ディレックス・スクラモン伯爵の勢力で、彼等はゴンザレスの情報にもあったとおり、武力で奪還を考えている連中だ。
しかしこのディレックス・スクラモン伯爵は、ネキレルマが戦争を開始するときには、資源を守るという理由で参戦せず、ネキレルマが敗北したとわかると、全ての財産を持って逃げ出し、領地を帝国に明け渡した。
そして帝国の手によって領地の救援、採掘機械や設備の一新、運用資金などが提供され、ウィリアム・マードック男爵が帝国によって開発責任者に任命された途端に領地の返還を求めてきたそうだ。
しかし、『調印式』により旧ネキレルマ星王国の全ては帝国の所有になっており、現在は人物の精査をしながら、良識派だった旧ネキレルマの貴族に再配置をしている段階だ。
それで配属されたのがウィリアム・マードック男爵である。
彼は元は領地を持たない法衣貴族で、他の良識派の貴族と共に、国民の生活を改善するべく尽力していたが、カイエセ・ドーウィンの手により投獄されていた。
男爵本人は、人格・能力共に優秀、おまけにイケメンという三拍子そろった、あきらかな主人公様な人物だ。
それとは逆に、ディレックス・スクラモン伯爵は『領地経営の資格は皆無。場合によっては捕縛の必要性あり』と判断された。
配置された場合、また以前と同じ様に圧政で市民から富を絞り尽くすのは目に見えている。
なにより、侵略者から守りもせず逃げ出した人物を、領民が受け入れるはずがないし、そんな人物を開発責任者にするわけがない。
すると伯爵は、市民団体の集まりと同じく帝国が本当に管理権を渡してくれるのか不安であり、本当に渡す気があるのなら、本来の統治者である自分に渡すべきだと主張しはじめたという。
そのスクラモン伯爵がいつ攻めてくるか分からないため、異様な緊張感が漂っているのだ。
幸い宇宙港内には市民団体がいなかったこと、元の統治者が酷かったこと、帝国側の支援が手厚かったことなどがあって、帝国から来た傭兵に対して、悪感情を向けてくる人達はいなかった。
そうして早速警備の仕事が始まった。
今回は『調印式』と同じで、その場に留まって、何かが近づいて来たら報告し、司令部の指示に従う。
それ以外はその場にじっとしているだけでいいという『蜘蛛の巣シフト』だった。
まあこのほうが見逃しは少ないかな。
僕は初回からのシフトで、レーダーとにらめっこしながらきちんと仕事をこなしていた。
幸い、というかなんというか、今回の仕事の現場には知り合いは一切おらず、話しかけられる緊張感もなく仕事に集中することが出来ていた。
しかし、僕達傭兵が最初のシフトが終わって宇宙港内部の警備隊基地に戻ってくると、宇宙港の職員の制服を着た中年の女性(30〜40代)が待ち構えていた。
少々キツイ印象はあったが、美人といって差し支えない人物で、キャリアウーマンという言葉がぴったりな人物でもあった。
そしてその彼女から、とんでもない言葉が発せられた。
「傭兵の皆様に通達がございます。傭兵の皆様の次回からの警備業務の最中、宇宙塵の回収も実行していただきます。帝国の傭兵は宇宙塵の回収も引き受けるとの事。業務の片手間でよいので、無償でお願いします」
という内容で、はいわかりましたと言うわけにはいかない内容だった。
ネキレルマではどうかは知らないが、帝国では、惑星周辺にあるデブリ除去の仕事は、許可を受けた専門業者でなければやってはいけない事になっている。
理由としては、デブリの種類によっては大気圏に落としたりするとヤバいものとかもあり、その辺りの判断権限が関係しているらしい。
つまり、僕が以前受けたデブリ除去は、あくまでも専門業者の補助であって、僕達傭兵が処理したわけではない。
それに、デブリ除去をするためには専門の装備やコンテナも必要だ。
それをこの女性の職員さんは、警備の片手間に無償でやれと言ったのだ。
ネキレルマでは必要無かったのかもしれないが、帝国に併合されたからには帝国の法律に従ってもらわないといけない。
しかし、併合したばかりではあるし、知らない場合もあるだろうと、1人の傭兵が説明を始めた。
「すみません。ネキレルマではどうだったかは知りませんが、帝国では惑星近くのデブリ除去は専門の業者がいないと実行してはいけないと法律が敷かれています。ですからデブリ除去のほうはお受け出来ないんです」
その傭兵は、黒髪ショートヘアに小柄な体格ながらも、かなり立派なものをお持ちの女性の傭兵だった。
説明は簡単ではあったが、分かりやすい内容だったと思う。
しかしその女性職員は、
「知らないわよそんな法律! 貴方達の雇い主であるノイヒス宇宙港の関係者である、庶務統括マネージャーの私の命令なのよ! おとなしく従いなさい!」
と、ヒステリックに怒鳴りつけた。
傭兵の女性がどうしようと言う表情をしていると、
「ほっとけよ姉貴。そのババアに説明するだけ時間の無駄だぜ」
女性の傭兵に似た顔立ちだが、身長が高く、髪型もワイルドなイケメンの青年が口を挟んできた。
内容から察するに、女性傭兵の弟なんだろう。
その彼の発言には周りの傭兵達も同意を示し、人によってはニヤニヤと馬鹿にしたような表情を浮かべていた。
確かに警備隊基地は宇宙港内にあり、僕達の宿泊・停泊地も宇宙港の内部だ。
しかし、僕達傭兵を雇っているのはウィリアム・マードック男爵と銀河大帝国政府の連名であり、ノイヒス宇宙港ではない。
しかも将来的には警備隊専用のコロニーが用意され、そのコロニーは急ピッチで建造されているらしい。
つまり、庶務統括マネージャーだろうがなんだろうが、宇宙港の職員の彼女に、傭兵に対しての命令権はないのだ。
勿論、傭兵に対しての苦情であったり、使用施設の変更であったりなら従う必要は出てくるが、この場合は違うだろう。
傭兵達があからさまに自分を馬鹿にしていると理解した彼女は、悔しそうな、そして恨みがましい表情をしながらその場をあとにした。
中年女性職員の外見は、某家元ににていますw
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追記
年末年始は諸用や書籍用おまけSSなどがあり、更新を休ませていただきます。
ご理解のほどよろしくお願いします




